著者
浜 夏樹 黄 炎 兼光 秀泰 大山 裕二郎 馬 強 羅 波 李 果 太田 宜伯 楠 比呂志 川上 博司 Tomas J. ACOSTA 奥田 潔 王 鵬彦 石川 理
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.119-123, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
13
被引用文献数
1

神戸市立王子動物園のジャイアントパンダにおいて2007年の発情時に新鮮および冷蔵保存した精液を用いて3日間連続で人工授精(AI)を行った。AIの適期は尿中エストロングルクロニド濃度の測定から推測した。人工授精後は尿中プレグナンジオールグルクロニド(PdG)濃度の変化を監視した。PdG濃度は妊娠後期に過去6年間と比べると異常な変動を示した。結果的に最終AI後137日目に破水し,さらにその9日後に死産した。
著者
木下 こづえ 稲田 早香 浜 夏樹 関 和也 福田 愛子 楠 比呂志
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1034, 2009 (Released:2009-09-08)

【背景】ユキヒョウは単独性の季節多発情型交尾排卵動物であるにもかかわらず、国内の飼育下個体群は主に施設面での制約のため雌雄を通年で同居させている場合が多い。このような本来の生態とは異なる状態で飼育すると、繁殖を含めた様々な生理面に悪感作が生じると考えられるが、これを科学的に証明した報告は少ない。そこで本研究では、飼育方法の違いが雌の繁殖に及ぼす影響を内分泌学的側面から詳細に検討した。【方法】妊娠歴のある2頭の雌AとBおよび妊娠歴のない雌Cをそれぞれ2007年4月から1年間および2006年6月から3年間にわたって供試した。前2者は雄と通年別居飼育を行い、本種においてエストラジオール-17β(E2)と正の相関関係にある発情行動(Kinoshitaら, 2009)が見られた日にのみ雄と同居させた。Cについては研究1年目は雄と通年同居飼育を行い、2年目は発情行動が見られてから雄との同居を始め、3年目は再度通年で同居飼育を行った。研究期間中週2~7回の頻度で新鮮糞を採取し、その中に排泄されたE2およびコルチゾールの含量をKinoshitaら(2009)の方法に準じてEIA法で測定した。【結果】通年同居飼育を行わなかった場合の年間糞中E2濃度の変動幅は、雌A、BおよびCがそれぞれ0.13~5.44、0.11~12.03および0.19~13.05μg/gであり、Aは1月からBとCは10月から上昇し始め、3頭ともで上昇期間中に交尾行動が確認された。一方、通年同居飼育を行ったCのE2濃度は、初年度が0.11~6.45で、3年目が0.07~4.44μg/gであり、ともに通年同居飼育を行わなかった2年目よりも低く明確な上昇も見られず、常に雄が居たにもかかわらず両年とも交尾行動はなかった。またCにおいて、通年同居を行った年の糞中コルチゾール濃度は0.26~11.20μg/gの範囲で変動し、通年同居飼育を行わなかった年の0.05~6.58μg/gに比べて有意に高い値を示した。以上の結果から、ユキヒョウでは本来の生態に反する通年同居飼育を行うと個体にストレスが掛り、繁殖能力も低下する可能性が高く、種の保存を目的とした飼育下個体群管理には別居飼育が有用であると考えられた。
著者
楠 比呂志 土井 守
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.281-286, 2009-02

希少種の保全や外来種問題、また農作物への獣害や人獣共通感染症など、環境から産業、また健康までの広範多岐にわたって、ヒトと野生動物との関わりにおける困窮の度合いが、加速度的に増している。こうした憂慮すべき事態を打破するための技術の開発や対策の立案、そして人材の育成は、広く生物学系の最高学府に課せられた最優先課題のひとつであると著者らは考えている。そこで日本野生動物医学会の第14回大会が、獣医学系のない神戸大学大学院農学研究科を会場として、平成20年9月3日から7日までの5日間にわたって開催されたのを機に、産業動物を中心とした実学的な総合動物学の一分野である畜産学・応用動物学系の大学や大学院における野生動物教育の実態を明らかにすることを目的として、任意のアンケート方式による全国調査を実施したので、その集計結果について報告する。なお本報告は、第14回日本野生動物医学会大会の講演要旨集に記載されたものを、改変して再録したものである。
著者
楠 比呂志 長谷 隆司 佐藤 哲也 土井 守 奥田 和男 上田 かおる 大江 智子 林 輝昭 伊藤 修 川上 茂久 齋藤 恵理子 福岡 敏夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-30, 2006
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

国内の3施設で飼育されていた18頭の成熟雄チーターから,経直腸電気射精法で採取した31サンプルの精液の性状を分析した。なお18頭中13頭は,繁殖歴がなかった。18頭の雄の精液の性状は,精液量が0.91±0.11ml,精液pHが8.1±0.1,総精子数が32.6±5.4百万,生存精子率が84.9±1.9%,精子運動指数が53.7±3.8,形態異常精子率が66.1±3.4%,正常先体精子率が68.5±5.1%で,これらの値は,他のチーターにおける報告値の範囲内であった。繁殖歴がある雄とない雄の精液を比較したところ,先体正常精子率以外のパラメーターについては,両者間で有意な差はみられず,繁殖歴がない雄の正常先体精子率(59.8%)も致命的なほど低くはなかった。以上の結果から,飼育下の雄チーターにおける低受胎の主因が,精液性状の低さである可能性は少ないと考えられた。
著者
榎本 知郎 中野 まゆみ 花本 秀子 松林 清明 楠 比呂志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2004 (Released:2005-06-30)

ゴリラの繁殖が難しいことはよく知られているが、その原因の詳細は不明である。そこでわれわれは、ゴリラの精子形成の特性を組織学的に分析してきた。今回は、その続報である。飼育下で死亡したゴリラ10頭から精巣を採取し、通常の組織標本を作製した。これを光学顕微鏡で観察した。前回、10頭のうち4頭でのみ精子形成が認められること、精上皮が薄いこと、退縮した精細管が存在すること、異常巨大細胞が存在すること、の4点で精子形成が不活発であることを報告した。今回は、以下の3点について報告したい。 (1) ゴリラの精上皮サイクルは、6ステージにわけることができた。 (2) 精細胞表面に形成されるアクロゾーム(先体)が非常に小さかった。 (3) チンパンジーやオランウータンに比べて、精上皮からの精子放出の直前のステージ(ステージII)における成熟精子の密度が小さかった。精上皮サイクルは、オナガザル上科のサルでは、12~14ステージに分けられる。これに対し、ヒト、ゴリラ、チンパンジーでは、6ステージにしか分けられない。このステージ分けは、精上皮の細胞構築をていねいに分析することによって得られるもので、オナガザル科のサルの場合、減数分裂直後の精細胞が、アクロゾームシステムの形によって数ステージに分けられるため、ステージ分けも詳細になる。これに対し、ゴリラの場合、アクロゾームがきわめて貧弱で小さいうえに、各細胞におけるその変容が完全に同期しておらず、ステージ分けを難しいものにしている。アクロゾームは、受精の際、卵を取り巻く放線冠を溶かす酵素など、数種の成分を含んでいる。これの少ないことが、ゴリラの繁殖を難しいものにするひとつの要因なのかもしれない。
著者
加藤 征史郎 土井 守 楠 比呂志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

世界自然保護連合が危急種に指定し、ワシントン条約では付属書Iに記載されるチーター(Acinonyx jubatus)は、ネコ科の野生動物の中では飼育下での自然繁殖が難しいと言われている。本研究の目的は、家畜などで確立された種々の研究手技を用いてチーターの飼育下個体の繁殖生理を明らかにするとともに、その人工繁殖技術を開発することにある。姫路セントラルパーク、姫路市立動物園、群馬サファリバーク、アドベンチャーワールドおよび浜松市動物園などの協力のもと、雄19頭、雌19頭,合計38頭のチーターを材料に用いて、当該研究期間に得られた主な研究成果は以下の通りである。1. チーターの精液性状は劣悪で、特に形態異常精子率が高いことが判明した。2. 精子の先体染色法にはナフトールイエローS・エリスロシンB染色が適当であった。3. 精子の保存用希釈液には、TEST-yolk液が米国で使用されているラクトース液(PDV)よりも好適であった。4. 雌の血中プロジェステロンは、9〜12週間隔で周期的に変動することを明らかにした。5. 妊娠判定に、腟スメア検査が有用である可能性を示唆した。6. 卵胞発育と排卵の誘起に、PMSGとhCGの投与が有効であることを、腹腔鏡下での観察により明らかにした。7. 子宮角内への精子注入カテーテルの非外科的経腟挿入を試みたが、子宮頸管より奥への挿入は物理的に困難であった。8. 卵核胞期の未熟卵母細胞は、低率ながら第一成熟分裂終期まで体外成熟できる可能性が示唆された。
著者
楠 比呂志 木下 こづえ 佐々木 春菜 荒蒔 祐輔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.37-50, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
35

人間活動に起因する全球レベルでの自然改変や環境破壊により,地球史上過去に類をみない速度で,完新世の大量絶滅が進行中であり,その回避は我々人類の急務であると筆者らは考えている。そこで我々は,国内各地の動物園や水族館などと共同して,希少動物の生息域外保全を補完する目的で,それらの繁殖生理の解明とそれに基づいた自然繁殖の工夫や人工繁殖技術の開発に関する研究を展開している。本稿では,我々のこうした保全繁殖研究の内容について概説する。
著者
米田 一裕 木下 こづえ 林 輝昭 伊藤 修 大峡 芽 奥田 和男 川上 茂久 谷口 敦 奥田 龍太 石川 達也 佐藤 梓 池辺 祐介 只野 亮 都築 政起 国枝 哲夫 楠 比呂志
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.133-141, 2010-05-25

動物園などでの飼育環境下にある動物の遺伝的多様性を維持することは重要な課題である.本研究では,イエネコのマイクロサテライトマーカーを用いて,飼育環境下の62個体のチーターの遺伝的多様性と血縁関係を解析することを試みた.チーターのDNAより17座位のマーカーの増幅を試みた結果,すべてのマーカーで増幅産物が認められ,そのうちの15座位はチーターにおいても多型性が確認された.これらの座位における平均の対立遺伝子数は4.65,ヘテロ接合度は0.6398,多型情報量は0.5932であり,本集団の遺伝的多様性は,野生のチーターの集団と比べて大きな違いは無かった.また,総合父権否定確率は0.999733であり,実際にこれらのマーカーを用いて正確な親子判別が可能であることが確認された.各マーカーの遺伝子型を基に62個体のクラスター解析および分子系統樹の作成を行ったところ,これらの個体は,いくつかの集団に分類され,各集団は基本的に家系と一致していた.以上の結果は,今後わが国のチーター集団の遺伝的多様性を維持する上で重要な知見であると考えられた.
著者
橋田 哲士 長神 大忠 上田 佳代子 西角 知也 中川 大輔 瀧田 豊治 栗田 大資 上道 幸史 深井 正輝 久保田 浩 上田 かおる 大江 智子 奥田 和男 楠 比呂志 土井 守
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.847-851, 2006-08-25
被引用文献数
3

雌バーラル(Pseudois nayaur)の血中プロジェステロン(P_4)濃度の年変動を調査し,繁殖季節や発情周期,春機発動などバーラルの繁殖生理を明らかにしようとした.雌バーラル9頭から週1〜2回血液を採取し,ラジオイムノアッセイによりP_4濃度を測定した.血中P_4濃度は,11月または12月(冬)から5〜6月(晩春)までの期間のみ周期的に変動した.この変動に基づく発情周期は,平均24.9±0.5日間であった.血中P_4濃度の上昇開始期前後に,他の雌を追い回す行動や外陰部からの粘液漏出が認められ,これらはバーラルの発情を示す外見的指標になると考えられた.交尾後,妊娠した個体の血中P_4濃度は,周期性を失い,高い値を維持した.調査した37出産例において,出産は4〜9月の間にみられ,5月と6月に全体の約70%が集中していた.出産年月日から推定した受胎時期は10〜4月で,12月が54%と最も多かった.12月は,血中P_4濃度の変動期間の初期にあたることから,ほとんどのバーラルは繁殖季節開始後の早い時期に妊娠し,妊娠しない場合は約25日間の発情周期を繰り返していることが明らかとなった.
著者
木下 こづえ 稲田 早香 荒蒔 祐輔 関 和也 芦田 雅尚 浜 夏樹 大峡 芽 楠 比呂志
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-66, 2009-03

飼育下の雌ユキヒョウ(Uncia uncia)と雌チーター(Acinonyx jubatus)における性行動と発情ホルモンの関係を調べる目的で,週に2〜7回の頻度で,同一日に行動観察と採糞を行った。糞中エストロゲン(E)濃度はエンザイムイムノアッセイによって測定し,ユキヒョウでは25項目の行動の回数を,チーターではRollingについてのみ回数を記録した。その結果,ユキヒョウでは,糞中E濃度との間に有意な正の相関関係が見られた行動は,Locomotion(r_s=0.4305, P<0.01),Flehmen(r_s=0.3905, P<0.01),Sniffing(r_s=0.3588, P<0.01),Rubbing(r_s=0.2988, P<0.01),Lordosis(r_s=0.2621, P<0.01),Pace(r_s=0.2335, P<0.01),Rolling(r_s=0.2285, P<0.01),Prusten(r_s=0.2216, P<0.01),Spraying(r_s=0.1876, P<0.01),Pursuing(r_s=0.1793, P<0.01),Attacking(r_s=0.1732, P<0.05)およびApproaching(rs=0.1423,P<0.05)の12項目であった。また糞中E値とこれらの行動の頻度は,共に季節的に変動し初冬から晩春にかけて高値を示した。チーターでも,糞中Eのピーク日やその直前にRollingが頻発し,両者の間には有意な正の相関関係が認められた(r_s=0.2714, P<0.05)。以上の結果から,飼育下の雌ユキヒョウと雌チーターにおいて,発情ホルモン動態と関連したこれらの行動を観察することで,適切な交尾のタイミングを予測できる可能性が示唆された。