著者
野村 佳宏 原田 太郎 森田 重人 窪田 聡 腰岡 政二 山口 博康 棚瀬 幸司 八木 雅史 小野崎 隆 佐藤 茂
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.242-254, 2013
被引用文献数
6

カーネーションの老化時においては,初めに雌ずいにおいてエチレンが生成し,このエチレンが花弁に作用して自己触媒的エチレン生成反応を引き起こす.本研究では,アブシシン酸(ABA)の含量および ABA の生合成と作用に関与する遺伝子群の発現を解析して,雌ずいのエチレン生成開始反応における ABA の役割を明らかにすることを試みた.初めに,カーネーション'ライトピンクバーバラ'の花組織から,ABA の生合成と作用に関与する遺伝子群の cDNA をクローニングし,構造を明らかにした.次に,雌ずいの ABA 含量の変化とこれらの遺伝子の発現を,3 品種のカーネーションを用いて調べた.3 品種は,切り花の老化時にエチレンを生成し約 1 週間の花持ち期間を示す'ライトピンクバーバラ'と'エクセリア',および老化時にエチレンを生成せず約 3 週間の花もち期間を示す'ミラクルルージュ'を用いた.子房の ABA 含量は,'ライトピンクバーバラ'では開花時期 2(Os 2)から Os 5 にかけて 530–710 pmol·g<sup>−1</sup> FW,'エクセリア'では同じ時期に 200–380 pmol·g<sup>−1</sup> FW で,老化時期 1(Ss 1)(老化の初期)に 930 pmol·g<sup>−1</sup> FW に増加した.他方,'ミラクルルージュ'では 70–160 pmol·g<sup>−1</sup> FW で推移した.ABA 含量の変化は,<i>DcNCED1</i>(9<i>-cis</i>-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ)転写産物量の変化と並行関係にあった.<i>DcPYR1</i>(ABA 受容体)転写産物量は,'ライトピンクバーバラ'の Os 1–Os 3 では 0.004–0.007 相対発現量(r.e.l.)であり,Ss 1 には 0.028 r.e.l. に増加した.'エクセリア'の子房では,開花時期は 0.025–0.037 r.e.l. で推移し,Ss 1 でさらに増加した.これに反して,'ミラクルルージュ'では開花と老化時期を通じて 0.002–0.006 r.e.l. であった.エチレン生合成の鍵遺伝子である <i>DcACS1</i> の転写産物は,'ライトピンクバーバラ'では Ss 1,'エクセリア'では Ss 2 で検出されたが,'ミラクルルージュ'では開花と老化の時期を通じて検出されなかった.以上の結果から,ABA が雌ずいにおける <i>DcACS1</i> の発現を誘導してエチレン生成を引き起こすこと,ABA の作用の発現には ABA 含量と <i>DcPYR1</i> の発現量が特定の閾値を超える必要があることが推定された.
著者
窪田 聡 遠藤 路子 林 里紀 高橋 博徳 村松 嘉幸 腰岡 政二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.97-102, 2013 (Released:2013-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
3

根域環境制御システムを用いて根域温度を調節することによって,鉢植え花きの生育制御が可能かどうかを明らかにするために,バーベナとゼラニウムの生育と開花に及ぼす根域温度の影響について検討した.バーベナを根域温度15,20および25℃で栽培したところ,地上部の生育は25℃で著しく促進され,植物体の乾物重は15℃の約1.5倍に増加した.ゼラニウムを冬季に最低気温8℃とし,根域加温温度を無加温,13および18℃で栽培した.その結果,根域温度が18℃では地上部の生育と着蕾率および小花数は明らかに増加し,植物体の乾物重は無加温に比べて約2倍に増加した.以上のことから,根域環境制御システムを利用して根域温度を制御することにより,植物の成長を制御できることが明らかとなった.
著者
水野 真二 成川 昇 近藤 春美 上吉原 裕亮 立石 亮 窪田 聡 新町 文絵 渡辺 慶一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.109-115, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
12

アントシアニン色素を多く含み,果実が濃赤色を呈する促成栽培用イチゴ品種 ‘真紅の美鈴’ を育成した.神奈川県における試験栽培において,本品種は ‘とちおとめ’ より花芽分化がやや遅く,定植適期は9月20日頃以降であると考えられた.果実の硬度は ‘とちおとめ’ 並みに高く,糖酸比は20を超え,還元糖のグルコースとフルクトースを比較的多く含んでいた.果実のアントシアニン色素の含量は新鮮重1 g当たり185 μgであり,母親の ‘ふさの香’ および父親の ‘麗紅’ の約2倍,‘とちおとめ’ の約3倍であった.一方,果汁の抗酸化活性には‘真紅の美鈴’と従来品種で大きな差はみられず,アントシアニンの抗酸化活性への寄与度は低いと推定された.アントシアニンの組成はペラルゴニジン配糖体が80%以上を占めており,検出された5成分の構成比は ‘とちおとめ’ や親品種と概ね同等であった.このことから,‘真紅の美鈴’ が濃赤色を呈するのはアントシアニン組成の影響ではなく,色素の含量が顕著に多いためと考えられた.
著者
窪田 聡 村松 嘉幸 大島 秋穂 小田部 桃子 菅田 悠斗 腰岡 政二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.95-103, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
21
被引用文献数
3 3

住宅用床暖房パネルと空気熱源式ヒートポンプ冷温水システムおよび発泡スチロール製の断熱鉢トレイを組み合わせて新しい根域温度制御装置(N.RECS)を開発した.N.RECSは根域の加温と冷却の2つのモードを持っている.加温モードでは,気温が10°Cを下回っても根域温度を約25°Cに維持することが可能で,冷却モードでは気温が40°Cを上回っても約23°Cに冷却することが可能であった.冬季に矮性ダリアの生育・開花に及ぼす根域加温の影響について検討した.根域加温を行わずに最低気温を15°C設定にした対照区に比べて,最低気温を12°C設定または無加温として根域を24°C加温した12°C/24°C区と無加温/24°C区では生育が促進された.また,12°C/24°C区と無加温/24°C区のエネルギー消費量は,対照区に比べて金額ベースで34%と69%それぞれ削減された.夏季にフクシアの生育に及ぼす根域冷却の影響について検討した.根域冷却を行わない対照区では48%の株が枯死したが,20°Cまたは23°Cに根域を冷却するとすべての株が健全に生育した.これらのことから,N.RECSは通年にわたって花苗の生育制御に活用できることが示された.
著者
村松 嘉幸 河野 寿紀 窪田 聡 腰岡 政二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.267-272, 2015 (Released:2015-09-30)
参考文献数
13
被引用文献数
3

夏季の高温により生育と開花が抑制されるミニシクラメンを用いて,根域冷却が生育・開花に及ぼす影響について検討した.根域温度を20°C,23°C,26°Cに調節した区と冷却を行わない無冷却区を設けた.各区の根域温度は設定温度の±1~2°Cの範囲に制御され,無冷却区の平均最低温度と最高温度はそれぞれ約25°Cと28°Cであった.栄養生長は無冷却区と比較して23°Cで促進された.20°Cの開花は10月中旬から始まり,花数は20日後には約7輪/株となった.開花は根域温度の上昇とともに遅れ,20°C,23°C,26°Cおよび無冷却区の開花株率は,それぞれ82,60,44および20%となった.しかし,花蕾数は23°Cで約65個/株と最も多くなり,20°Cおよび無冷却区に比べて,それぞれ25個および10個増加した.これらのことから,根域を23°Cまで冷却すると栄養成長および花芽形成が促進され,20°Cまで冷却すると開花が促進された.