著者
田辺 信介 立川 涼 河野 公栄 日高 秀夫
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.137-148, 1982
被引用文献数
111

西部太平洋, 東部インド洋および南極海の大気と表層海水に残留するHCH異性体とDDT化合物を測定した.世界的に広く使用されているHCH(BHC)やDDTなどの有機塩素系農薬が, 南極周辺の大気や海水にも検出可能な濃度で存在するすとが今回見出されたが, その他南北両半球の外洋環境からも検出され, 地球規模で汚染の進行していることが明らかとなった.<BR>大気および表層海水に残留するHCH異性体は, 南半球に比べて北半球の濃度が高い.一方, DDT化合物は, 熱帯域で高濃度分布が認められたものの, 南北両半球間の濃度差は少く, HCHの分布とは明らかな違いが認められた.さらにDDT化合物組成はρ, ρ'-DDTが50%以上を占め, 海域間の差はほとんど認められなかったが, HCH異性体の組成は, 北半球では酢HCH>γ-HCH>β-HCH, 南半球ではγ-HCH>α-HCH>β-HCHであった。<BR>海域問で物質の分布に差が見られ, あるいは物質の種類間でも分布に特徴が認められることは, 世界における農薬の使用状況および物質の物理化学性に加え, 地球規模での大気の大循環, とくにハドレーセルやフェレルセルなどの空気塊の存在も関与していることが示唆された.
著者
橋本 俊次 脇本 忠明 立川 涼
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.637-646, 1994-09-20 (Released:2010-05-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

ベトナム南部から採取された層位別土壌試料及び底質コアを用い, ダイオキシンによる過去からの汚染の調査を行った。調査地点付近には, ベトナム戦争当時, 大量の枯葉剤が散布されているにもかかわらず, そこから採取された試料からは, 枯葉剤の不純物であるTCDDは検出できなかった。一方, ほとんどの試料からOCDDなどの高塩素化ダイオキシンを検出した。検出した濃度は0.069~1.1ng/g dryで, そのうち約80%がOCDD, 約15%がHeptaCDDs, 約5%がHexaCDDsであり, この組成は全試料で確認された。今回検出されたこれらのダイオキシン類は, 周囲の状況などから, 自然生成したものであることが類推された。しかも, 以前我々が調査した日本沿岸底質深層部から発見したものと全く同じ組成をもつことが分かり, 自然生成するダイオキシンの存在が示唆された。
著者
日高 秀夫 立川 涼
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.14-29, 1983-12

第22次南極地域観測(1980-1982)において採取した大気, 雪, 海水, 魚介類などの有機塩素化合物(DDT, PCB, HCH)を分析し, 昭和基地周辺の環境濃度と, 基地活動による汚染について検討した。昭和基地の風上方向約13kmのとっつき岬で採取した雪の有機塩素化合物濃度と組成は, みずほ基地の風上約0.6kmの雪とほぼ同じであった。とっつき岬と昭和基地近辺の海水では, 濃度は同レベルであったが, PCB組成が若干異なった。海氷下の水の動きも考慮し, とっつき岬には大気・海水経由での基地からの汚染はないと判定した。基地近辺で採取した底生魚のショウワギス中のPCB濃度は, とっつき岬で採取したショウワギスより約30倍高く(p<0.001), DDTは約2倍高かった(p<0.01)。基地近辺の底生生物は, 南極地域外の魚と比べると低濃度ではあるが, 基地から漏れたPCBによる汚染をかなり受けており, DDTにも若干の影響を受けていると結論づけられる。今後, 基地からの汚染をなくすための, より厳密な廃棄物対策が必要であり, とくに, これらの有機塩素化合物汚染の推移と新たな汚染物質に対応するため, 底生魚を中心とする計画的な試料の採取と保存が望まれる。