著者
立平 良三
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.328-335, 2003-06-25

天気予報の信頼性についての基本的な情報は精度の検証によって提供される.天気予報の精度検証が組織的に行われるようになったのは比較的最近のことであり,利用者へはまだ十分浸透しているとはいえない.天気予報の精度は年々向上しているものの,気象観測網の粗さや大気現象のカオス的性質のため誤差は避けられず,効果的な利用のためには精度の把握は不可欠である.信頼性へ配慮することなく,予報を近似的にでも確報と考えて利用できる時代の到来はまだまだ先のことであろう.最重要の課題は,全地球大気(さらに海洋も)の三次元の高分解能観測網の確立である.天気予報の精度は,適中率などの単一の指標で評価できるものではないし,また日々の予報毎に変動する.降水確率予報のような確率形式の予報は,利用者に日々の予報の精度を含めて提供する,最も実用的な手段である.確率形式のメリットが利用者に広く認識されるようになれば,今後各種の予報の発表形式として要望されてこよう.
著者
立平 良三 保科 正男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.325-333, 1993-05-31
参考文献数
9
被引用文献数
2

10年間のアメダスの毎時雨量を解析して,30mm/h以上の大雨の発生度数がどのような日変化をするかを調べた.各都府県毎に平均をとった場合の日変化は様々であるが,相関係数を類似の尺度として幾つかのグループに分けることを試みた.その結果,大まかな傾向として,次の三つの特徴的なグループの存在が見いだされた.(1)西日本の南西斜面の大雨早朝から午前にかけて発生度数が高く,また季節的には梅雨末期に当たる7月に多い.地形的には,南西風が海から直接に吹きつける領域であり,亜熱帯高気圧の縁辺を廻ってくる熱帯海洋気団中で発生する大雨の特徴と考えられる.(2)本州中部の大雨夕刻から夜にかけて発生のピークがあり,季節的には盛夏の8月に多い.熱雷的な性格の大雨と考えられる.ただし,南東風による地形性の降雨が卓越する沿岸の都県では,台風が原因と考えられる副次的なピークが9月に現れている.(3)西日本の南東斜面の大雨大雨の発生が一日中ほとんど変わらず,しかも高い発生の状態が続く.これは西日本で南東風が海から吹きつけるような地形の領域で発生する大雨で,台風など熱帯低気圧に伴う大雨と推定される.
著者
立平 良三 瀬古 弘 鈴木 智広
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.633-642, 1998-08-31
参考文献数
9
被引用文献数
2

単一ドップラーレーダーのデータから風の場を推定するには, 解析領域内で風が一様とか線形といった仮定が必要である.台風に適した仮定としてはまず軸対称風系が考えられる.この場合は, 台風中心の周りの同心円上で風の流入角が一定となる.本論文ではさらに現実に近付けて「解析領域内で流入角はある曲線にそって一定」と仮定し, 同心円上では流入角が変化しうるようにした.この曲線は円弧で近似できるものとし, その曲率を求める手法をモデル風系を用いたシミュレーションによって導いた.モデル風系としてはランキン渦(最大風速50ms^-1)を基本とし, 流入角が台風中心の周りを波数3で最大±30°正弦関数的に変化するものを用いた.中心から65km離れたドップラーレーダーでモデル風系を観測した時の動径速度分布にこの手法を適用し, 風を推定したときの誤差ベクトルの大きさは, 絶対値の平均で約8ms^-1であった.一様風を仮定した場合の誤差は約41ms^-1であったから, 大幅な改善が達成されている.