著者
中堀 伸枝 関根 道和 山田 正明 立瀬 剛志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.190-201, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
35
被引用文献数
17

目的 近年,核家族化や女性の労働参加率の増加など,子どもの家庭環境をめぐる変化は著しく,子どもの食行動や生活習慣,健康に影響を与えていると考えられる。本研究では,家庭環境が子どもの食行動や生活習慣,健康に与える影響について明らかにすることを目的とした。方法 対象者は,文部科学省スーパー食育スクール事業の協力校である富山県高岡市内の 5 小学校の全児童2,057人とその保護者を対象とした。2014年 7 月に自記式質問紙調査を実施した。総対象者中,1,936人(94.1%)から回答が得られ,そのうち今回の研究に関連した項目に記載もれのない1,719人を分析対象とした。家庭環境を,「母の就業」,「家族構成」,「暮らしのゆとり」,「朝・夕食の共食」,「親子の会話」,「子の家事手伝い」,「保護者の食育への関心」,「栄養バランスの考慮」,「食事マナーの教育」とした。家庭環境項目を独立変数,子どもの食行動,生活習慣,健康を従属変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。結果 母が有職であり,共食しておらず,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもが野菜を食べる心がけがなく,好き嫌いがあり,朝食を欠食し,間食が多いなど子どもの食行動が不良であった。親子の会話が少なく,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもが運動・睡眠不足があり,長時間テレビ視聴やゲーム利用をしているなど,子どもの生活習慣が不良であった。暮らしにゆとりがなく,親子の会話が少なく,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもの健康満足度が低く,朝の目覚めの気分が悪く,よくいらいらし,自己肯定感が低いなど,子どもの健康が不良であった。結論 子どもの食行動の良さ,生活習慣の良さおよび健康には,良い家庭環境が関連していた。子どもの食行動や生活習慣,健康を良くするためには,保護者の食意識を高め,親子の会話を増やし,子に家事手伝いをさせるなどの家庭環境を整えていくことが重要である。
著者
酒井 渉 松井 祥子 高倉 一恵 立瀬 剛志 吉永 崇史 水野 薫 原津 さゆみ 瀬尾 友徳 日下部 貴史 島木 貴久子 佐野 隆子 四間丁 千枝 島田 尚佳 宮村 健壮 舟田 久 康川 慎一郎 宮脇 利男 北島 勲
出版者
富山大学保健管理センター
雑誌
学園の臨床研究 (ISSN:13464213)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.77-82, 2013-03

富山大学杉谷(医薬系)キャンパスは、医療系2学部4学科のみからなる。従来、暗黙理に、医師・医療職を目指すに十分な能力とモチベーションをもった学生のみが在籍し、学生支援は必要ないものと理解されてきた。そのため、学生支援を担う部署や教員組織は存在していなかった。かつて学生支援は、医薬系学生課(現医薬系学務グループ)職員、保健医学教員など、その必要性をいちはやく認識した一部の教職員によって個人的に行われていた。杉谷キャンパスの学生支援体制には不備があり、大学としての安全配慮義務の履行や、学生の修学環境保全に、支障をきたしている。支援職種は単一部署に配置すべきである。
著者
立瀬 剛志 石若 夏季 大野 将輝 関根 道和
出版者
地域生活学研究会
雑誌
地域生活学研究 (ISSN:21869022)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-9, 2022 (Released:2022-09-02)
参考文献数
10

2020 年、COVID-19 の感染拡大及びその拡大防止策により日常生活は大きく変化し、人々の直接的な繋がりも制限されるに至った。またコロナ禍は自殺の傾向にも影響を与え、自殺率が 10 年ぶりに増加に転じた。そこで今回、コロナ禍における自殺率及びその変動と社会資源や生活状況といった因子との関連性を確かめるため、社会統計データを用い都道府県単位でのコロナ禍における自殺率の格差を説明する要因を分析した。重回帰分析の結果、NHK 料金支払い率が高く、女性の就労時間等が長い都道府県ほど男性の自殺変化率は増加し、趣味・娯楽時間や学業時間、そして男性の家事時間が長い都道府県ほど女性の自殺変化率が増加していた。また関連要因として抽出された指標は、女性よりも男性で少なく決定係数も小さい結果となった。今回の結果から、コロナ禍における働き方や自分の生活時間などの変化に加え、学習時間や NHK 支払い率といった県民の堅実性といった側面からもコロナ禍の自殺背景を捉えることが重要と考えられる。
著者
新鞍 真理子 関根 道和 山田 正明 立瀬 剛志 木戸 日出喜 鈴木 道雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.435-446, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
24

目的 社会活動は,高齢者の健康維持やQOLの向上に重要な役割がある。本研究は,地方都市在住の高齢者における社会活動への不参加に関連する要因について,社会活動の種類別(仕事,町内会活動,趣味の会,老人クラブ)に検討することを目的とした。方法 2014年に富山県に居住する65歳以上の高齢者の中から0.5%で無作為抽出された1,537人のうち947人を分析対象とした。男女別に各社会活動への参加の有無を従属変数,その他の項目を独立変数として,ポアソン回帰分析を用いて有病割合比(Prevalence Ratio,以下PR)を算出した。有意水準は両側検定において5%とした。結果 男性426人(平均年齢73.9±6.5歳),女性521人(平均年齢74.8±7.0歳)であった。 仕事は,男女ともに高年齢(男性75歳以上PR1.15,女性70歳以上PR1.11)で無就業が多く,男性では通院治療中(PR1.09)と改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)21~25点(PR1.09)と20点以下(PR1.12)の無就業が多く,女性では飲酒者(PR0.93)の無就業が少なかった。 町内会活動は,男女ともに高年齢(男性70歳以上PR1.12,女性80歳以上PR1.11)で不参加が多く,男性では肉体労働のみの職歴(PR1.12)とHDS-R20点以下(PR1.16)の不参加が多く,女性では独居(PR0.92)の不参加が少なかった。 趣味の会は,男女ともに肉体労働のみの職歴(男性PR1.05,女性PR1.08)の不参加が多く,男性では9年以下の教育歴(PR1.05),女性では独居(PR1.07)の不参加が多かった。年齢および認知機能の低下との関連はみられなかった。 老人クラブは,男女ともに高年齢(男性75歳以上PR0.89,女性70歳以上PR0.93)と飲酒者(男性PR0.91,女性PR0.89)の不参加が少なく,男性では喫煙者(PR1.06)と精神的自覚症状あり(PR1.09),女性ではHDS-R20点以下(PR1.13)の不参加が多かった。結論 地方都市在住の高齢者における社会活動は,社会活動の種類により不参加の関連要因が異なっていた。これらの地方都市在住の高齢者の特徴を踏まえた対策を検討することの重要性が示唆された。
著者
立瀬 剛志 小嶋 一輝 松村 和起
出版者
富山大学地域生活学研究会
雑誌
地域生活学研究 (ISSN:21869022)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.30-40, 2018

薬物やアルコール依存症からの回復を目指すリハビリテーションを行う上で、ハームリダクションという考え方がある。これは、違法薬物の使用をただ禁止するのではなく、必要に応じ使用を許容ことによって健康上のあるいは社会・経済的な悪影響を減少させることを目的とする。一方、日本の政策においては薬物乱用防止や検挙に主眼が置かれており、行政は十分な薬物依存回復支援を行っているとはいえない。実際の依存症からの回復支援はDARC等の民間団体が主翼を担っている。今回、これらの団体における依存症リハビリテーション支援がどのように実践されているのかハームリダクションの概念を軸に実態調査を行い、依存症回復を妨げる要因について考察した。<br>【方法】富山県で依存症回復リハビリテーション事業を行うNPO法人富山DARC(ダルク)、家族支援を行うHARP(北陸アディクションリカバリーパートナーズ)に趣旨を説明し、承諾を得てインタビューや参与観察を行った。<br>【結果と考察】調査の結果、DARCでは、薬を断った後の社会生活を重視するプログラムを中心にハームリダクションが実践されていた。また行政による薬物乱用防止事業だけでは、依存症からの回復には不十分であることが確認された。さらに、依存症者本人は回復の過程で様々な困難や偏見を受けることや、依存症患者を持つ家族に対しても精神的回復のための支援が必要であることが分かった。依存症者を再犯防止ではなく依存症回復の支援につなげることが重要であり、依存症者への偏見から必要な医療を受ける機会を奪うことは避ける必要がある。