著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 竹上 未紗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.591-606, 2015-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
51
被引用文献数
1

健康を左右する一つの因子として,近隣環境への研究関心が高まっている.しかし,これまで日本を対象とした事例研究の蓄積は不十分であり,国際的にも全国的範囲を対象とした分析は限られていた.本研究では,人々が暮らす場所の近隣環境によって,健康に由来する生活の質(HRQOL)が異なるのかどうかを統計的に分析した.認知的および客観的に測定された近隣環境指標と,HRQOLの包括的尺度(SF-12)との関連性を,日本版総合的社会調査2010年版を用いたマルチレベル分析によって検討した.分析の結果,近隣環境を肯定的に評価・認知している人ほど,健康に由来する生活の質が高いという関係が明らかになった.他方で,客観的に測定された近隣環境指標はHRQOLとの独立した関連を示さず,場所と健康の間を取り結ぶ多様な作用経路が示唆された.
著者
竹上 未紗
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.17-21, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
11

循環器疾患は短期的な死亡率が比較的高い疾患であるため、評価指標として生命予後の重要性が他の疾患に比べて際立っており、QOL研究の発展は遅れた。循環器領域における初期のQOL研究としては、降圧剤の影響に関するものがある。治療の結果、医師側が全員、患者は改善したと答えたのに対し、改善したと答えた患者は10%未満であった。医師が患者の血圧コントロールに関心があるのに対し、患者は活力や活動の低下などを問題にしていることが明らかになり、Patient-Reported Outcomesの測定の重要性が示された。近年では治療技術の向上に伴い治療の主な目的が長期予後の改善だけでなく、QOLを改善することにあるとの認識が広まり、循環器疾患領域の種々のガイドラインにおいてもQOL評価が取り入れられつつある。しかしながら、未だに日本でQOL評価が十分になされていない疾患も多い。成人先天性心疾患もその一つである。本稿では、QOLの概念を改めて整理し、循環器疾患領域におけるQOLを用いた臨床研究を紹介するとともに、その一例として国立循環器病研究センターの小児循環器科と共同で実施している成人先天性心疾患患者とその親を対象としたQOL調査を報告する。この調査より通常の診療ではケアの対象となっていない親のQOLが低下していることが示され、QOL評価の必要性が再認識された。