著者
中谷 友樹
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.254-273, 1994-06-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
90
被引用文献数
1 1

A mathematical model is built for influenza or other similar disease epidemics in a multi-region setting. The model is an extended type of chain-binomial model applied to a large population (Cliff et al., 1981), taking into account interregional infection by interregional contacts of people. If the magnitude of the contact is presented by simple distance-decay spatial interaction or the most primitive gravity model, a conventional gravity-type epidemic model (Murray and Cliff, 1977; Thomas, 1988) is deduced.Given the number of infectives and susceptibles, the chain-binomial model predicts the number of infectives in the next period with binomial probability distribution. Available data are, however, weekly cases per reporting clinic in each prefecture reported by the surveillance project, characterized by continuous variation; the data could be a surrogate index for rates of infection. The author modified the model to use rates of infectives and susceptibles, and used a normal approximation of binomial distribution. With the maximum-likelihood method, this model can be calibrated. The specification of the model is as follows:Li(Yi, t=0, …, Yi, t=T|β°i, δi)=Πt1/√2πVar[Yi, t+1]·exp{-1/2Var[Yi, t+1](Yi, t+1-E[Yi, t+1])}, E[Yi, t+1]=β°i/MiXi, tΣjmijYj, t, Var[Yi, t+1]=β°i/MiXi, tΣjmijYj, t(1-β°i/MiΣjmijYj, t), Xi, t=δi-Σis=0Yi, s, where Mi=Σjmij; Li denotes the likelihood of the model for region i; Xi, t denotes the estimated rate of susceptibles in region i at week t; Yi, t denotes the reported rate of infectives in region i at time t; mij denotes the size of interregional contact with the people in regions j for the people in region i; β°i denotes the infection parameter in region i; δi denotes the parameter concerned with the rate of initial susceptibles in region i.The model posits that the average number of people who come into contact with a susceptible in prefecture i is a constant, and that the average rate of infectives of the people is ΣjmijYj, t/Mi. The probability of a susceptible in region i infected at time t is, therefore, β°iΣjmijYj, t/Mi.This model was applied to a weekly incidence of influenza in each prefecture, from the 41st week, 1988, to the 15th week, 1989, Japan, letting the size of interregional passenger flow Tij correspond to mij as follows: mij=Tij+Tji (i≠j), mii=Tii.Goodness-of-fits (Table 1) of one-week-ahead forecasts were almost satisfactory except for prefectures whose epidemic curves were bi-modal (e.g., Hokkaido) or whose transition speed between epidemic breakout and peak was too high (e.g., Yamagata). The latter might be explained by a cluster of group infection (e.g., school classes) in an earlier phase of the epidemic (see Fig. 4).
著者
中谷 友樹
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.43-58, 2022-09-05 (Released:2023-09-16)
参考文献数
55

This article introduces studies in health geography and social epidemiology about the geographical variations in health observed at the neighbourhood scales and the accumulation of neighbourhood effects research, particularly related to deprivation amplification in Japan. It is considered that, in Japanese society as in Western societies, neighbourhood effects, which occur through the geographical concentration of socioeconomic disadvantage, may work as a spatial-social process that contributes to the shaping of social inequalities in health. However, it is necessary to question what kinds of and how neighbourhood effects, have contributed to emerged social inequalities in health in the context of Japanese urban spaces. It is also crucial to deepen understanding of the mechanisms and historical processes by which they are established through selective migration and environmental changes for effectively tackling the urban problems of health inequalities. The main challenges are (1) to advance systematic analysis of the socioeconomic disparities or determinants of neighbourhood environments, which contribute to a large extent to social inequalities in health, and (2) to consider a temporal and spatial perspective of health inequalities due to neighbourhood effects within cities, with a view to the history of environmental change and residential mobility.
著者
佐川 大輔 中谷 友樹
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.107-121, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

道路網の整備による自動車交通へのシフトや人口減少を背景とした利用者数の減少等により,鉄道路線の廃止が地方を中心に継続して生じている。現存する鉄道路線においても,鉄道事業者から廃止を提案されている事例が存在するなど,この先,維持が困難となる鉄道路線の数は増えていくものと考えられる。こうした鉄道廃止の提案に対し,「鉄道が無くなると街が寂れる」という意見が挙げられることもあるが,この考えを否定する意見もまた存在する。 本研究は,鉄道路線の廃止が鉄道沿線自治体の人口と所得水準に及ぼす影響を,パネルデータ解析のための回帰分析を用いて明らかにした。鉄道沿線自治体の廃線以前の状況を考慮する統計モデルを使用した分析の結果,先行研究で指摘されている鉄道の廃止が起こった地域で観察される高い人口減少率は,廃線以前からの状況を反映しているものであり鉄道の廃止によって引き起こされたものとは判断し難いことが示唆された。また,鉄道の廃止が所得変化率に及ぼす影響についても,廃止路線沿線と現存路線沿線の自治体間で統計学的に有意な違いは認められなかった。
著者
花岡 和聖 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.186, 2011 (Released:2011-05-24)

I はじめに 明治期、ペストやコレラ、マラリア、結核などの伝染病が各地で発生し、様々な防疫対策が取られた。当時、発生状況や患者、感染原因等が詳細に調査され、各地で流行誌としてまとめられた。 ペストに関しては、大阪は、神戸と並び、全国的に最も早い時期にペストの流行が始まる。1909年に発行された『大阪府第二回百斯篤流行誌』によると、大阪では、1899年~1900年及び1905年~1907年にわたりペストが流行した。とりわけ1907年11月には、発生患者数が220名を超えており、それ以前で最も多い約80名の患者が発生した1905年12月と比較しても、1907年11月頃の流行は非常に大規模なものであった。 そこで、本研究の目的は、大阪市を対象にして、『大阪府第二回百斯篤流行誌』から、1906年9月~1907年12月末までのペスト患者の時空間データベースを構築し、当時のペストの地理的分布や拡散過程を明らかにする。地理情報システム(GIS)を用いて、上記の資料を地図化し、改めて分析することで、ペスト流行に関する新たな知見が得られるものと期待できる。こうした研究は、医学地理学だけでなく、情報科学を活用した人文科学研究であるデジタル・ヒューマニティーズ(Digital Humanities)研究としても位置付けられる。 II ペスト患者の時空間データベースの構築 『大阪府第二回百斯篤流行誌』から、大阪市を対象に、「ペスト患者の時空間データベース」の構築を、以下の手順で行った。 まず「「ペスト」患者一覧表」に掲載されるペスト患者の属性をエクセルに入力し、患者属性データを作成する。属性には、ペスト患者の番号や氏名、発病月日、発見理由及月日、病類、住所、発見場所、職業、性別、年齢等の情報が含まれる。 次に、仮製二万分一地形図上に患者の発生地点が記された「大阪市「ペスト」鼠及「ペスト」患者発生図」と、住宅地図上に患者の発生地点と番号が記された詳細図を用いて、発生地点のポイントデータを作成した。具体的には、まずGISを用いて、上記の仮製図を幾何補正し、地図上に記された患者発生地点のポイントデータを入力する。続いて、詳細図に記された発生地点の位置関係をもとに、仮製図上のポイントデータの患者番号を特定した。その上で、患者番号をキーにして、661件の患者属性データとポイントデータを結合した。 最後に、これら以外にも、流行誌に掲載されたペスト鼠数や患者間の同居・交流関係の情報をデータベースとして整備した。 III ペスト患者とペスト鼠数の分布 ペスト患者の時空間データベースを用いて、患者全体のうち、発病と発見が同一場所のペスト患者の発生地点及びペスト鼠数を図に示す。ペスト患者が密集する地域は、主に難波や南堀江、南北に流れる東横堀川の東側である。患者の分布は、感染源となるペスト鼠数の分布はとも一致する。当時、捕獲した鼠の買い取りが行われていたが、1907年、難波警察署管内では年間94,351頭の鼠が検査され、うち1,460頭がペスト菌を有していた(10万頭に対して1547頭)。一方、曽根崎警察署管内では、鼠10万頭に対してペスト鼠は、47頭であった。 IV 患者間の同居・交流関係 特筆すべきは、『大阪府第二回百斯篤流行誌』の「「ペスト」患者同居及交通関係図」には、患者間の同居関係や交流関係が示される点である。この資料をデータベースとして整備し、患者属性データと合わせて利用することで、感染経路を時空間的に追跡が可能となる。これは当時の人的交流の空間範囲を示す資料ともなり得る。 V おわりに 本研究では、『大阪府第二回百斯篤流行誌』を用いて、同資料に掲載される患者属性及び地図上の発生地点から、ペスト患者の時空間データベースを構築した。これを利用することで、患者の発病月日に基づき、発生地点の時空間的変化を把握でき、どのようにペスト拡散し流行したのかを、患者の人口学的、社会経済的属性とも関連付けながら、詳細に分析できる。さらには、患者間の交流関係の情報は、社会ネットワークの観点からの分析や検証も可能である。
著者
小坪 将輝 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.112-122, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
35
被引用文献数
1

新型コロナウイルスのパンデミックが生じた2020年には,世界の多くの大都市で大規模な人口の転出が確認された.日本においても東京都からの転出の増加を含む人口移動パターンの変化が生じている.そこで東京大都市圏の中心となる東京都区部からの転出に着目して,その移動先の分布の変化にみられた特徴を分析した.結果として,移動者が増加した地域として東京大都市圏の郊外部と大都市圏外の北西部および南西部の地域が検出された.これらの地域の特徴と推定される移動者の年齢や職業の構成からは,新型コロナウイルスの流行が大都市圏都心部からのライフスタイル移住を促進したことが示唆された.
著者
花岡 和聖 中谷 友樹 矢野 桂司 磯田 弦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.227-242, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
27
被引用文献数
2 3

本稿では,京町家のモニタリングを意図した外観調査事業から得られる資料に基づき,京都市西陣地区を対象に,京町家の取壊しと建替えを規定する要因を定量的に把握し考察する.その際に,①京町家自体の特性(構造特性と利用状況),②土地利用規制,③近傍の環境特性と関連する指標群を分析した.その結果,①京町家の取壊しは,京町家の建て方や老朽化の程度を示す建物状態,伝統的外観要素の保存状態,高さ規制,周辺環境を表す近傍変数によって規定されていた.また②近傍変数は,土地利用別に異なる空間的な範域を有し,その影響力も土地利用規制と同程度であることがわかった.さらに③京町家からの土地利用転換では,土地利用規制と近傍の環境特性に加えて,従前の京町家自体の特性が土地利用転換を強く規定していた.以上から,京町家の建替えは,時空間的な連鎖を伴って進展していると考察される.
著者
足立 浩基 埴淵 知哉 永田 彰平 天笠 志保 井上 茂 中谷 友樹
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2018, (Released:2021-02-03)

目的:本研究では,iPhoneのヘルスケアアプリのスクリーンショット画像から日常生活上の歩数を得る遡及的調査方法を開発した。インターネット調査を利用し,COVID-19の緊急事態宣言下での歩数変化を例として本調査方法の実用性の検討を本研究の目的とした。 方法:調査会社の登録モニター集団から日本全国に居住する20~69歳のiPhoneの日常的利用者1,200名を抽出し,過去3カ月間のスクリーンショット画像を回収した。画像解析により歩数を読み取るツールを開発し,2020年2月中旬から5月中旬までの平均歩数の推移のデータを取得した。固定効果モデルを用いて緊急事態宣言前後の歩数変化を地域別・性・年齢階級別に推定した。 結果:約79.9%の画像が歩数データの計測に利用可能であった。エラーの要因は操作ミスや画像の低解像度化であり,調査事前に対策し得るものであった。分析の結果,1日あたりの平均歩数が緊急事態宣言後に減少していると推定され,首都圏における先行研究と整合する結果を得た。さらに地域および性・年齢階級による違いを観察し,三大都市圏20代の男性は約2,712歩減,女性は約2,663歩減と最も顕著な減少を確認した。 結論:インターネット調査でスクリーンショット画像を回収し,画像から歩数を読み取る方法は,歩数から推測される身体活動の変化を遡及的かつ客観的に把握する有用な方法として期待される。
著者
永田 彰平 高橋 侑太 足立 浩基 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.205, 2023 (Released:2023-04-06)

Ⅰ.研究の背景 2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が現在まで続いており,感染拡大期には,各国でロックダウンによる感染の封じ込めが試みられた.日本においても,2020年4月に1回目の緊急事態宣言が全国で発出されて以来,各都道府県の流行状況に応じて,緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施され,外出の自粛や飲食店に対する休業あるいは時短営業が要請された. ロックダウンなどの非薬物的介入(NPIs: non-pharmaceutical interventions)による人流変化と感染推移の関係は各国で多く検証されており(Zhang et al. 2022),日本では,1回目の緊急事態宣言下での人流抑制と感染緩和の有意な関連が示されている(Yabe et al. 2020; Nagata et al. 2021).しかし,先行研究の多くは流行初期を対象としているため,デルタ株が流行しワクチン接種が進んだ第5波や,オミクロン株が流行した第6波以降のNPIs実施に伴う人流変化と感染推移の関連は確かめられていない. 本研究は,流行初期から第7波におけるNPIs実施の人流抑制を介した感染推移への効果を都道府県ごとに検証した. Ⅱ.方法 1. 人流変化指標の作成 まず,流行前の全国の4次メッシュを性別・年齢階級別滞留人口の時間的な変化パターンに基づき排他的な6類型(低密度住宅地区,過疎・山間地区,居住無し昼間流入地区,高密度住宅地区,職住混在地区,オフィス街・繁華街)に分類した.次に,COVID-19流行下における各都道府県の日別・地区類型別滞留人口を流行前のものと比較し,人流変化指標を作成した.滞留人口データは,株式会社ドコモ・インサイトマーケティング提供のモバイル空間統計を用いた. 2. NPIsの効果検証 感染拡大指標を被説明変数,NPIs(緊急事態宣言,まん延防止等重点措置)の実施を説明変数,各地区類型での人流変化指標を媒介変数として媒介分析を実施した.それぞれの変数は日単位の時系列データとして整理され,状態空間モデルによりパラメータ推定を行った.なお,ワクチン接種の普及や変異株の出現により,NPIsの効果が時期で異なることが想定されたため,分析期間をデルタ株流行前(第1~4波: 以下I期),デルタ株流行+ワクチン接種普及期(第5波: 以下II期),オミクロン株流行以降(第6波以降: 以下III期)に分けた. Ⅲ.結果 媒介分析の結果,I期の東京都では,NPIsの実施がオフィス街・繁華街での夜間の滞留人口を減少させ,感染抑制に寄与したことが示された.また,NPIs実施の感染抑制効果のうち,オフィス街・繁華街での人流低下による効果は19%であったと推定された(95%ベイズ信用区間: 6% - 35%).一方,II期やIII期では,NPIsの実施が人流を低下させたものの,感染抑制への効果は認められなかった. 宮城県や大阪府でも同様に,I期においてはNPIsの実施によるオフィス街・繁華街での人流低下が感染抑制に寄与したが,II期以降のNPIsの効果は認められなかった. Ⅳ.考察 流行初期はNPIsによる人流抑制が感染緩和を規定する主な要因であったが,ウイルスの伝播性の変化やワクチンの普及,自粛疲れなどにより,NPIsによる人流抑制が感染推移に及ぼす影響は小さくなったことが示唆された. 参考文献 Nagata, S., et al. 2021. Mobility change and COVID-19 in Japan: mobile data analysis of locations of infection. J. Epidemiol., 31(6), 387-391. Yabe, T., et al. 2020. Non-compulsory measures sufficiently reduced human mobility in Tokyo during the COVID-19 epidemic. Sci. Rep., 10, 18053. Zhang, M., et al. 2022. Human mobility and COVID-19 transmission: a systematic review and future directions. Ann. GIS, 28(4), 501-514.
著者
中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本不動産学会
雑誌
日本不動産学会誌 (ISSN:09113576)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.73-78, 2019-12-26 (Released:2020-12-26)
参考文献数
29
被引用文献数
3 1

The concept of walkability has been emerged in interdisciplinary areas of public health, urban planning, geography, and other related disciplines as environmental characteristics of residential neighborhoods that promote daily walking and physical activity. As studies using perceived and objective environmental indices have been accumulated, it has become clear that walkable residential environments contribute to regional population health through enhancing physical activity of residents in various societies including Japan. Given the relationship between walkability and health, bridging between health policies and urban planning in various geographical contexts becomes increasingly important to design healthy neighbourhoods.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-113, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年の国勢調査においては,未回収や未回答に起因する「不詳」の増加が問題になっている.本研究は,小地域レベルの「不詳」発生における地理的特徴を探り,地域分析への影響と対処法について検討することを目的とした.2010年国勢調査を用いて「年齢」,「配偶関係」,「労働力状態」,「最終卒業学校の種類」,「5年前の常住地」に関する不詳率を算出し,都市化度別の集計,地図による視覚化,マルチレベル分析をおこなった.分析の結果,「不詳」発生は都市化度と明瞭に関連していると同時に,市区町村を単位としたまとまりを有していることが示された.このことから,国勢調査を用いた小地域分析において「不詳」の存在が結果に与える影響に留意するとともに,今後,「不詳」発生の傾向を探るための社会調査の実施や,データの補完方法についての基礎研究を進める必要性が指摘された.
著者
矢野 桂司 磯田 弦 中谷 友樹 河角 龍典 松岡 恵悟 高瀬 裕 河原 大 河原 典史 井上 学 塚本 章宏 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.12-21, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究では,地理情報システム(GIS)とバーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して,仮想的に時・空間上での移動を可能とする,歴史都市京都の4D-GIS「京都バーチャル時・空間」を構築する.この京都バーチャル時・空間は,京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を世界に向けて公開・発信するための基盤として,京都をめぐるデジタル・アーカイブ化された多様なコンテンツを時間・空間的に位置づけるものである.京都の景観要素を構成する様々な事物をデータベース化し,それらの位置を2D-GIS上で精確に特定した上で,3D-GIS/VRによって景観要素の3次元的モデル化および視覚化を行う.複数の時間断面ごとのGISデータベース作成を通して,最終的に4D-GISとしての「京都バーチャル時・空間」が形作られる.さらにその成果は,3Dモデルを扱う新しいWebGISの技術を用いて,インターネットを介し公開される.
著者
矢野 桂司 中谷 友樹 磯田 弦 高瀬 裕 河角 龍典 松岡 恵悟 瀬戸 寿一 河原 大 塚本 章宏 井上 学 桐村 喬
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.464-478, 2008-04-25
被引用文献数
2 19

バーチャル京都は,歴史都市京都の過去,現在,未来を探求することを目的に,コンピュータ上に構築されたバーチャル時・空間である。本研究では,最先端のGISとVR技術を用いて,複数の時間スライスの3次元GISからなる4次元GISとしてのバーチャル京都を構築する。本研究は,まず,現在の京都の都市景観を構築し,過去にさかのぼる形で,昭和期,明治・大正期,江戸期,そして,京都に都ができた平安期までの都市景観を復原する。<br> バーチャル京都を構築するためには以下のようなプロジェクトが行われた。a)京都にかかわる,現在のデジタル地図,旧版地形図,地籍図,空中写真,絵図,景観写真,絵画,考古学資料,歴史資料など位置参照可能な史・資料のGIS データの作成,b)京町家,近代建築,文化遺産を含む社寺など,現存するすべての建築物のデータベースおよびGISデータの作成,c)上記建築物の3次元VRモデルの構築,d)上記GISデータを用いた対象期間を通しての土地利用や都市景観の復原やシミュレーション。<br> バーチャル京都は,京都に関連する様々なデジタル・アーカイブされたデータを配置したり,京都の繊細で洗練された文化・芸術を世界に発信したりするためのインフラストラクチャーである。そして,Webでのバーチャル京都は,歴史的な景観をもつ京都の地理学的文脈の中で,文化・芸術の歴史的データを探求するためのインターフェイスを提供する。さらに,バーチャル京都は,京都の景観計画を支援し,インターネットを介して世界に向けての京都の豊富な情報を配信するといった重要な役割を担うことになる。
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.447-467, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

社会調査の回収率は,標本から母集団の傾向や地域差を適切に推定するための重要な指標である.本研究では,回収率の地域差とその規定要因を明らかにすることを目的として,全国規模の訪問面接・留置調査を実施しているJGSS(日本版総合的社会調査)の回収状況個票データを分析した.接触成功および協力獲得という二段階のプロセスを区分した分析の結果,接触成功率・協力獲得率には都市化度や地区類型によって大きな地域差がみられた.この地域差は,個人属性や住宅の種類などの交絡因子,さらに調査地点内におけるサンプルの相関を考慮した多変量解析(マルチレベル分析)によっても確認された.したがって,回収状況は個人だけでなく地域特性によっても規定されていることが示された.しかし,接触成功率・協力獲得率には説明されない調査地点間のばらつきが残されており,その理由の一つとして,ローカルな調査環境とでも呼びうる地域固有の文脈的要因の存在も示唆された.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 吉岡 達生
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.87-98, 2007-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
3 1

本稿では, 山口県岩国地域の高校生を対象とし, アレルギー性鼻炎有病率の地域差を, 居住地―通学先関係から分析した. 分析資料としては, 耳鼻科検診時の問診・視診結果を利用した. ロジスティック回帰分析による結果, アレルギー性鼻炎所見の有無に対して, 通学パターン, ぜん息の既往症, 家庭内の受動喫煙が影響を与えていることが明らかになった. アレルギー性鼻炎有病率の地域差については, 高校生の居住地を基準としてはみられなかったが, 高校生の通学先を基準とした場合には, 市部の高校への通学生は郡部の高校への通学生に比べ有病率が有意に高かった. この結果から, 市部の高校への通学生は, 日中の生活時間の多くを費やす高等学校周辺の地域において, アレルギー性鼻炎にかかるリスク要因となる環境に人体が暴露されている可能性が示唆された.
著者
佐野 洋 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.559-577, 2000-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
47
被引用文献数
1 1

多党化した日本における小選挙区制の選挙バイアスを明らかにするために,1996年衆議院議員総選挙の投票データを用いて選挙バイアスを測定した.その結果,英米の選挙について報告されてきたものよりも大規模な選挙バイアスを確認した.バイアスの構成では,議席定数の不均衡配分よりも死票によるものが大部分を占めている。また,多党制では政党規模が相対的に小さくなり,全選挙区で立候補者を擁立できないため,各政党は効率的な立候補者の擁立を図り,立候補者の有無によるバイアスが,死票を見掛け上少なく抑えている.これらのバイアスを介して,多党化の地域差は,議席定数の不均衡配分の効果と合わさり,「大都市圏」一「非大都市圏」間で1票が議席に与える影響力の格差を拡大している.
著者
中谷 友樹 矢野 桂司 井上 茂 花岡 和聖 伊藤 ゆり 田淵 貴大 埴淵 知哉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は(1)日本社会を対象としたADI指標(地理的剥奪指標)の提案と、(2)小地域(近隣地区レベル≒町丁字スケール)におけるADIと健康指標との関連性を近隣環境要因の媒介に着目した評価、の2点である。ADIについては、貧困・剥奪に関連した国勢調査の小地域統計資料を利用して算出し、各種の健康指標との関連性を分析した。結果として、主観的健康感やがんの生存率など、各種の健康指標の悪化と地理的剥奪の高さとの関連性を報告し、その背景となる近隣環境との関係を考察した。これらを通して、健康の地理学における学際的研究の推進とともに、日本における小地域統計を利用した統計の高度利用について検討した。
著者
浅見 泰司 山田 育穂 貞広 幸雄 中谷 友樹 村山 祐司 有川 正俊 矢野 桂司 原 正一郎 関野 樹 薄井 宏行 小口 高 奥貫 圭一 藤田 秀之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

あいまいな時空間情報概念の整理、あいまいな時空間情報に既存の時空間情報分析を行った時の影響分析、まわり、となりなどの日常的に使われながらも意味があいまいな空間関係の分析ツールの開発、時空間カーネル密度推定手法の開発、歴史地名辞書の構築と応用分析、あいまいな時間の処理方法の提案、古地図と現代地図を重ねるツールの開発、あいまいな3次元地形情報の分析、SNSの言語情報の空間解析、あいまいなイラストマップのGPS連動ツールの開発、スマートフォン位置情報データの分析、アーバンボリュームの測定と応用、あいまいな敷地形状の見える化などの研究成果を得た。
著者
村中 亮夫 瀬戸 寿一 谷端 郷 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.492-507, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26

本稿では,地域の防災・安全情報が記載されたWebマップをベースとした安全安心マップ(Web版安全安心マップ)について,利用者の活用意思とそれを規定する心理的な要因を分析した.分析資料としては,京都府亀岡市篠町のWeb版安全安心マップについて,紙地図ベースの安全安心マップ(紙地図版安全安心マップ)との対比から得られた利用者評価のデータを利用した.分析の結果,Web版安全安心マップでは紙地図版安全安心マップと比較して高い活用意思が表明され,Web版マップを積極的に活用する意義が示された.また,Web版マップを活用する意思の心理的な要因を検討する構造方程式モデリングの結果,Web版マップの利便性やそれを通して得られる地域の危険/安全箇所に関する認識の深まりの度合い,マップに掲載されている情報の充足性が,Web版マップの活用意思に正の影響を与えていることが示された.
著者
米島 万有子 中谷 友樹 安本 晋也 詹 大千
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000217, 2018 (Released:2018-06-27)

1.研究背景と目的 デング熱は,熱帯地域や亜熱帯地域を主な流行地とする代表的な蚊媒介性感染症の一つである.近年,温暖化や急速に進む都市化,グローバル化に伴い国内外の人や物の流れが活発になり,これまでデング熱の流行地ではなかった温帯の地域においても,デング熱の定着が懸念されている.日本では,2013年に訪日観光客のデング熱感染が報じられ,国内感染による流行が警告された(Kobyashi et al. 2014).翌2014年には首都圏を中心に,約70年ぶりの国内感染に基づくデング熱流行が発生した.これを受けて,防疫対策上,デング熱流行のリスクを推定することは,重要な課題となっている. これまでデング熱流行のリスクマップ研究では,様々な方法が提案されているものの,その多くはデング熱流行地を対象としている(Louis et al. 2014).デング熱が継続的に流行していない地域を対象とした近未来的な流行リスクを評価する方法は,気候条件によって媒介蚊の生息可能性のみを評価する方法(Caminade et al. 2012など)と,デング熱の流行がみられる地域の気候データと社会経済指標から流行リスクの統計モデルを作成し,これを非流行地にあてはめて,将来的な流行リスクの地理的分布を評価する方法がある(Bouzid et al. 2014).本研究ではこれらの先行研究を参考に,媒介蚊の生息適地に関する気候条件と,日本に近接する台湾でのデング熱流行から作成される統計モデルに基づいて,日本における現在と将来のデング熱の流行リスク分布を推定した.2.研究方法 本研究では,はじめにデング熱流行地の中でも日本に地理的に近く,生活様式も比較的類似している台湾を対象とし,台湾におけるデング熱流行リスクの高い地域を予測する一般化加法モデル(GAM)を作成した.デング熱患者数のデータは,台湾衛生福利部疾病管制署で公表されている1999年~2015年に発生した郡区別の国内感染した患者数を用いた.Wen et al. (2006)を参考に,患者数のデータからデング熱の年間発生頻度指標(Frequency index(α))を求め,これを被説明変数とした.説明変数には,都市化の指標として人口,人口密度,第一次産業割合を,気候の指標として気温のデータから算出した積算rVc(relative vectorial capacity)値を,媒介蚊の違いを考慮するための指標として,Chang et al.(2007)をもとにネッタイシマカの生息分布の有無を示すダミー変数を設定した.rVcはデング熱ウイルスに感染した蚊が人間の間に感染を広める能力を示す指標である.rVcは月平均気温の関数として求めており,その詳細については,安本・中谷(2017)を参照されたい. 上記の作成したモデル式に,日本国内の人口や気候値をあてはめて,台湾のデング熱流行経験に基づいた日本での流行発生頻度の予測値を求めた.人口および第一次産業割合のデータは2010年の国勢調査のデータを,2050年の人口データは国土数値情報の将来推計人口を用いた.なお,日本のリスクマップ作成では台湾の郡区と平均面積がおおむね一致する2次メッシュ単位で作成した.3.結果 台湾の郡区別にみたデング熱の発生頻度を従属変数としたGAM分析結果,気候指標の積算rVc,都市化の指標の人口密度,第一次産業割合に有意な関係性が認められた. このモデルを用いて,日本の2010年と2050年のデータを用いて,現在と将来のデング熱の流行リスクマップを描いた.現在では,リスクの高い地域は大都市圏の中心部に分布している.しかし,気候変動の影響によってデング熱の流行リスクの高い地域は著しく拡大することが推定された(図1).4.おわりに 本研究は,台湾のデング熱流行経験に基づいて,現在の日本のデング熱の流行リスク分布と気候変動の影響による流行リスク分布の推定を定量的な手法によって行った.2014年の流行発生地は,本研究の結果においてもリスクの高い地域であった.長期的にも気候の温暖化の影響によって,デング熱流行リスクの地理的分布は拡大することが示された.付記:本研究は,JST-RISTEX「感染症対策における数理モデルを活用した政策形成プロセスの実現」(代表:西浦博)において実施した.