著者
竹村 和朗
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

本発表は、個人の語りを書くことについて考察する。録音された対話をそのままテクストにしたドゥワイヤーの実験的民族誌の手法と異なり、発表者は、Gの語りを録音せず、わずかなメモと記憶にもとづき会話の後に記したフィールドノートを材料とする。この違いにもとづき、個人の語りを書く人類学者の役割は、「立ち聞きする者」でも「対話者」でもなく、聞いた話を自ら解釈し再構成する「ノンフィクション作家」であると論じる。
著者
竹村 和朗
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.32-51, 2020-12-15 (Released:2021-01-07)
参考文献数
11

本稿は,エジプトの最高憲法裁判所が2008年に言い渡した,1952年法律第180号の第3条に関する違憲判決を解題し,その全文翻訳を提示するものである。同法は,一般に「家族ワクフ」と呼ばれていた寄進財制度を廃止し,その財産を関係者に分配することを定めた。これは,相続の取り分に関わるため,広汎な社会層に争いを生み出し,そのうちのひとつが最高憲法裁判所にまで至ったのである。同法が制定されてから半世紀以上の時間が経過した後に,なぜこのような展開が生じたのだろうか。判決の影響力はどこまで及ぶのだろうか。本稿の解題部では,判決の資料的側面(第Ⅰ節),判決文から読み取られる家族ワクフをめぐる争いの実相(第Ⅱ節),そして違憲の判断を下した裁判官の論理(第Ⅲ節)を明らかにする。本稿の資料部では,同判決の内容を原形式のまま全訳し,解題部の議論が実際の判決文でどのように表現されているかを確認できるようにした。