著者
関 義元 箕輪 良行 境田 康二 笠倉 貞一 伊藤 善一 栗原 宣夫 金 弘
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.11, pp.718-724, 2002-11-10

背景:日本国内において,PADPの導入が推奨される基準を満たす地域または施設があるかどうか,未だ検討された報告はなくPADPの妥当性は定まっていない。目的:千葉県船橋市の心停止を調査し,この地域または地域内の施設におけるPADPの導入が推奨されるかどうかを検討する。方法:船橋市は人口550,079人,面積は85.64km<sup>2</sup>, 65歳以上人口は68,878人で全人口に対する割合は12.6%の都市である。1998年4月から2000年3月までの調査期間にドクターカーが出動した心停止700例につき,船橋市ドクターカー出動記録を用いて後ろ向きにウツタイン様式に基づいた調査を行った。船橋市における単位人年当たりの蘇生対象となった心停止の発生頻度が1,000人年当たり1例以上という基準を満たすかどうか,また,各施設においては5年間に1回以上のAEDの適切な使用が見込まれるかどうか,すなわち5年間に1例以上の目撃された心原性心停止が発生するかどうかを検討した。大規模施設として,ららぽーとスキードームザウス,船橋オートレース場,および2か所の競馬場(船橋競馬場,JRA中山競馬場)の4か所,3施設群を選び,入場者数当たりの目撃された心停止の発生頻度についても調査した。結果:蘇生対象となった心停止は492例発生し,1,000人年当たりでは0.45例となり基準を満たさなかった。駅,老人ホーム,診療所では,5年間に1例以上の目撃された心原性心停止は発生せず基準を満たさなかった。大規模施設では入場者100万人当たりの目撃された心原性心停止は0.35-1.33例の発生があった。すべての施設群で,5年間に1例以上の目撃された心原性心停止の発生があり基準を満たした。結論:今回の検討では,千葉県船橋市において地域でPADPを導入することは推奨されない。今回調査した大規模施設ではPADPの導入が推奨される。ただし,競馬場では医師が開催日に常駐しており,現状でも医師の使用を前提としたAEDの設置が有用と考えられた。
著者
笠倉 貞一 小山 信弥 長瀬 英義 小松 寿 亀谷 寿彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.1031-1036, 1980-12-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
17

手術時には血糖値が上昇することはすでに知られている事実であるが,とくに心手術の際の体外循環下における非生理的状態は著明な高血糖と低インスリン値を示すことが知られている.われわれは今まで体外循環終了時に50%グルコースおよびインスリン20単位を投与していたが,さらにこれらをコントロール(第1群)として,体外循環開始後10分および20分後にインスリンを各々10単位投与する群(第2群),さらに心筋保護液のひとつであるGIK液を用いた群を第3群として体外循環開始前,開始後15分毎に採血を行い,血糖値,インスリン値および乳酸値を3群間で比較してみた.第1群では血糖値は手術終了後も著しい高値を示しており,体外循環終了時に投与する外因性のインスリンはまだ十分その効果を示していないように思われる.一方体外循環開始後10分および20分後にインスリンを投与する(第2群)と,血糖値は400mg/dl以下に維持できた.さらに第3群のGIK液投与群では血糖値も第2群と同様に400mg/dl以下に維持でき,さらに大きな相違点として,乳酸値は他の2群と比べ有意に低値を示した.即ち心筋保護液として用いるGIK液はいわゆる嫌気性代謝による乳酸の上昇を抑え,血糖のコントロールにはじまり,術後の心拍再開にも良く,また術後の不整脈の発生もある程度抑えることができ,術後の管理にも有効であり,一石二鳥であると云える.