著者
箕輪 良行 柏井 昭良 井上 幸万
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.9, pp.444-450, 2000
被引用文献数
1

目的と背景:自動二輪車と自転車の乗用者ヘルメット着用は,頭部外傷を減らし死亡率を下げると実証されている。大宮市は人口44万人で交通の要地にある首都圏の都市である。約25年間にわたり児童がヘルメットを着用して通学している小学校がある。ヘルメット着用の義務化が交通事故およびその死亡を減らすかを検討するのが本研究の目的である。方法:遡及的なケース・コントロール法で検討した。市内36の小学校の生徒(延べ約20万人)を対象母集団とした。89~95年度に学校管理内外に発生した学童の交通事故およびその死亡について調べた。年間交通事故件数が10件以上の主要な国道および県道から1km以内にすべての小学校が存在している。ヘルメット全員着用を指導している4校と,91年前後に着用を自由化(中止)した4校をケース群とした。これ以外の28校をコントロール群とした。着用を自由化した前後で期間を分けて,交通事故件数,死亡者数を比較検討した。結果:89~91年度(前期)から92~95年度(後期)で36校の生徒1,000人当たりの年間交通事故件数(事故率)は1.0から1.4に増加した(p<0.05)。ヘルメットの全員着用を自由化した4校(自由化群)の事故率は前期0.4から後期1.6に有意に増加した(p<0.01)。全員着用を継続した4校(全員着用群)の事故率は,前期1.3から後期0.4へ減る傾向がみられた。ケース群の全員着用群と自由化群のうち前期の部分を合わせたものの事故率は0.7で,コントロール群と自由化群の後期を合わせたものの事故率1.3に比して低かった(p<0.05)。36校全体の死亡数は前期0人から後期3人へ増加した。全員着用群では期間中に死亡がなかった。結語:交通の要地である都市で実施されてきた小学校児童のヘルメット着用は,交通事故および死亡を減らしたと示唆された。
著者
箕輪 良行 柏井 昭良 井上 幸万
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.9, pp.444-450, 2000-09-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

目的と背景:自動二輪車と自転車の乗用者ヘルメット着用は,頭部外傷を減らし死亡率を下げると実証されている。大宮市は人口44万人で交通の要地にある首都圏の都市である。約25年間にわたり児童がヘルメットを着用して通学している小学校がある。ヘルメット着用の義務化が交通事故およびその死亡を減らすかを検討するのが本研究の目的である。方法:遡及的なケース・コントロール法で検討した。市内36の小学校の生徒(延べ約20万人)を対象母集団とした。89~95年度に学校管理内外に発生した学童の交通事故およびその死亡について調べた。年間交通事故件数が10件以上の主要な国道および県道から1km以内にすべての小学校が存在している。ヘルメット全員着用を指導している4校と,91年前後に着用を自由化(中止)した4校をケース群とした。これ以外の28校をコントロール群とした。着用を自由化した前後で期間を分けて,交通事故件数,死亡者数を比較検討した。結果:89~91年度(前期)から92~95年度(後期)で36校の生徒1,000人当たりの年間交通事故件数(事故率)は1.0から1.4に増加した(p<0.05)。ヘルメットの全員着用を自由化した4校(自由化群)の事故率は前期0.4から後期1.6に有意に増加した(p<0.01)。全員着用を継続した4校(全員着用群)の事故率は,前期1.3から後期0.4へ減る傾向がみられた。ケース群の全員着用群と自由化群のうち前期の部分を合わせたものの事故率は0.7で,コントロール群と自由化群の後期を合わせたものの事故率1.3に比して低かった(p<0.05)。36校全体の死亡数は前期0人から後期3人へ増加した。全員着用群では期間中に死亡がなかった。結語:交通の要地である都市で実施されてきた小学校児童のヘルメット着用は,交通事故および死亡を減らしたと示唆された。
著者
山田 至康 市川 光太郎 伊藤 泰雄 長村 敏生 岩佐 充二 許 勝栄 羽鳥 文麿 箕輪 良行 野口 宏
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.65-81, 2012-02-15 (Released:2012-03-20)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

小児救急医療においては初期・2次救急への対応策が取られてきたが,平成21年度からは厚生労働省による検討会が持たれ,3次救急への対応が検討されるようになった。今回の調査では9割近くの救命救急センターは,常に小児救急医療に対応していたが,施設の特徴により受診数や入院数,入院病名には差異が見られた。小児の年間ICU入院数は平均19.3名で,CPA数平均4.0名,死亡退院数平均2.7名が示すように重篤患者は少なかった。小児の利用可能なICUは20.3%にあったが,そのうちで救命救急センター内にあるものが7.2% で,病床数は平均1.6床であった。時間外における小児科医の対応は72%で可能であったが,救命救急センターの常勤小児科医によるものは15%であった。救命救急センターは施設間に偏りがあるものの小児の3次救急に可能な範囲で対応していた。小児の内因性疾患に対応可能な施設は,小児科医と救急医が協力し,重篤小児の超急性期の治療を進めていく必要がある。
著者
井上 仁 箕輪 良行 河野 正樹 崎原 永作 立花 一幸 沼田 克雄
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.32-41, 1994-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究は,ヘリコプターなどによる救急患者搬送の諸問題に関して,搬送を要請する側の離島に勤務する現地医師の立場からの意見を,アンケート調査により集約し検討したものであり,この種の研究としては本邦ではじめてのものである。対象は,北海道,東京,島根,長崎,鹿児島,沖縄の6地域の遠隔離島などに在任中または勤務経験をもつ医師200人とし,記名による回答を94人(47.0%)から得た。収容病院の特徴としては,十分なコミュニケーションが可能な病院(68.1%),臨床研修を受けた病院(33.0%)が多くみられた。北海道や長崎の離島では,明確に規定された搬送要請基準が回答された。なかでも長崎では,極小未熟児分娩の予想される母体,先天性心疾患で緊急手術を必要とする症例など,適応疾患5項目を具体的にあげていた。2名以下の医師が勤務する東京,鹿児島,沖縄の小離島では,スタッフや施設機能の不十分に起因する要請が多く,診断がつかない場合や,長期入院を要する場合にも搬送要請の基準としている回答が多い傾向があった。要請から搬送までの問題点としては夜間,荒天時搬送機能の確保充実を求める回答が59.6%と最も多く,搬送時間短縮のために基幹病院ヘリポートの設置を求める意見が多くみられた。医師の添乗義務については,全例に必要と,重症のみ必要が同数であった(43.6%)。添乗医の確保ができず,要請を撤回することもある現状が9回答報告された。また,添乗医の安全性確保を現地医師の75.5%が強調していた。現状では搬送中機内での医療行為がほとんど不可能であることから,医師添乗を義務づけるならば医療行為可能な搬送専用ヘリコプターの導入が望まれる。問題点のある搬送76例,搬送を考えたが最終的には搬送しなかった37例が報告された。このなかで気象条件,患者の容態,要請手続きなどに関して具体的に問題点が指摘された。
著者
関 義元 箕輪 良行 境田 康二 笠倉 貞一 伊藤 善一 栗原 宣夫 金 弘
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.11, pp.718-724, 2002-11-10

背景:日本国内において,PADPの導入が推奨される基準を満たす地域または施設があるかどうか,未だ検討された報告はなくPADPの妥当性は定まっていない。目的:千葉県船橋市の心停止を調査し,この地域または地域内の施設におけるPADPの導入が推奨されるかどうかを検討する。方法:船橋市は人口550,079人,面積は85.64km<sup>2</sup>, 65歳以上人口は68,878人で全人口に対する割合は12.6%の都市である。1998年4月から2000年3月までの調査期間にドクターカーが出動した心停止700例につき,船橋市ドクターカー出動記録を用いて後ろ向きにウツタイン様式に基づいた調査を行った。船橋市における単位人年当たりの蘇生対象となった心停止の発生頻度が1,000人年当たり1例以上という基準を満たすかどうか,また,各施設においては5年間に1回以上のAEDの適切な使用が見込まれるかどうか,すなわち5年間に1例以上の目撃された心原性心停止が発生するかどうかを検討した。大規模施設として,ららぽーとスキードームザウス,船橋オートレース場,および2か所の競馬場(船橋競馬場,JRA中山競馬場)の4か所,3施設群を選び,入場者数当たりの目撃された心停止の発生頻度についても調査した。結果:蘇生対象となった心停止は492例発生し,1,000人年当たりでは0.45例となり基準を満たさなかった。駅,老人ホーム,診療所では,5年間に1例以上の目撃された心原性心停止は発生せず基準を満たさなかった。大規模施設では入場者100万人当たりの目撃された心原性心停止は0.35-1.33例の発生があった。すべての施設群で,5年間に1例以上の目撃された心原性心停止の発生があり基準を満たした。結論:今回の検討では,千葉県船橋市において地域でPADPを導入することは推奨されない。今回調査した大規模施設ではPADPの導入が推奨される。ただし,競馬場では医師が開催日に常駐しており,現状でも医師の使用を前提としたAEDの設置が有用と考えられた。
著者
箕輪 良行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.103, 2012-01-15

1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という筆者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた.また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった. 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である.クレーム実例から出発しているのでリアルであり,真摯(しんし)な語りかけである.この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院刊)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つうえでうまい戦略だと感心させられた.
著者
山下 雅知 明石 勝也 太田 凡 瀧 健治 瀧野 昌也 寺澤 秀一 林 寛之 本多 英喜 堀 進悟 箕輪 良行 山田 至康 山本 保博
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.416-423, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
17
被引用文献数
9 9

日本救急医学会救急科専門医指定施設に対してアンケート調査を行い,ER型救急医療の実施状況を調査した。408施設中283施設からアンケートの回答が得られ,有効回答は248施設であった(有効回答率88%)。このうち24時間または一部の時間帯でER型救急医療を行っていると回答した施設は150存在した(248施設の60%,24時間82施設,一部の時間帯68施設)。150施設中,救命救急センターは64施設,日本救急医学会指導医指定施設は23施設,大学病院は38施設存在した。150施設の病床数,年間救急患者数,救急搬送患者数の最頻値は,それぞれ501~750床,10,001~20,000人,2,001~4,000人であった。救急医及びER型救急医数は 1 ~16人以上と広い分布を示したが,最頻値はともに 1 ~ 3 人であった。ER型救急医療は,150施設中139施設で初期臨床研修に活用されていた。ER型救急医の後期研修プログラムは68施設で実施され,36施設で準備中であった。24時間ER型救急医療を実施している施設では,一部の時間帯で実施している施設に比して,救急医数・ER型救急医数ともに有意に多かった。以上から,日本救急医学会救急科専門医指定施設の60%でER型救急医療が実施されていること,ER型救急医療を実施している施設において救急医及びER型救急医の人的資源は十分とはいえないこと,が明らかとなった。今後も増加が予想される救急患者に対応するために,救急科専門医及びER型救急医をどのように育成していくかについて,国家的な戦略が必要であると考えられた。
著者
堀 進悟 太田 祥一 大橋 教良 木村 昭夫 河野 寛幸 瀧野 昌也 寺沢 秀一 箕輪 良行 森下 由香 明石 勝也 山本 保博
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.644-651, 2007-09-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
18
被引用文献数
12 12

本邦では, 救急医の業務は主に重症救急患者の入院診療に従事することと考えられてきた。近年, 救急医が重症度に関わらずすべての救急患者を診療するER型救急医療モデル (ER : Emergency Room) が導入されつつあるが, その実施状況が調査されたことはなかった。本研究の目的は, 日本救急医学会ER検討特別委員会のactive member (註) が勤務する施設を対象として, ER型救急医療の実施状況を調査することである。2006年6月にアンケートが60施設に送付され, 28施設から有効回答を得た。ER型救急医療は22施設で行われ, このうち12施設 (55%) では24時間体制で実施されていた。ER型救急医療を実施する施設では, 重症度にはよらず, すべての救急患者を同一の救急室で診療している場合が多かった (17施設, 73%)。これらの施設には, 最頻値で救急医6~10人, ER型救急医1~3人が勤務し, 10~20人の1年次初期臨床研修医が研修中であった。初期研修医の救急医療研修は, すべての施設でER型の救急医療研修が行われていた。ER型救急医の後期臨床研修プログラムを有する施設は7施設, 準備中の施設は11施設存在した。以上から, 本邦において一部の医療施設ではER型救急医療が実施されていること, 及び救急医の人的資源が十分ではないことが明らかとなった。註 : ER特別検討委員会はER型救急医療の普及啓蒙を活動目標とするため, 委員のみによる活動推進は困難である。このためactive memberを募り, 活動に参加している。本研究実施時のactive memberは86人であった。