著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012-03-25 (Released:2017-06-12)

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.223-242, 2014

ポストモダンの芸術体験におけるコミュニケーション研究から,理性と感性の統合におけるコミュニケーションの感性的位相に着目した実践研究を行った。幼児の絵画表現ワークショップを対象に,参与観察とビデオ記録によるビジュアル・エスノグラフィーを基にエピソード分析を行った。芸術体験の中で相互に情動が感受・共有される様子や相互の変容,関係性と場の変容が生まれる様子と過程を明らかにした。こうした芸術体験における相互の変容は言葉の意味伝達だけでなく,情動や身振り,場の雰囲気などが力動感(vitality affect)を伴いつつ,非自覚的・非直接的なコミュニケーションとして豊かに媒介されていた。芸術体験の実相とその意味生成には,感性的コミュニケーションが大きく影響していることが明らかになった。
著者
茂木 一司 布山 毅 廣瀬 浩二郎 伊藤 亜紗 手塚 千尋 宮本 聡 大内 進 笠原 広一 池田 吏志 山城 大督
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

視覚障害教育は粘土造形による「触る美術教育」として発展・認知されてきたが,近年対話型鑑賞などによる「触らない=言葉による鑑賞」が注目を集めはじめ,二極化もみられる。本研究は,そのような触る/触らない、もの/テキストなど視覚障害美術教育における二元論的な対立を回避し,見えない人も見える人も「ともに歩めるインクルーシブアート教育」の理念と具体的なアナログ・デジタルメディアを使った題材・教材およびカリキュラム作成をめざして,取り組む実験的な研究である。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.113-128, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
51

本研究は近年,国際的な美術教育研究において注目されるArts-BasedResearch(ABR)に基づく日本での美術教育研究の可能性について検討を行ったものである。 その結果,ABRの海外での研究動向を調査すると,近年の国際学会やABRを専門とする学会や部会が成立するなど,一つの重要な研究動向となっていることが分かった。次に国内での研究動向の調査から,日本では教育学や社会学における質的研究において2000年代初頭に紹介され,演劇や社会学での実践が先行していることが分かった。近年の国際的な教育政策の連動性の中では,こうした国際的な研究動向の検討も不可欠であり,美術教育ではここ数年に研究が始まった状況であり,今後の研究が求められる。また,海外での成立の背景と歴史を整理すると,人文科学や社会科学における質的研究の発展と,そうした質的研究が芸術の特性に着目することでABRの理論化と実践化が進み発展してきたことがわかった。新しい美術教育の実践理論としての可能性も示唆され,今後は日本の美術教育研究においても理論的,実践的に検討を進める必要性がある。
著者
笠原 広一
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-173, 2012

多様な価値観や差異が増大する社会では,理性的コミュニケーションが有効である一方,近代の理性中心的な合理主義の弊害を越えるべく感性的コミュニケーションが求められる。理性と感性の統合は美的教育の歴史的重要テーマであった。それには単に操作的統合ではなく,矛盾する概念相互の動的緊張関係を伴う統合の具体的方法が必要である。近年の感性研究の中で,気持ちの繋がりを質的心理学的の視点から「感性的コミュニケーション」として研究する理論に注目した。それに依拠することで,「気持ちの繋がりと喜びを感じる実践」「自発性と遊びから始まる実践」「感性と理性を往還する多様な共有方法」「実践者の感性的かつ理性的な省察」が芸術教育実践の新たな指標として導きだされた。