著者
籾山 陽子 水野 みか子
雑誌
芸術工学への誘い (ISSN:21850429)
巻号頁・発行日
no.21, pp.27-33, 2017-03-31

ルネサンスからバロック期のイギリスの声楽曲では音節数が変化する語の変化の前後の形を曲中に並存させることにより歌詞付けに自由度を得ているが、現代の日本語曲にも類似の現象がある。基本的に歌詞の1 モーラに1 音を割り当てるが、特殊モーラは単独で1 音を割り当てる場合と前接する自立モーラと合わせて1 音を割り当てる場合がある。曲中に両者が並存している場合も多く、この柔軟性が表現の自由度を与えているとみられる。この点に着目し、理想の歌唱における歌詞付けの違いの音響への反映を解明するために、声楽の大学院生を被験者として歌唱データを収集した。そのうち撥音と促音について、これらの相違やそれぞれの歌詞付けの違いが音響に如何に反映されるかを分析・考察する。
著者
籾山 陽子
出版者
日本音楽表現学会
雑誌
音楽表現学 (ISSN:13489038)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-12, 2015-11-30 (Released:2020-05-25)
参考文献数
39

G. F. ヘンデル(George Frideric Handel, 1685-1759)のオラトリオ《メサイア》(Messiah)(1741)の歌詞付けについては不自然な部分があるとしばしば指摘されてきた。本稿では、歌詞付けが特異とされる箇所のうちイタリア歌曲の連声 (elision)の技法が用いられている部分についてその歌詞付けを評価した。まず、作曲当時の自筆譜・指揮譜から現代譜までを参照してそれらの部分の対処の変遷を調べた。次に、英語学の視点から連声に関係する語句の発音の変遷について調べ発音と歌詞付けの関係を考察した。その結果、ヘンデルの歌詞付けは作曲当時の王侯貴族の正統派の発音に従っていること、 当時は違和感がなく滑らかな演奏がなされていたが後世市民階級の台頭により発音が変化したためそれらの歌詞付けで歌うことが難しくなったことが明らかになった。また、当時の発音を復元して演奏した結果、作曲時に想定されていた演奏は歌詞付けと発音が相俟って伸びやかなものだったことも明らかになった。