著者
粕渕 辰昭 荒生 秀紀 安田 弘法
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.65-69, 2019 (Released:2021-05-03)
参考文献数
10

江戸時代に開発された水田の多数回中耕除草法を現在の農法のなかで再現することを試みた.具体的には,苗は露地でプール筏育苗を行い,中耕除草はチェーン除草装置付きのミニカルチを用い,中耕除草 回数は 0 ∼ 16 回まで行った.その結果,中耕除草回数が 4 回以上で慣行農法に近い収量が得られただけでなく,食味値 85 以上で 1 等級に格付けされる高品質となった.このことは多数回中耕除草法により土壌撹拌を繰り返すことで,除草と同時に土の攪拌により,物理的には均一化 · 膨軟化 · 透水性の改良,化学的には分解作用の促進,生物的には光合成微生物群による窒素固定量の増加,生態的には水田生態系の成立と病虫害の低下が考えられた.多数回中耕除草法はイネと水田の機能を生かし,省資源 · 低投入 · 環境との調和を目指す新たな水田農法の可能性を示した.
著者
粕渕 辰昭 中野 政詩
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.237-241,a2, 1989-03-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
6

土中の物質移動が,太陽放射を源とするエネルギの移動と深く結びついていることに焦点を当てて解説した。まず,地表におけるエネルギの流れとそれに連携した土中の熱伝達の特徴を述べ,重力とは逆の方向である下から上に向う流れが重要であることを指摘した。次に,土中におけるエネルギ移動と物質移動との相互関係について,水分不飽和領域における温度勾配下の水移動の特徴を述べた。さらに,視野を拡大し地球レベルでの土中のエネルギと物質移動を生物圏の中で位置づけ,今後の農地管理にもこの視点が必要であることを述べた。
著者
吉田 力 粕渕 辰昭
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

山形県置賜平野の北東に位置する屋代郷低位泥炭地を実験地として本研究を進めた。この地区の積は約950haであり、泥炭層の深さは深いところで約9mであり、最深部に位置する所には積が約5.3haの残存湖(白竜湖)が存在する。この湖周辺の湿原は県の天然記念物として指されている。現在この地区はほとんど水田として利用されているが、近年、営農の合理化のため、場の大型化、大型機械の導入のための乾田化の要求が強い。しかし、湿原保全と湿田の基盤整備相矛盾するところが多い。そこで本研究は以下のことを中心に検討した。1)本地区の地盤沈下の実態調査。2)循環灌漑が低位泥炭地水田におよぼす影響。3)地盤沈下や水環境とも関連の深い白竜湖の面積の推移、4)道路荷重と泥炭の圧密について、5)土壌汚と水質、6)泥炭地内の構造物の耐酸性得られた結果を要約すると以下のようになる。1)本地区は40年間で平均70cmの地盤の変動が確認された。この変動の主たる原因は表層の消失によるものであった。2)この変動は北海道の場合と比較するときわめて少ないものであた。その理由は、この地区は閉鎖系であり、末端部に水門を設け水位を常に一定に保ってるからである。さらに、灌漑期には水門を閉じ循環灌漑を行っているためである。このような水理と対応して白竜湖の面積の縮小速度も著しく遅くなってきた。3)道路荷重により泥炭は圧密れるが、泥炭の透水係数は水田の1/10〜1/15に低下することがわかった。4)かつて指された重金属汚染、水質については現在は問題はない。地区内構造物の酸化の問題も水質調査の果から問題はないことが明らかとなった。この結果は、湿原の保全と周辺地区の開発との両立に示唆を与えるものである。