著者
若杉 晃介 原口 暢朗
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.121, pp.35-42, 2012 (Released:2021-08-26)
参考文献数
2
被引用文献数
1

東京電力福島第1原発の事故に伴い,広範囲にわたる地域が放射性物質により汚染され,土壌中の放射性物質濃度が高い農地では栽培が制限されている.これらの農地において放射性物質は,表層 2~3 cmに集積していることから,この土壌層の選択的な除去は,確実な除染効果が期待できる.一方,一般的な建設機械による従前の操作では,剥ぎ取り厚さの制御が困難であり,処理土量の増加や施工費の増大,取り残しの発生など,多くの問題が懸念されている.そこで,土壌固化剤を用いて汚染土壌層を固化し,油圧ショベルの操作方法やバケットを改良することで,剥ぎ取り厚さを表層から2~3cm に制御でき,かつ安全・確実に剥ぎ取る工法を開発した.
著者
牧野 知之
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.25-32, 2020 (Released:2020-10-29)
参考文献数
20

水田における有害元素汚染に対する化学的な対策として,カドミウムを対象とした土壌洗浄法および鉄資材と湛水栽培を組み合わせた玄米ヒ素低減法を紹介した.洗浄法では,各種薬剤から塩化鉄(III) を最適洗浄剤として選定した.塩化鉄(III) による土壌カドミウムの抽出メカニズムは鉄イオンの加水分解反応による pH 低下および塩素イオンとカドミウムの錯体形成である.洗浄後はオンサイトに設置した排水処理装置で洗浄廃水を処理する.土壌カドミウムは 60 ∼ 70 %,玄米カドミウムは 70 ∼ 90 %低減した.ヒ素に関しては,鉄鋼スラグ,水酸化鉄,ゼロ価鉄を水田に施用して,玄米ヒ素の低減効果を示した.ゼロ価鉄を施用すると土壌溶液および玄米ヒ素が最も低減した.強還元性を示すゼロ価鉄表面における難溶性ヒ素硫化物の生成に起因すると考えられる.
著者
若月 利之
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.13-25, 2009 (Released:2021-09-06)
参考文献数
37

ガーナ,ナイジェリア等における筆者らの水田稲作研究に基づき,アフリカの水田農業において緑の革命が成功していない自然科学 · 社会科学的要因を述べ,緑の革命の実現を可能にするための二つの仮説(水田(Sawah,サワ)仮説)について解説した.第一の仮説は,「アフリカに緑の革命をもたらす技術は,バイオテクノロジーのような品種改良だけでは不十分であり,農民の穀物栽培生態環境の改良を行うエコテクノロジー(生態工学技術)が必要」であり,第二の仮説は,「水および物質の循環量の少ないアフリカにおいては水田の開発適地の選別が重要であることを前提に,適地に開発された水田は適切に管理されれば,畑作の 10 倍以上の持続可能な生産性をもたらすこと」である. 後者において,水田の開発適地の選別のためには,集水域における物質循環の把握が重要であり,土壌物理学分野の研究協力が不可欠であることを述べた.
著者
関 勝寿 岩田 幸良 柳井 洋介 亀山 幸司
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.35-44, 2023-11-20 (Released:2023-12-18)
参考文献数
16

土壌の水分特性曲線の近似ではvan Genuchten のVG モデルが広く使われているが,団粒構造が発達した黒ボク土のような土壌では,VG モデルを足し合わせるDurner(1994) のdual-VG モデルがより適している.本研究では,SWRC Fit のdual-VG モデルによる非線形回帰のアルゴリズムを改良した.すなわち,水分特性曲線を高水分領域と低水分領域に分割し,それぞれをVG モデルで近似して得たパラメータをdual-VG モデルの初期値として与えて近似するという手法である.日本全国のアスパラガス圃場を中心とした試験圃場の実測データによりこの手法の精度を検証した.開発された手法により,検証されたすべての土壌において大域解とほぼ等しい適合度の曲線が得られることが示された.また,修正AIC によるVG モデル,dual-VG モデル,dual-VG-CH モデル(dual-VG モデルにおいてα1=α2 と したモデル)の比較をしたところ,黒ボク土,低地土,褐色森林土において,dual-VG モデルが最も適している試料が多いことが示された.
著者
落合 博之 登尾 浩助 太田 和宏 北浦 健生 北 宜裕 加藤 高寛
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.13-17, 2011 (Released:2021-08-30)
参考文献数
8

土壌への熱水の浸透が均一でない圃場における研究では,温度分布の状況把握が行われていない.本研究ではサーモグラフィーを用いて熱水土壌消毒後のハウス内での熱水散布時における地表面温度分布について調べた.同時にセンサー埋設での埋め戻しによる土壌状態の変化によって起こる土壌中の水分移動の影響を温度変化を指標として評価した.熱水散布後,ハウス内全域で地表面温度分布がほぼ一様であることがわかり,これまで行ってきた 1 点での温度測定がハウス内全体の代表値となりうることがわかった.また,センサー埋設のために掘った穴の埋め戻し部表面では,熱水の浸透の影響と耕盤層破壊の影響で他の場所より温度が高くなった.このことより,埋め戻し部から選択的に熱水が浸透して深層土壌で不均一になることがわかり,不適切な埋め戻しが土壌水分量や地温の測定値に大きく影響する可能性があることがわかった.
著者
落合 博之 登尾 浩助 北 宜裕 加藤 高寛
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.9-12, 2009 (Released:2021-09-05)
参考文献数
14

土壌消毒の中心であった臭化メチルの使用が全面禁止され,それにより低負荷消毒法として熱水土壌消毒法が脚光を浴び始めた.しかし,熱水土壌消毒法は,新しい消毒法のため研究例が少ない.そこで本研究では,硝酸態窒素と塩素,亜硝酸態窒素,アンモニウム態窒素の濃度変化を調べた.実験は,温度90 ◦C の熱水を土壌に 204 L m−2 供給し,熱水消毒前と熱水投入 9 日後,熱水投入 3 ヶ月後の溶質濃度を,地表面から深さ 40 cm まで 5 cm 毎に採土後,土壌溶液を抽出し,土壌溶液中の溶質濃度変化について調べた.その結果,熱水消毒により溶脱が促進された.また,熱水投下から 3 ヶ月後に,硝酸態窒素,塩素,亜硝酸態窒素は,30 cm 以深で溶質濃度の増加が見られた.一方アンモニウム態窒素は,熱水により硝酸化成菌が死滅したためにはじめはほとんど変化がなく,時間経過と共に硝酸化成菌の復活 により深層で減少したと考えられた.
著者
関 勝寿 取出 伸夫
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.19-27, 2023-07-20 (Released:2023-07-25)
参考文献数
20

水分保持曲線-不飽和透水係数連結モデルのMualemモデルとBurdineモデルを一般化した一般化透水モデルに対して,Brooks and Coreyモデル,van Genuchtenモデル,Kosugiモデルの水分保持関数から不飽和透水性係数の閉形式解を導出する方法を解説した.さらに,線型結合モデルに対する不飽和透水係数の閉形式解の導出方法を示した.関連する議論として,一般化透水モデルの有用性を示し,また,飽和近傍で透水性曲線の傾きが極めて大きくなり,不飽和透水係数が飽和透水係数に対して不自然に小さくなることを避けるための修正式の一般式を示した.
著者
粕渕 辰昭 荒生 秀紀 安田 弘法
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.65-69, 2019 (Released:2021-05-03)
参考文献数
10

江戸時代に開発された水田の多数回中耕除草法を現在の農法のなかで再現することを試みた.具体的には,苗は露地でプール筏育苗を行い,中耕除草はチェーン除草装置付きのミニカルチを用い,中耕除草 回数は 0 ∼ 16 回まで行った.その結果,中耕除草回数が 4 回以上で慣行農法に近い収量が得られただけでなく,食味値 85 以上で 1 等級に格付けされる高品質となった.このことは多数回中耕除草法により土壌撹拌を繰り返すことで,除草と同時に土の攪拌により,物理的には均一化 · 膨軟化 · 透水性の改良,化学的には分解作用の促進,生物的には光合成微生物群による窒素固定量の増加,生態的には水田生態系の成立と病虫害の低下が考えられた.多数回中耕除草法はイネと水田の機能を生かし,省資源 · 低投入 · 環境との調和を目指す新たな水田農法の可能性を示した.
著者
谷川 寅彦 矢部 勝彦 福田 勇治 衣裴 隆志
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.11-18, 1996 (Released:2021-12-04)
参考文献数
11

This study was conducted to make clear the groundwater environment and the influences to the vegetation of forest land under the subway construction. The former was investigated by using the distributions of water table and. the cross sections. The latter was investigated by using the daily fluctuations of soil moisture tension in the planting site of higher trees and the observations of growth along the subway construction. Consequently, the groundwater environment was not influenced so much by the shield tunnel-ing of the subway construction, but much influenced by the excavation works. Because the excavation works are considered to cause the sudden change of groundwater environment. On the other hand, the sudden change of ground water influences to the soil moisture environment of the vegetation, so it is found that much higher dead trees and higher weakened trees were observed along the route of the excavation works.
著者
辻本 久美子 太田 哲 藤井 秀幸 小松 満
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.3-24, 2022-07-20 (Released:2022-08-02)
参考文献数
60

世界各地の土壌水分を毎日観測する手法として, 水循環変動観測衛星GCOM-Wに搭載されたマイクロ波放射計AMSR2による観測輝度温度を用いる手法がある. 本研究では,そのアルゴリズム全体の中で, 湿潤土壌の誘電率と体積含水率とを関連づけるモデルについて, 既存モデルの比較検討と室内実験による検証を行った. 特に,観測周波数や土性の違いが湿潤土壌の複素誘電率に与える影響に着目した. さらに,土壌水分特性と誘電特性の関連に着目し, Pedotransfer関数を用いて土壌水分特性に基づいて誘電率を推定する手法を提案した. Dobsonモデルに対してMironovモデルの適合範囲が広いこと, Mironovモデルによる吸着水の量と誘電率の値には他モデルとの差異が大きく疑問が残ること, 風乾時土壌水分量と吸引圧500 MPa下での水の誘電率を用いると 実験土壌に対する複素誘電率がよく再現できること,が示された.
著者
芳村 圭 新田 友子
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.27-34, 2022-07-20 (Released:2022-08-02)
参考文献数
16

これまで大気モデルの一部であった地表面パラメタリゼーションを,大気モデルから独立させ,統合陸域シミュレータ(ILS)を開発した.ILSとは,モデル単体ではなく,開発の枠組みに対する名称である.本解説では,その開発経緯と,ILSを用いた3つの事例を紹介した.実時間陸域水文予測への応用,3次元土壌分類パラメタセットの実装,そしてサブグリッドスケールでの水平方向の土壌水分輸送の実装である.諸外国の研究速度も鑑み,本研究並びに気候変動及び影響評価研究のさらなる進展のためには,陸域モデル開発体制のコミュニティ化(共同体化)が必要である.