著者
紀藤 典夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.69-74, 2015-12-25 (Released:2016-04-15)
参考文献数
59
被引用文献数
1

最近の研究成果に基づき,東北地方から北海道における最終氷期以降のブナの地史的変遷についてレビューした。花粉分析の結果に基づけば,東北地方北部においても晩氷期以降ブナ属花粉が有意に出現する地点があり,また針葉樹の減少と同時にコナラ属と同調してブナ属花粉が増加する地点は,最終氷期末期にはブナが存在したと考察した。北海道におけるブナの北上は,最近記載された分布北限域の外側の孤立したブナ林の研究や生育適地の研究から,半島脊梁地域を中心に北上した可能性を指摘した。また,北海道に最終氷期の逃避地が存在したとすると日本海側南部(松前半島)であったに違いない。
著者
鴈澤 好博 紀藤 典夫 貞方 昇
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.379-390, 1995-11-25
被引用文献数
1

1994年7月12日に発生した北海道南西沖地震について,大規模な被災地域の一つである大成町平浜,宮野,太田地区で,野外調査および聞き取り調査を通して,地震と津波の自然科学的な側面,被災状況の実態を把握し,自然的な条件と人間の避難行動の相互の関わりを検討し,あわせて防災に関する提言を行った.津波は地震後,約5分から7分で西あるいは北西方向から浸入し,その高度は4m〜7m程度であった.また,津波による人的・経済的被害は地区により大きな違いが認められた.津波から人命を安全に守るためには,a)住民に「地震すなわち津波」の意識があること,b)地震後津波が襲来するまでの避難時間があること,c)避難経路および避難場所が確保されていること,d)防波堤などの対津波・高潮対策が十分であることが保証される必要がある.
著者
紀藤 典夫 野田 隆史 南 俊隆
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.25-32, 1998-02-28
参考文献数
47
被引用文献数
4 8

函館から発見されたシオフキ・ハマグリ・イボキサゴなどからなる暖流系貝化石群集の<sup>14</sup>C年代値は約2,400~2,300年前で,従来知られていた縄文海進期の年代よりも新しかった.新たに年代測定された群集を含めると,北海道南部における温暖種の産出年代は7,500年前,4,000年前,および2,400~2,300年前の3つの時期がある.この温暖種の産出年代は,対馬海流の強勢期によく一致する.温暖貝化石群集は,対馬海流の脈動に対応して分布を北海道まで拡げたが,このような事件は完新世に3回生じた可能性がある.
著者
紀藤 典夫 大槻 隼也 辻 誠一郎 辻 圭子
出版者
日本植生史学会
雑誌
植生史研究 (ISSN:0915003X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-26, 2017

青森県八甲田山の田代湿原(標高560 ~ 575 m)から採取されたコアの花粉分析の結果に基づき,十和田中掫テフラ(厚さ7 cm;To-Cu;約6000 cal yr BP)降下が植生に与える影響について考察した。分析の結果,テフラ降下以前はブナ属・コナラ属コナラ亜属を主とし,ハンノキ属等の落葉広葉樹からなる花粉組成で,安定した森林が復元された。テフラ直上では,コナラ属コナラ亜属は割合が著しく増加し80%以上に達する一方,その他の樹種は一様に割合が減少し,特にブナ属は30%から2.6%に減少した。テフラの上位1.7 cm でコナラ属コナラ亜属は割合・含有量ともに急激に減少し,他の樹種の割合が増加して,上位8.9 cm の層準(150 ~ 250 年後)でテフラ降下前の組成に近い安定した状態となった。ブナ属とコナラ属コナラ亜属のテフラ降下後の変化の著しい違いは,テフラ降下に対しブナは著しく耐性が低かった一方,ミズナラが強い耐性を持っているためと考えられる。非樹木花粉組成の変化に基づき,テフラ降下後,湿原植生は著しく組成が変化し,分析層準の最上位でもテフラ降下前に戻ることはなく,湿原の生育環境が大きく変化したものと推定した。