著者
細野 薫 吉川 浩史 磯部 昌吾
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.131-149, 2013-03-26

グローバル金融危機以降,主要中央銀行は,極めて低い短期金利のもとで非伝統的金融政策を実施してきた.また,それ以前に日本銀行は量的緩和策を実施していた.本稿では,日本,米国,ユーロ圏,およびイギリスの4 中央銀行が採用した非伝統的金融政策が為替レートに及ぼす影響を,日次データを用いて分析した.その結果,非伝統的金融政策が為替レートに及ぼす影響は国・地域および時期によって異なることが明らかになった.特に有意な効果が見られたのは,日本銀行による量的緩和策とグローバル金融危機後の非伝統的緩和策,および,FRB による2009 年以降の量的緩和策である.これらの緩和策は自国通貨を0.3%から0.8%程度減価させるが,これは政策金利変更の1% ポイントの効果よりも総じて大きい.他方,効果の持続性をみると,有意な効果が観測される場合でも,その効果は総じて短命であり,日銀による量的緩和策を除き,前後3 営業日を含むウィンドウでは有意な効果は観察されなかった.Bank of Japan (BOJ) adopted unconventional monetary policy (UMP) measures including quantitative easing (QE) during 2001-2006. Other major central banks also adopted various UMP measures after the global financial crisis. the effects of these UMP measures on exchange rates using daily data.This paper investigates Investigating the quantitative effects of the UMP measures on exchange rates, we find that they depend on the economy and the period. BOJ's QE during 2001-2006 and UMP after the global crisis as well as FRB's QEs after 2009 had significantly depresiated home currencies. Their effects range from 0.3% to 0.78%, which are much larger than the estimated effects of the 1 percentage point change in short-term interest rates. Exploring the persistency of the effects of the UMP measures, however, we find that the effects of the UMP measures implemented after the global crisis were generally short-lived.特集 新しい金融経済学
著者
細野 薫
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、預金者による規律付けの理論分析と実証分析からなる。理論分析(第1部)では、預金保険のもとで、預金者による銀行の選別がどのような条件で起こりうるのか、また、預金者による銀行選別がどのように銀行経営者のリスクテークに影響を及ぼすかを解明した。とくに、政府による銀行救済政策が預金者による規律付けを無効にし、銀行のリスクテークを助長してしまうことが強調されている。実証分析は、90年代における日本の全国銀行のデータを用いた研究(第2部)と、世界63カ国の銀行のデータを用いた研究(第3部)からなる。まず、日本の実証結果によれば、預金増加率と預金金利はそれぞれ銀行のリスク指標との負、正の相関が見られ、預金者による選別行動が観察された。特に定期預金の増加率とリスク指標との相関は、ペイオフ解禁(2002年3月)の直前に高まっていた。次に、各国の実証分析をサーベイした上で、世界63カ国の約18,000に及ぶ銀行・年データと各国の銀行規制や法制度などのデータを整備して実証分析を行った(鶴光太郎氏、岩城裕子氏との共同研究)。この結果、銀行規制が甘いほど、また、法による統治の程度が低く、金融資本市場が未発達なほど、預金者のリスク感応度は高く、預金者による規律付けが機能していることがわかった。これは、規制当局が預金者の代表として銀行を監督するという「代表仮説」と整合的であり、政府による規制と市場規律が代替的に機能していることを示唆している。