著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.38-59, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
50

近代日本の大都市内部では,工業と商業が密接に結びついた同一産業集積が展開したが,そこでは同業者の相互関係に基づく「調整」が集積の維持発展に重要な役割を担ったと考えられる.本稿は,大阪道修町の医薬品産業同業者町に着目し,近代日本の経済システムが変化した戦間期において,取引関係の変化が「調整」と集積のあり方にどう影響したかを検討する.第一次世界大戦による輸入医薬品の途絶により,国内医薬品業界は国産製薬業を本格化させる必要性に直面した.大阪の医薬品業界では,製薬業に進出した問屋を頂点とする流通系列化の構造的変化が起こった.これは,大阪道修町における問屋・卸売業者間の「調整」に影響を与え,同業者の協調的で水平的な関係に依拠した利害対立の「調整」が,系列ごとの垂直的で対立的な関係を踏まえたものへと変化した.戦間期において,道修町の見かけの集積は維持されたが,内実は製薬業の営業拠点集積へと変質した.
著者
網島 聖
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
空間・社会・地理思想 = Space, society and geographical thought (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.23, pp.13-35, 2020

I はじめに : 西日本の大学にある人文系地理学教室の多くが史学科ないし史学地理学科に所属していたという伝統を共有する。その発信源となったのが、第二次世界大戦前における……
著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.303-328, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
48

産業集積を維持・発展させる上で,ローカルで伝統的な制度・慣習がつねに有効に作用するとは限らない.本稿は明治から大正期に同業者間の紛争を経験した大阪の材木業同業者町を事例に,伝統的な制度・慣習が地域における同業者間の調整機能を阻害した要因について論じる.江戸期以来培われてきた材木流通に関する制度・慣習は,明治以降も材木業者間の関係を細かく規定していく.しかし,こうした制度・慣習の新たな法的根拠になった同業組合の規定は,材木取引の実態から乖離していた.明治後期からの流通経路の変化と材木流通の制度・慣習に対する改善要求の高まりによって,この乖離は表面化し,大阪における材木業者間の利害対立を調整する機能は機能不全に陥った.調整機能が不全に陥った要因として,同業組合のフォーマルな制度が同業者の実際の利害関係に即していないこと,材木流通の制度・慣習が非常に閉鎖的であったことの2点が指摘できる.
著者
網島 聖
出版者
佛教大学宗教文化ミュージアム
雑誌
佛教大学宗教文化ミュージアム研究紀要 (ISSN:13498444)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-26, 2019

本稿では『善光寺道名所図会』を取り上げ、その取材・収集に協力したと考えられる書肆高美甚左衛門を中心とする地域文人ネットワークに注目して、信州松本町と一体となった周辺地域の地誌記述を検討し、松本町と周辺地域とを結びつけた地域認識について考察した。その結果、松本地域文人の人脈が城下町松本町を拠点とした街道に沿って周囲と結ばれており、その性質も流通に関する問題に規定されていることが判明した。『善光寺道名所図会』に記載される範囲としては、北は信濃大町周辺まで、東は千曲川西岸稲荷宿まで、西は橋場までの範囲となっていることを示した。地誌松本町地域文人善光寺道名所図会高美甚左衛門