著者
小倉 俊一郎 中山 沢 山本 新九郎 福原 秀雄 花﨑 和弘 井上 啓史
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.238-248, 2023-01-15 (Released:2023-01-15)
参考文献数
40

5-アミノレブリン酸(ALA)は生体内で合成されるアミノ酸の一種であり,ポルフィリンやヘムの前駆体である.がん患者にALAを経口投与した場合,腫瘍特異的なプロトポルフィリンIX(PpIX)の蓄積が認められる.ポルフィリンが蛍光物質であること,さらには可視光照射下において活性酸素種を発生させることを利用して,がんの光線力学診断(ALA-PDD)や光線力学療法(ALA-PDT)へ応用されている.休眠がん細胞は,腫瘍内の微小環境などの影響によって,細胞増殖が抑制されたがん細胞である.周囲の環境変化により再増殖をするうえ,化学療法や放射線療法に対して抵抗性を持つため,がんの再発と密接な関わりがあると考えられている.本研究では,ヒト前立腺がん由来細胞株PC-3を用いて,細胞密度に着目したin vitroにおける休眠がん細胞モデルを構築した.また,休眠がん細胞モデルにおけるALA添加後のPpIX蓄積およびPDT感受性の評価を行い,休眠がん細胞のALA-PDTに対する感受性が高いことを示した.さらに,休眠がん細胞モデルに対してマイクロアレイ解析を行うことにより,休眠状態への移行に付随して脂質代謝が亢進することを明らかにした.Acyl-CoA synthetase(ACSs)の抑制剤(triacsin-C)を添加することによって,PpIX蓄積が減少し,ALA-PDTに対する感受性が低下した.以上のことから,休眠状態への移行に付随するALA-PDTの殺細胞効果の亢進は,脂質代謝の亢進と相関するものであることが判明した.
著者
福留 惟行 駄場中 研 横田 啓一郎 石田 信子 上村 直 並川 努 井口 みつこ 戸井 慎 花﨑 和弘
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.703-711, 2019-12-01 (Released:2019-12-28)
参考文献数
41

症例は59歳の女性で,神経性食思不振症に対して精神科入院中,経鼻胃管による栄養投与を受けていた.胃管挿入後8日目に生じた腹痛に対して撮影したCTで胃壁全体の浮腫,胃壁内気腫と門脈ガス血症(hepatic portal venous gas;以下,HPVGと略記),縦隔気腫,皮下気腫を認めた.上部消化管内視鏡検査で,胃体上部大彎に限局性粘膜壊死を認めた.縦隔気腫,皮下気腫に関しては原因の特定はできないものの気腫性胃炎からのHPVGの診断で胃全摘術を施行した.BMI 10 kg/m2と低栄養状態であったが,術後経過は良好であった.本症例は,胃管留置による胃粘膜傷害からの感染が原因で気腫性胃炎を発症,それに伴いHPVGを生じ,同時に低栄養状態による組織の脆弱性を背景として,胃管挿入の刺激で気道内圧の上昇,肺胞の破裂が起こり,縦隔気腫と皮下気腫が発生したと考えられた.このような二つの病態が同時に起こったと推測されるまれな症例を経験したため報告する.
著者
北川 博之 横田 啓一郎 並川 努 花﨑 和弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.139-145, 2022-08-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
14

背景: 食道癌手術における空腸瘻は早期経腸栄養のアクセスルートとして有用であるが, 腸閉塞の原因となりうる. 空腸瘻と十二指腸瘻の腸瘻起因性腸閉塞と術後体重変化に与える影響を検討する. 対象と方法: 2013年3月から2020年11月に食道癌に対して胸腔鏡下食道切除術, 胃管再建を施行した109例の患者背景, 手術成績, 術後合併症, 腸瘻起因性腸閉塞, 術後1, 3, 6, 12カ月後の体重を, 空腸瘻群74例と十二指腸瘻群35例に分類して比較した. 結果: 十二指腸瘻群は空腸瘻群に比べて術前化学療法 (45.7% vs. 78.4%; P=0.001) と出血量 (150mL vs. 120mL; P=0.046) が少なかった. 腸瘻起因性腸閉塞は12例が空腸瘻群に生じた. 十二指腸瘻群は術後1カ月後の体重減少率が空腸瘻群より有意に小さかった (93.9% vs. 91.8%; P=0.039). 結語: 食道癌手術において十二指腸瘻は空腸瘻に比べて手術時間を延長することなく腸瘻起因性腸閉塞を防止し, 術後早期の体重減少を抑制し得ることが示唆された.