- 著者
-
小林 浩之
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
- 雑誌
- 日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.4, pp.308-317, 2021-01-15 (Released:2021-01-15)
- 参考文献数
- 95
悪性神経膠腫は予後不良な原発性脳腫瘍である.本疾患の治療では外科的摘出率が予後を大きく左右するが,それは裏を返せば後療法に十分な腫瘍制御効果が無いことを意味している.つまり既存の治療とは全く異なる考え方,手法の開発が必須である.その中で個性的な存在を示してきたのが光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)で,当科においても5-aminolevulinic acid(ALA)によるPDTに関して,in vitroにてその効果を確認してきた.近年,国内における臨床試験の成績をもって実用化を果たし我々は新たな治療手段を一つ手に入れた.しかしPDTの問題は光線の組織深達度が限られていること,開頭術を必要とするという点である.一方で超音波照射による腫瘍の熱凝固の技術が進歩し,加えてポルフィリン代謝物をはじめ多くの光感受性物質が超音波照射によっても励起して活性酸素を発生することを示唆するデータが報告されたことから,PDTの組織深達度を克服に向け超音波照射と薬剤を組み合わせた熱凝固によらない新たな治療,音響力学療法(sonodynamic therapy: SDT)への取り組みが本格化していった.超音波と光がなぜ同じ効果をもたらすのかという理由は明らかになっていないが,超音波照射時に発生する気泡(microbubble)が急速に収縮,膨張するキャビテーションという現象が関与していると考えられている.さらに経頭蓋的に超音波を集束照射できる装置が実用化されたことで「開頭」というもう一つのPDTの問題点を解決できる可能性が出てきた.SDTの魅力は低毒性,低侵襲ゆえの治療継続性であると考えている.繰り返し行うことで腫瘍増殖をコントロールすることができれば治療のパラダイムシフトにつながる可能性を秘めている.現在超音波技術は急速に進歩し,日本でも本態性振戦に対しての経頭蓋超音波熱凝固療法が薬事承認され,脳腫瘍への応用の期待は高まっているが,解決すべき点は多い.そこで本稿ではSDT実現に向け超音波治療の現状を整理し,今後の展開について考察した.