- 著者
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若月 温美
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.61, 2018
【研究の背景と目的】教師は自らの専門的力量を高めるために不断の学習が必要とされ、授業に関する力量を高めるためには日々の授業実践から学ぶ必要がある。高校家庭科の教師は一校に1人であることが多く、自分の授業について一人で振り返ることになるが、独り善がりにならずに他者の視点から授業をとらえ直すことで授業をより高い質へと改善することが可能となると考える。高校家庭科の調理実習で教師は事前に調理や献立のねらいの学習指導を行い、限られた時間の中で実習を安全に実施しなければならない。その時間に生徒が学んだことを確認することが難しく、事後指導で十分な振り返りをしなければならないが、「やりっぱなし」になっているのではないかという不安が残る。高校家庭科の調理実習の授業の課題を発見するための方法として授業リフレクション研究の効果について検討する。<br><br>【研究方法】対象の授業は2017年6月に筆者が高校2年生に行った調理実習の授業である。「麻婆豆腐とごはん」の献立を中華料理用の調味料と材料を使って作り、レトルトの素で作ったものと食べ比べ違いに気づくことを目的とした。この授業をビデオ録画した記録と生徒の実習後の記述をもとに自己リフレクションを行い一人称で記述した。自己リフレクションは「自己分析シート」(家庭科の授業を創る会2007 をもとに作成)に記入して行った。録画された授業記録と自己リフレクションの記述をもとに8月に集団リフレクション(千葉県の高校家庭科教師19名)を行い、ICレコーダーで録音した発話のスクリプトを分析した。<br><br>【結果と考察】自己リフレクションの内容は次のとおりである。事前指導では、示範により実際に作るところを見せ、その後班ごとに役割分担を決めさせた。材料と道具は事前にできる準備を行った。これらの準備は「やり過ぎか」と思ったが、実習がスムーズに進むために必要であるため時間をかけて行った。実習中の教師の発話は①作業内容と片付けの指示 ②生徒のふざけ、失敗への注意 ③生徒からの質問への返答 に分類した。①の最も多かった発話は「片付けの指示」であった。②は悪ふざけや致命的な失敗に対してははっきりと注意をし解決策を伝えた。③は説明したことでもその都度答える、またはレシピを見るように指示した。実習を安全にできるだけ失敗なく、時間内に終えることにこだわって授業を進めており、実習中に学ぶことを意識させていなかったことがわかった。事後指導では①作り方②作業③試食についてそれぞれ振り返り記述をさせた。①は調理のねらいについて意識して作業した様子を伺うことができた。②に時間内に終わらせるという目標も達成できていたが、作業手順について十分理解できていなかったことがわかった。③は食べ比べの目的を十分理解させていなかったことがわかった。集団リフレクションでは「事前準備が徹底しており『失敗しないこと』に主眼を置いている授業」との感想や「失敗からも学べるので失敗しても良いことを生徒には知らせている」など日頃の授業の在り方について意見が交わされた。この他者の視点は授業者が意識していなかった視点であり、実習中に生徒に学ばせたいことを問い直し、事前準備から考え直す必要性を示している。<br><br>実施した授業についての自己リフレクションにより①実習中の指示、②授業の目的を理解させること、に課題があることに気づいた。さらに授業でこだわっていたことを明らかにすることができ、その後の集団リフレクションよりこの「こだわり」ついて自分が意識できなかった課題を明らかにすることができた。以上より、授業リフレクションの効果が明らかとなった。これらの課題を解決しより質の高い調理実習の授業を実践するために、さらに対話リフレクションを行い解決方法研究し、教材研究とリデザイン、実験授業の実施とさらなる分析と考察を実施することを課題とする。