著者
若月 温美 中山 節子 冨田 道子 藤田 昌子 中野 葉子 松岡 依里子 坪内 恭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.17, 2010

[目的]<BR>本研究は、社会環境の激変の中で進行する格差社会において、どのように生活経営を考え、暮らしをつくりかえていけばよいのか生活経営領域を中心としたカリキュラムを検討することを目的とするものである。本報告では、セーフティネットをどう構築していけばよいのかを探求する授業実践分析を中心に報告を行う。最後に、授業実践分析結果を踏まえながら、本研究の授業設計やカリキュラムの構築の課題を明かにする。<BR>[方法]<BR>対象校は、千葉県の私立高校(B校)と東京都の私立高校(C校)の2校である。対象学年は、B校1年生、C校2年生である。授業実践時期は、2010年1月~2月である。両校ともに4時間の授業計画で、導入で『ホームレス中学生』<SUP>1</SUP>を教材として用い、そこから住まいに住むために必要なこと(B校)や生きていくために必要なこと(C校)を考察させた。次に、派遣社員やネットカフェ難民の実態をVTRで視聴させ、格差や貧困の問題を身近な課題であることを理解させた。B校の対象者は格差や貧困の問題が自分の生活課題として捉えることが難しいことが予想されたため、VTR視聴後に自分自身の生活設計を考えさせた。両校ともに、最後に社会的排除を生み出す社会構造について解説し、ホームレスやネットカフェ難民、派遣社員などの厳しい生活実態から抜け出すためには何が生活資源として必要なのか、また資源を得るためには何が課題となるのかを考察させた。これらを踏まえて、自分自身の生活資源について考えさせ授業のまとめとした。<BR>[結果]<BR>導入の『ホームレス中学生』を取り上げた授業後の記述内容から、「住むこと」や「生きること」に必要なこととして、B校では、基本的な最低限度の生活を維持するのに必要な「物的資源」に関する内容やお金や仕事など「経済的資源」に関する内容が最も多く記述された。次に人や関係性に関する「人的資源」の内容が多く、具体的な記述としては「家族」よりも「近所の人」や「友達」などの記述が多くみられた。また、「個人の努力や能力、運、夢」など個人の資源や能力の問題として捉える記述も見受けられた。C校では信頼関係、頼れる人、家族、友人、つながりなど「人的資源」が最も多く記述され、続いて知恵、知識、資格などの「能力的資源」、「経済的資源」が続いている。その他、生きる希望、プラス思考などの「精神的資源」など、より多くの種類の資源があげられた。派遣社員やネットカフェ難民の実態については、両校ともに「初めて知った」や「大変だと思った」など驚きの反応が観察され、授業後の感想からは、これらの実態から漠然とした不安を抱きながらも自分の将来についてや仕事を得ることの重要性を客観的に見つめようとする様子が伺えた。社会的排除を生み出す社会構造の把握については、生徒の発達段階やこれまでの記述内容などを考慮し、それぞれ独自に工夫した教材を用いたことが効果的であった。自分自身の生活資源を考えることは、労働や福祉の諸課題、転落しやすい社会をどう変えていけばよいのかなど幅広い議論に発展することが明らかとなった。雇用労働環境が厳しさを増し、高校生の就職や進路も益々深刻な問題となっている中、自分がどうすればよいのかわからず悲観的あるいは消極的な状況に留まり続ける生徒の支援が今後の課題である。<BR>[課題]<BR>カリキュラム全体の課題としては、時間数の確保である。これまでカリキュラムの内容を厳選し、6~8時間計画のカリキュラム試案を提示した。<SUP>2</SUP> 試案を部分的に複数の学校で実施したが、時間数に関わる具体的な課題が見え、カリキュラムのコアを定めることがさらなる課題として明らかになった。<BR><BR>1 田村裕(2007)『ホームレス中学生』ワニブックス、田村 裕(2008)『コミックホームレス中学生』ワニブックス<BR>2 日本家庭科教育学会2009年度例会 分科会5配布資料
著者
藤田 昌子 松岡 依里子 若月 温美 中山 節子 中野 葉子 冨田 道子 坪内 恭子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.63, pp.4, 2011

【目的】構造改革による貧困と格差の拡大、2008年の金融破綻による経済危機は、高校生の修学・進学・就職にも深刻な影響を与えている。近年、若年者の労働や生活の実態は徐々に明らかにされているが、高校生に焦点をあてた調査は少なく、彼らの自立支援のための基礎資料は十分でない。本研究では、労働(アルバイト)、生活時間、生活不安に着目し、高校生の生活と労働の実態を明らかにすることを目的とする。<BR>【方法】山形・東京・千葉・神奈川・兵庫の公立・私立高等学校5校1~3年生622名を対象に、生活と労働に関する質問紙調査を実施した。調査時期は2010年7~10月である。<BR>【結果】4割の高校生がアルバイトを行い(アルバイト禁止校を除く)、その理由は「小遣い」「貯金」「家計補助」「学費」等であった。就労状況は、平日は週3~4日、4時間以上が最も多く、深夜時間帯や休日の8時間以上の就労といった労働基準法に抵触しているケースも少なくなかった。厳しい家庭の経済状況のもと、生活費や学費を稼ぐために長時間働かざるを得ない実態や高校生の雇用環境が明らかになった。こうした実態は、睡眠時間・学校以外での勉強時間に影響を及ぼし、「ストレス」「体調不良」「勉強時間がとれない」といった心身と学業面の問題を引き起こしていた。また、高校生は将来の生活に対して、進学や就職、就職後の経済生活、結婚や子育て、介護に至るまで不安を感じていた。このように貧困・格差は、学費や家計費を補うためにアルバイトを余儀なくされている高校生を生み出し、ワーク・ライフ・バランスに問題を生じさせるだけでなく、彼らの進学・就職、その後の将来に対する不安も助長していた。
著者
若月 温美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】教師は自らの専門的力量を高めるために不断の学習が必要とされ、授業に関する力量を高めるためには日々の授業実践から学ぶ必要がある。高校家庭科の教師は一校に1人であることが多く、自分の授業について一人で振り返ることになるが、独り善がりにならずに他者の視点から授業をとらえ直すことで授業をより高い質へと改善することが可能となると考える。高校家庭科の調理実習で教師は事前に調理や献立のねらいの学習指導を行い、限られた時間の中で実習を安全に実施しなければならない。その時間に生徒が学んだことを確認することが難しく、事後指導で十分な振り返りをしなければならないが、「やりっぱなし」になっているのではないかという不安が残る。高校家庭科の調理実習の授業の課題を発見するための方法として授業リフレクション研究の効果について検討する。<br><br>【研究方法】対象の授業は2017年6月に筆者が高校2年生に行った調理実習の授業である。「麻婆豆腐とごはん」の献立を中華料理用の調味料と材料を使って作り、レトルトの素で作ったものと食べ比べ違いに気づくことを目的とした。この授業をビデオ録画した記録と生徒の実習後の記述をもとに自己リフレクションを行い一人称で記述した。自己リフレクションは「自己分析シート」(家庭科の授業を創る会2007 をもとに作成)に記入して行った。録画された授業記録と自己リフレクションの記述をもとに8月に集団リフレクション(千葉県の高校家庭科教師19名)を行い、ICレコーダーで録音した発話のスクリプトを分析した。<br><br>【結果と考察】自己リフレクションの内容は次のとおりである。事前指導では、示範により実際に作るところを見せ、その後班ごとに役割分担を決めさせた。材料と道具は事前にできる準備を行った。これらの準備は「やり過ぎか」と思ったが、実習がスムーズに進むために必要であるため時間をかけて行った。実習中の教師の発話は①作業内容と片付けの指示 ②生徒のふざけ、失敗への注意 ③生徒からの質問への返答 に分類した。①の最も多かった発話は「片付けの指示」であった。②は悪ふざけや致命的な失敗に対してははっきりと注意をし解決策を伝えた。③は説明したことでもその都度答える、またはレシピを見るように指示した。実習を安全にできるだけ失敗なく、時間内に終えることにこだわって授業を進めており、実習中に学ぶことを意識させていなかったことがわかった。事後指導では①作り方②作業③試食についてそれぞれ振り返り記述をさせた。①は調理のねらいについて意識して作業した様子を伺うことができた。②に時間内に終わらせるという目標も達成できていたが、作業手順について十分理解できていなかったことがわかった。③は食べ比べの目的を十分理解させていなかったことがわかった。集団リフレクションでは「事前準備が徹底しており『失敗しないこと』に主眼を置いている授業」との感想や「失敗からも学べるので失敗しても良いことを生徒には知らせている」など日頃の授業の在り方について意見が交わされた。この他者の視点は授業者が意識していなかった視点であり、実習中に生徒に学ばせたいことを問い直し、事前準備から考え直す必要性を示している。<br><br>実施した授業についての自己リフレクションにより①実習中の指示、②授業の目的を理解させること、に課題があることに気づいた。さらに授業でこだわっていたことを明らかにすることができ、その後の集団リフレクションよりこの「こだわり」ついて自分が意識できなかった課題を明らかにすることができた。以上より、授業リフレクションの効果が明らかとなった。これらの課題を解決しより質の高い調理実習の授業を実践するために、さらに対話リフレクションを行い解決方法研究し、教材研究とリデザイン、実験授業の実施とさらなる分析と考察を実施することを課題とする。