著者
青木 幸子 大竹 美登利 長田 光子 神山 久美 齋藤 美保子 田中 由美子 坪内 恭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<br><br><目的><br>&nbsp;&nbsp; 2008年は「子どもの貧困元年」であるといわれる。それは子どもの貧困問題に関する政策論議が具体化したことに由来する。翌2009年の厚生労働省の調査によれば、子どもの貧困率は15.7%であり、約6人に1人の割合で貧困状態にあることが明らかになった。これはOECD調査においても「相対的貧困率」が加盟国34カ国中29位(ワースト6位)、「子どもの貧困率」は25位(ワースト10位)、「一人親家庭の子どもの貧困率」は33位(ワースト2位)という深刻な事態にあることを認識させた。さらに厚生労働省の「平成25年国民生活基礎調査の概況」によれば子どもの貧困率は16.3%を示し、確実に格差が拡大していく傾向を窺わせている。<br>&nbsp;&nbsp; 子どもの貧困は、学習面や心身の発達に影響を及ぼし、加えて経済的な理由から友人と同じ行動が取れないなど友人関係にもひずみをきたし、不登校や引きこもりの原因になっているともいわれている。また、経済的な理由から進学をあきらめざるを得ない者もおり、更なる格差を生み出す土壌ともなっている。このように現下の社会・経済状態は、貧困の連鎖を断ち切る抜本的な政策が求められている。<br>&nbsp;&nbsp; この政策のひとつに学校教育への期待がある。学校教育の一教科として生活の自立と共生を目標とする家庭科においては、生徒が貧困の連鎖について理解し、自己責任ではまかないきれない連鎖の経路を断ち切り、自らの人生を自己選択することができる力を育成するなど、たくましく生きる力を育んでいかなければならない。<br>&nbsp;&nbsp; そこで本研究では、貧困に対する理解、貧困に陥らないための知識と方法、不測の事態に備える力など、生活を創る主体としてたくましく生き抜く力を育てる家庭科の学習内容について提案することを最終目的に、まず高校生の生活実態や福祉制度への理解、将来の生活への意識を把握することを目的とする。<br><br><方法><br>1.&nbsp;調査の方法<br>調査対象;都立高等学校6校、有効回収数406票<br>調査時期;2015年1~3月<br>調査方法;家庭科教員に調査票の配布、回収を依頼した。<br>2.&nbsp;分析方法<br>調査対象校を4年生大学進学率の傾向の違いにより3群に分類し(80%以上をA群、21~79%をB群、20%以下をC群)、分析した。<br><br><結果と考察><br>1.&nbsp;&nbsp;高校生の日常生活の特徴として看過できない実態は、欠食率、栄養バランス、家庭の食卓状況の3点である。なかでもC群の欠食率がもっとも高く、とくに果物の摂取不足は80%以上であり、それは手作りの食事の摂取状況とも関連している。<br>2. アルバイトの経験については、アルバイトを禁止している学校がある一方で、アルバイトに精を出さざるをない状況の生徒もいる。とくにC群の生徒にアルバイト経験者が多い。<br>3. 授業以外の学習時間にも3群間には大きな差があり、通塾率との関連が推測される。また、ボランティア活動や地域での活動、家事手伝いについては3群間に顕著な差はなく、消極的な関与実態が明らかになった。<br>4.&nbsp;生活上のリスク管理に必要な福祉制度の項目に関しても、総体的に理解不足である。しかし、困難を克服し、希望は叶えられるとする将来の生活への見通しについてはおおむね肯定的に捉えている。 <br>5.&nbsp;以上の結果から、3群間での生徒の実態と意識を比較すると、C群の生徒に欠食率、アルバイト経験率が高く、将来の生活への経済的・職業的不安が強い傾向が明らかになった。
著者
若月 温美 中山 節子 冨田 道子 藤田 昌子 中野 葉子 松岡 依里子 坪内 恭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.17, 2010

[目的]<BR>本研究は、社会環境の激変の中で進行する格差社会において、どのように生活経営を考え、暮らしをつくりかえていけばよいのか生活経営領域を中心としたカリキュラムを検討することを目的とするものである。本報告では、セーフティネットをどう構築していけばよいのかを探求する授業実践分析を中心に報告を行う。最後に、授業実践分析結果を踏まえながら、本研究の授業設計やカリキュラムの構築の課題を明かにする。<BR>[方法]<BR>対象校は、千葉県の私立高校(B校)と東京都の私立高校(C校)の2校である。対象学年は、B校1年生、C校2年生である。授業実践時期は、2010年1月~2月である。両校ともに4時間の授業計画で、導入で『ホームレス中学生』<SUP>1</SUP>を教材として用い、そこから住まいに住むために必要なこと(B校)や生きていくために必要なこと(C校)を考察させた。次に、派遣社員やネットカフェ難民の実態をVTRで視聴させ、格差や貧困の問題を身近な課題であることを理解させた。B校の対象者は格差や貧困の問題が自分の生活課題として捉えることが難しいことが予想されたため、VTR視聴後に自分自身の生活設計を考えさせた。両校ともに、最後に社会的排除を生み出す社会構造について解説し、ホームレスやネットカフェ難民、派遣社員などの厳しい生活実態から抜け出すためには何が生活資源として必要なのか、また資源を得るためには何が課題となるのかを考察させた。これらを踏まえて、自分自身の生活資源について考えさせ授業のまとめとした。<BR>[結果]<BR>導入の『ホームレス中学生』を取り上げた授業後の記述内容から、「住むこと」や「生きること」に必要なこととして、B校では、基本的な最低限度の生活を維持するのに必要な「物的資源」に関する内容やお金や仕事など「経済的資源」に関する内容が最も多く記述された。次に人や関係性に関する「人的資源」の内容が多く、具体的な記述としては「家族」よりも「近所の人」や「友達」などの記述が多くみられた。また、「個人の努力や能力、運、夢」など個人の資源や能力の問題として捉える記述も見受けられた。C校では信頼関係、頼れる人、家族、友人、つながりなど「人的資源」が最も多く記述され、続いて知恵、知識、資格などの「能力的資源」、「経済的資源」が続いている。その他、生きる希望、プラス思考などの「精神的資源」など、より多くの種類の資源があげられた。派遣社員やネットカフェ難民の実態については、両校ともに「初めて知った」や「大変だと思った」など驚きの反応が観察され、授業後の感想からは、これらの実態から漠然とした不安を抱きながらも自分の将来についてや仕事を得ることの重要性を客観的に見つめようとする様子が伺えた。社会的排除を生み出す社会構造の把握については、生徒の発達段階やこれまでの記述内容などを考慮し、それぞれ独自に工夫した教材を用いたことが効果的であった。自分自身の生活資源を考えることは、労働や福祉の諸課題、転落しやすい社会をどう変えていけばよいのかなど幅広い議論に発展することが明らかとなった。雇用労働環境が厳しさを増し、高校生の就職や進路も益々深刻な問題となっている中、自分がどうすればよいのかわからず悲観的あるいは消極的な状況に留まり続ける生徒の支援が今後の課題である。<BR>[課題]<BR>カリキュラム全体の課題としては、時間数の確保である。これまでカリキュラムの内容を厳選し、6~8時間計画のカリキュラム試案を提示した。<SUP>2</SUP> 試案を部分的に複数の学校で実施したが、時間数に関わる具体的な課題が見え、カリキュラムのコアを定めることがさらなる課題として明らかになった。<BR><BR>1 田村裕(2007)『ホームレス中学生』ワニブックス、田村 裕(2008)『コミックホームレス中学生』ワニブックス<BR>2 日本家庭科教育学会2009年度例会 分科会5配布資料
著者
藤田 昌子 松岡 依里子 若月 温美 中山 節子 中野 葉子 冨田 道子 坪内 恭子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.63, pp.4, 2011

【目的】構造改革による貧困と格差の拡大、2008年の金融破綻による経済危機は、高校生の修学・進学・就職にも深刻な影響を与えている。近年、若年者の労働や生活の実態は徐々に明らかにされているが、高校生に焦点をあてた調査は少なく、彼らの自立支援のための基礎資料は十分でない。本研究では、労働(アルバイト)、生活時間、生活不安に着目し、高校生の生活と労働の実態を明らかにすることを目的とする。<BR>【方法】山形・東京・千葉・神奈川・兵庫の公立・私立高等学校5校1~3年生622名を対象に、生活と労働に関する質問紙調査を実施した。調査時期は2010年7~10月である。<BR>【結果】4割の高校生がアルバイトを行い(アルバイト禁止校を除く)、その理由は「小遣い」「貯金」「家計補助」「学費」等であった。就労状況は、平日は週3~4日、4時間以上が最も多く、深夜時間帯や休日の8時間以上の就労といった労働基準法に抵触しているケースも少なくなかった。厳しい家庭の経済状況のもと、生活費や学費を稼ぐために長時間働かざるを得ない実態や高校生の雇用環境が明らかになった。こうした実態は、睡眠時間・学校以外での勉強時間に影響を及ぼし、「ストレス」「体調不良」「勉強時間がとれない」といった心身と学業面の問題を引き起こしていた。また、高校生は将来の生活に対して、進学や就職、就職後の経済生活、結婚や子育て、介護に至るまで不安を感じていた。このように貧困・格差は、学費や家計費を補うためにアルバイトを余儀なくされている高校生を生み出し、ワーク・ライフ・バランスに問題を生じさせるだけでなく、彼らの進学・就職、その後の将来に対する不安も助長していた。