著者
中野 葉子 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.34, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 実験・実習などの体験的学習が多い被服や食物の領域に比べ、家庭経営領域は、生徒の関心が薄く、学習意欲も低い。現在は「家庭基礎」2単位を洗濯する学校も多く、家庭科の授業時数は少ない。そこで、生徒が興味関心を持って、楽しみながら短時間で学習でき、多様な学校での実施が可能な「生活設計ゲーム」を開発し、授業実践を行って、そのゲームから生徒が学ぶ内容を明らかにすることを研究の目的とした。<br><b>【新たな教材の開発】</b><br> 本研究では、「仮想生活ゲーム」(社団法人損害保険協会)のゲームを基にして、「生活設計ゲーム」を開発した。「仮想生活ゲーム」は、夫妻と2人の子どもの4人家族に設定され、生活の中でのリスクを体験しながら、そのリスク回避のために損害保険に入ることが有効であるとの認識が得やすいゲームとなっていた。大変わかりやすい教材であったが、損害保険に特化しているので、家族や就労、生活スタイルの相違によって、収入や支出が多様であり、また、生活のリスク回避として、様々な社会保障のしくみがあることなど、より総合的な生活運営の仕組みを学べるゲームを開発したいと考えた。<br> そこで、プリテストをしながら、「仮想生活ゲーム」を改良し「生活設計ゲーム」を完成させた。改良の主な点は、(1)多様な家族構成・就労形態の7つの家族パターンの設定および決め方、(2)家計費目毎の予算を立てやすいように選択肢を設定、(3)あらゆる計算を簡単に、(4)見やすいプリント冊子の作成、(5)イベント内容の精査、(6)言葉表現を簡単でわかりやすく、(6)2時間で実施可能なこと、(7)おみくじカードなどの教材キットの工夫である。<br><b>【本ゲームで生徒が学ぶ内容の検証】</b><br><b>1.方法:</b>都立5校(普通科3校、職業科2校)で「生活設計ゲーム」を実践し、その前後に、(1)家族に関する意識、(2)就業形態の指向、(3)生活設計への興味関心、(4)社会保障・資産の優先順位、(5)家庭経営の学習意欲、(6)ゲームの感想に関するワークシートを記入してもらい、このデータを分析した。<br><b>2.結果:</b>ゲーム実施によって(1)「家族に関する意識」は子どもを持つことへの負荷を感じるものが増加し、(2)常勤を希望する生徒が増加し、逆に、フリーターに対するプラスイメージが減少し、大変さを認識する生徒が増えた。(3)社会保障・資産に関しては貯金や社会保険、生命保険への期待が高まり、(4)「生活設計への興味関心」は増加し、(5)「家庭経営領域の内容」については、「正社員とフリー他の違い」「社会保障制度」「子育てに関するサービスやそれにかかる費用」などに関しての学習意欲が高まった。性別、学科別による相違は少なかったが、自分が取り組んだ家族パターンによって生徒の感想に相違があった。すなわち、一人暮らしやDINKSの家族だった生徒は子どもは居た方が良いという記述が、子どものいる家族であった生徒は預貯金の大切さに関する記述が、子どもの居ない家族であった生徒は保険や社会保障の大切さに関するの記述が多かった。<br><b>【まとめと今後の課題】</b><br> 将来の「家族に関する意識」では結婚願望が増加し、「就労形態について」では常勤志向が高まり、「社会保障・資産の優先順位」では社会保障を大切と思うものが増え、「生活設計への興味関心」は高まった。また「家庭経営領域」に対する学習意欲も向上した。「学科」「実施方法」によってこれらの傾向に相違は少ないことから、汎用性のあるゲームといえよう。なお、ゲームのなかで、就労形態や社会保障の種類と内容などを適宜説明する必要があり、これが、労働や社会保障の理解を促すが、一方で、教員がそれらを十分理解している必要もあり、教員向けの詳しいマニュアルの作成が今後の課題として残された。
著者
若月 温美 中山 節子 冨田 道子 藤田 昌子 中野 葉子 松岡 依里子 坪内 恭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.17, 2010

[目的]<BR>本研究は、社会環境の激変の中で進行する格差社会において、どのように生活経営を考え、暮らしをつくりかえていけばよいのか生活経営領域を中心としたカリキュラムを検討することを目的とするものである。本報告では、セーフティネットをどう構築していけばよいのかを探求する授業実践分析を中心に報告を行う。最後に、授業実践分析結果を踏まえながら、本研究の授業設計やカリキュラムの構築の課題を明かにする。<BR>[方法]<BR>対象校は、千葉県の私立高校(B校)と東京都の私立高校(C校)の2校である。対象学年は、B校1年生、C校2年生である。授業実践時期は、2010年1月~2月である。両校ともに4時間の授業計画で、導入で『ホームレス中学生』<SUP>1</SUP>を教材として用い、そこから住まいに住むために必要なこと(B校)や生きていくために必要なこと(C校)を考察させた。次に、派遣社員やネットカフェ難民の実態をVTRで視聴させ、格差や貧困の問題を身近な課題であることを理解させた。B校の対象者は格差や貧困の問題が自分の生活課題として捉えることが難しいことが予想されたため、VTR視聴後に自分自身の生活設計を考えさせた。両校ともに、最後に社会的排除を生み出す社会構造について解説し、ホームレスやネットカフェ難民、派遣社員などの厳しい生活実態から抜け出すためには何が生活資源として必要なのか、また資源を得るためには何が課題となるのかを考察させた。これらを踏まえて、自分自身の生活資源について考えさせ授業のまとめとした。<BR>[結果]<BR>導入の『ホームレス中学生』を取り上げた授業後の記述内容から、「住むこと」や「生きること」に必要なこととして、B校では、基本的な最低限度の生活を維持するのに必要な「物的資源」に関する内容やお金や仕事など「経済的資源」に関する内容が最も多く記述された。次に人や関係性に関する「人的資源」の内容が多く、具体的な記述としては「家族」よりも「近所の人」や「友達」などの記述が多くみられた。また、「個人の努力や能力、運、夢」など個人の資源や能力の問題として捉える記述も見受けられた。C校では信頼関係、頼れる人、家族、友人、つながりなど「人的資源」が最も多く記述され、続いて知恵、知識、資格などの「能力的資源」、「経済的資源」が続いている。その他、生きる希望、プラス思考などの「精神的資源」など、より多くの種類の資源があげられた。派遣社員やネットカフェ難民の実態については、両校ともに「初めて知った」や「大変だと思った」など驚きの反応が観察され、授業後の感想からは、これらの実態から漠然とした不安を抱きながらも自分の将来についてや仕事を得ることの重要性を客観的に見つめようとする様子が伺えた。社会的排除を生み出す社会構造の把握については、生徒の発達段階やこれまでの記述内容などを考慮し、それぞれ独自に工夫した教材を用いたことが効果的であった。自分自身の生活資源を考えることは、労働や福祉の諸課題、転落しやすい社会をどう変えていけばよいのかなど幅広い議論に発展することが明らかとなった。雇用労働環境が厳しさを増し、高校生の就職や進路も益々深刻な問題となっている中、自分がどうすればよいのかわからず悲観的あるいは消極的な状況に留まり続ける生徒の支援が今後の課題である。<BR>[課題]<BR>カリキュラム全体の課題としては、時間数の確保である。これまでカリキュラムの内容を厳選し、6~8時間計画のカリキュラム試案を提示した。<SUP>2</SUP> 試案を部分的に複数の学校で実施したが、時間数に関わる具体的な課題が見え、カリキュラムのコアを定めることがさらなる課題として明らかになった。<BR><BR>1 田村裕(2007)『ホームレス中学生』ワニブックス、田村 裕(2008)『コミックホームレス中学生』ワニブックス<BR>2 日本家庭科教育学会2009年度例会 分科会5配布資料
著者
藤田 昌子 松岡 依里子 若月 温美 中山 節子 中野 葉子 冨田 道子 坪内 恭子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.63, pp.4, 2011

【目的】構造改革による貧困と格差の拡大、2008年の金融破綻による経済危機は、高校生の修学・進学・就職にも深刻な影響を与えている。近年、若年者の労働や生活の実態は徐々に明らかにされているが、高校生に焦点をあてた調査は少なく、彼らの自立支援のための基礎資料は十分でない。本研究では、労働(アルバイト)、生活時間、生活不安に着目し、高校生の生活と労働の実態を明らかにすることを目的とする。<BR>【方法】山形・東京・千葉・神奈川・兵庫の公立・私立高等学校5校1~3年生622名を対象に、生活と労働に関する質問紙調査を実施した。調査時期は2010年7~10月である。<BR>【結果】4割の高校生がアルバイトを行い(アルバイト禁止校を除く)、その理由は「小遣い」「貯金」「家計補助」「学費」等であった。就労状況は、平日は週3~4日、4時間以上が最も多く、深夜時間帯や休日の8時間以上の就労といった労働基準法に抵触しているケースも少なくなかった。厳しい家庭の経済状況のもと、生活費や学費を稼ぐために長時間働かざるを得ない実態や高校生の雇用環境が明らかになった。こうした実態は、睡眠時間・学校以外での勉強時間に影響を及ぼし、「ストレス」「体調不良」「勉強時間がとれない」といった心身と学業面の問題を引き起こしていた。また、高校生は将来の生活に対して、進学や就職、就職後の経済生活、結婚や子育て、介護に至るまで不安を感じていた。このように貧困・格差は、学費や家計費を補うためにアルバイトを余儀なくされている高校生を生み出し、ワーク・ライフ・バランスに問題を生じさせるだけでなく、彼らの進学・就職、その後の将来に対する不安も助長していた。