著者
酒井 英行 畑中 吉治 青井 考 民井 淳 若狭 智嗣 岡村 弘之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、β^+型ガモフテラー(GT)遷移強度を、中間エネルギー(n, p)反応の微分散乱断面積及び偏極移行係数の精密測定から抽出し、池田の和則との比較から核内におけるクオーク自由度の関与を定量的に明らかにするのが目的である。1.(n, p)反応測定施設を全国共同利用研究センターRCNPに建設した。主要装置は、クリアリング電磁石、標的箱(MWDCと標的ラダー)、フロントエンドチェンバー、焦点面偏極度計からなる。2.300MeVに於いて^<27>Al,^<90>Zr(n,p)反応の微分散乱断面積ならびに偏極分解能の測定を行った。3.250MeVに於いてn+d弾性散乱の微分散乱断面横ならびに偏極分解能測定を行った。これは三体力の研究が目的である。4.^<90>Zr(n,p)反応の結果を多重極展開法で解析し、ガモフテラー遷移強度がβ^+=3.0±0.4と求まった。この値と以前に我々が求めたβ^-ガモフテラー遷移強度と組み合わせて、スピン和則値がQ=0.83±0.06と決められた。これから、核子・Δ粒子の結合定数(クオークスピン反転確率に比例する量)が、g'_<NΔ>=0.28-0.35と得られた。この様に、研究は順調に進み当初予定した成果を挙げることができた。尚、ここで実験的に得られたスピン和則値は最も信頼度が高いものであり、それから導かれたg'_<NΔ>は世界で最初の結果である。これから中性子星でのパイ中間子凝縮や通常核でのその前駆現象についての定量的な予測が可能になった。
著者
若狭 智嗣
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

相対論的重イオン衝突によりクオーク・グルーオン・プラズマ(QGP)が形成されるモデルにおいて、QGPにおける相転移温度では核子核子間で交換される中間子の質量が減少する事が示唆されている。中間エネルギーの(P^^→,P^^→1))反応等の偏極観測量の測定から、通常の核物質密度でも前駆現象(中間子の質量変化)の観測が可能との指摘がある。実験的には、核反応及び核構造の取扱いの不定性から、はっきりとした結論を得るに至っていない。本研究では、構造の不定性の小さい^<16>O(P^^→,P^^→1)^<16>O(0^-,T=0,1)反応の偏極観測量の測定を目指した。運動量分散整合の手法を適用し、更にビームのエミッタンスを小さくする事により、最終的にエネルギー分解能40keVを達成し、低バックグラウンド下での0^-状態の分離・測定に成功した。この0^+→0^-遷移は、パイ中間子の量子数0^-と同じ量子数変化であり、純粋にパイ中間子起因のスピン縦モードが励起される。引力のパイ中間子交換力により、スピン縦モードに於いてはその強度が増大する事が示唆されており、パイ中間子凝縮の前駆現象や、核内でのパイ中間子密度の増大といった現象とも密接にかかわっている。今回得られた0^-状態の断面積の角度分布を、理論計算と比較した結果、・無限系の核物質に対する計算で示唆される。高運動量移行領域での異常な増大(前駆現象)は認められない・原子核の有限性を考慮した計算とは無矛盾との知見を得た。