- 著者
-
茂田 正哉
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2009
本年度は前年度に構築した有限差分法による数値計算モデルを現実の問題に適用し,熱水噴出に伴う流れの3次元数値解析を行った.具体的には,熱水活動の確認されている現実の深海カルデラ内の流れについて数値計算を行い,流れの構造を調べた.既に得られている観測データから,一般にカルデラより上部では温度や塩分濃度が成層状態であるのに対して,熱水活動の見られるカルデラ内では温度や塩分濃度が水深によらず一定であることが分かっている.しかし,温度および塩分濃度が均一化するメカニズムについては,これまで解明されていなかった.本研究では,実際の複雑なカルデラ形状も考慮しながら,粒子法および有限差分法による詳細かつ大規模な3次元数値シミュレーションを試みた.その結果,カルデラ内の温度や塩分濃度の均一化は,熱水プルームを駆動力とした対流による混合作用により促進されることを明示した.カルデラ内において噴出した高温低密度の熱水は浮力により上方への流れを生むが,浮力と重力が釣り合う高さで水平方向へと広がる一方,熱水プルームの周囲から低温高密度の流体が流れ込むことによって,カルデラ内に大規模な対流が発生し,最終的に温度や塩分濃度が均一となるというメカニズムを示した.また,深海の熱水噴出による流れの数値計算モデルの確立のために,随時「海底下の大河」計画に携わる研究者等との意見交換を行い,現実の深海の熱水活動に関する情報を得て研究を遂行した.熱水噴出孔の位置や規模を変化させて数値計算を行うことで流れ場の特徴を捉え,観測された温度等のデータから流れの構造や熱水噴出孔の位置の特定を試み,本モデルによる流体数値シミュレーションの現実的な利用を目指した.