- 著者
-
荒川 章二
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.216, pp.213-242, 2019-03-29
1968~69年における日本大学学生運動は,全国学生総数が約100万人と言われたこの時代に,学内学生3万人の参加という空前絶後の対理事会大衆団交を実現し,東京大学全共闘運動とともに当該時期の全共闘型学生運動の双璧に位置付けられている。本稿は,日大全共闘運動の組織論・運動論の特質を考察した拙稿「「1968年」大学闘争が問うたもの―日大闘争の事例に即して」の続編であり,日大闘争の展開過程を基本的な事実,諸資料から確定するという課題を継続している。前稿は,日大全共闘が,大衆団交という場において勝利できる展望を有していた時期までを対象とした。本稿では1968年9月30日「9.30 団交」への過程を再検討したうえで,日大闘争の戦術を象徴する各学部・各校舎のバリケードが一斉に解除・強制撤去される69年2月~3月までの基本的な経緯を示しながら,日大全共闘の組織と運動の時期的変化を検討する。具体的には,第1節で9月初めのバリケード撤去の強制執行をめぐる攻防を契機として,全共闘への求心力が高まり,6月以来要望し続けてきた大衆団交実施の意義がさらに掘り下げられていく過程,第2節は,大衆団交と政府の政治的介入を経て,各組織レベルでいかなる総括が行われ,他方で運動面ではどのような模索が行われたのか,さらに教員層や親たちの動き,警察権や司法権関与の変化,卒業・疎開授業強行問題,東大闘争との連携など10月~12月期の動向を多面的に追求し,第3節で,年明け以降3月までのバリケード闘争の終焉までの過程とその後の闘争継続の要因を指摘する。日大闘争の全過程を対象とした唯一の研究として,日本大学新聞研究会『日大紛争の真相―民主化闘争への歩み―』などに依拠した小熊英二『1968【上】』第9章「日大闘争」がある。本稿は,新たに利用が可能となった当事者の一次資料を中心に分析した。