- 著者
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荻野 千砂子
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.4, pp.39-54, 2011-10-01
本稿では,南琉球八重山地方の授受動詞体系が現代共通語の授受動詞体系と異なる文法を持ち,日本の中古中世の敬語授受動詞の仕組みと酷似する特徴を持つことを指摘する。八重山地方の授受動詞タボールンは概略「下さる」に相当するが,時に話者は「頂く」や「与える」と説明する。そこでタボールンを詳しく調査した結果,「お与えになる/下さる/頂く」の意味が併存し,「下さる]よりも,室町時代の中世語「給はる」の用法に酷似することが明らかとなった。中古中世の授受動詞と八重山地方の授受動詞は,現代共通語授受動詞が持つ視点と人称制約がなく,敬意優先の体系を持つ点で共通する。この共通点の下では,(1)与え手上位者は奪格を取り,主格非明示の用法を持つため,「お与えになる/下さる/頂く」の対立が生じない,(2)受け手下位者を主語とする場合,受身形を用いて「頂く」に相当する語を産出する,という特徴が見られる。