著者
菅澤 貴之
出版者
九州大学大学院人間環境学研究院
雑誌
共生社会学 (ISSN:13462717)
巻号頁・発行日
no.5, pp.39-54, 2006

現代のわが国において大検を受検する者はいかなる社会的背景を有しているのだろうか。これが本稿の基本的な問いである。この問いに答える第一歩として、本稿では大検予備校在籍者に焦点をあて、大検受検者の社会的背景について検討を行う。具体的には、筆者が2004年に大検予備校在籍者を対象に実施した質問紙調査データと尾嶋史章が1997年に高校3年生を対象に実施した質問紙調査データとの比較を通して、現代の大検受検者の社会的背景を明らかにする。分析の結果、以下の知見を得た。尾嶋の高校生調査データと比較すると、大検受検者の父親、母親の学歴は、かなり高い。実に父親の約8割、母親の約7割が短大・大学卒である。次に、大検受検者の父親の職種は、「専門・管理」職が占める割合は3割を超えており、他方、「労務・サービス・農林」職が占める割合は低い。こうした職業構成を反映して、高校生世帯に比べて、大検受検者世帯では家計状況が良好な世帯が極めて多い。上記の分析結果を見ても明らかなように、現代のわが国において、大検を受検する者の社会的背景は限定されている。この点を踏まえると、現代の大検が、国家が意図した教育の「機会平等」をあちゆる者に保障するという機能を果たしていないことに気がつく。つまり、大検の社会的機能の理念と実態の乖離している可能性が指摘できるわけである。
著者
菅澤 貴之
出版者
同志社大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、量的調査と質的調査を組み合わせた混交研究法(Mixed Methods Research)を用いて、大学中退者の職業への移行やキャリア形成の変遷について、多元的な視点から捉えることにある。研究2年目となる平成29年度は、探索的な計量分析を中心に研究活動を展開した。今回の分析では、「2015年SSM調査」と「2005年SSM調査」の2つの調査データを合併して使用した。これは「大学中退」現象が日本社会ではレアイベントであるため、1つの調査データのみを用いた場合、ケース数(大学中退者数)が少数にとどまるおそれあったためである。分析結果は、2015年SSM調査研究会において報告し、年度末に論文(「戦後日本社会における大学中退者の職業への移行―傾向スコア・マッチング法による比較対照分析―」)にまとめることができた。なお、論文は『2015年SSM調査報告書』の第1巻(調査方法・概要)に収録され、すでに、2015年SSM調査研究会のウェブサイト(http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/report.html)より公開されている。さらに、昨年度から引き続き、先端的な統計手法の習得を目的として、ICPSR(The Interuniversity Consortium for Political and Social Research)国内利用協議会が主催する統計セミナー(平成29年9月5日~9月6日)に参加した。セミナーへの参加により、平均処置効果モデルおよび潜在クラスモデルについて理解を深めることができた。なお、セミナーで習得した統計技法は、上述した報告書論文の作成に活かされている。
著者
菅澤 貴之 三須 敏幸 桑畑 洋一郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

大学院博士課程修了者の就業状況については、近年、「ポスドク問題(若手研究者問題)」としてマスコミ等で社会問題化されているものの、大学院重点化政策が開始される1990年代までは博士課程在学者数が3万人未満にとどまり、対象者へのアプローチが困難であったことも影響し、未解明な部分が多い。そこで本研究では、インターネットによる調査票調査から収集された調査データを用いた計量分析(定量的手法)とインタビュー調査(定性的手法)を組み合わせた実証分析を行うことで、博士人材のキャリアパスの実態を多角的に捉えることを試みる。