著者
桑畑 洋一郎
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.111-133, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
24

本研究は,里親として児童を養育している天理教信者である天理教里親に注目し, 天理教里親が,自身の里親養育実践に対して,天理教信仰との関連でどのような意味を付与しているのか, インタビュー調査をもとに考察することを目的とする.このことは, 里親の一定割合を占める天理教里親に関する研究がまだほとんどない状況において意義深いものとなる. またそこから,宗教や信仰と福祉実践との関係の研究に知見を提供することも可能となり, その点においても意義深い. 天理教里親の語りへの分析の結果,以下のことが明らかとなった. 第1 に天理教里親は,信仰に基づいて人助けを実践してきたことを基盤とし, その延長線上で里親養育を開始していること,第2 に里親の立場性においては, 他の里親と異なり〈時間的非限定性〉と〈関係的非限定性〉があること, 第3 にそうした天理教里親特有の〈時間的非限定性〉〈関係的非限定性〉を生じさせているのには, 他の里親とは異なる天理教里親特有の,里親養育の〈宗教的文脈〉が要因となっていることが明らかとなった. こうした,里親を意味付ける〈宗教的文脈〉の枠組みは,今後の里親研究において/福祉研究において重要となるだろう.
著者
桑畑 洋一郎
出版者
山口大学人文学部異文化交流研究施設
雑誌
異文化研究 = Journal of cross-cultural studies (ISSN:18819281)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.36-49, 2020

本研究は、国立国会図書館のデジタルコレクションに所収されている、"母乳育児"に関する明治・大正期の資料への分析を元に、近代日本において"母乳育児"概念がいかなるもので、いかなる機能を有していたのかを考察するものである。分析の結果、近代日本における"母乳育児"概念は、"母乳育児"を自然なものと位置付け義務化するものであり、子の栄養面と情緒面の成長促進を根拠に"母乳育児"を推奨するものであった。さらに、遺伝的特質も含めた母の性質が母乳を通じて子に伝達されることを説き、ゆえに母と家族の自己管理の徹底を要求するものでもあった。こうした近代日本の"母乳育児"概念は、家族内衛生を国家衛生の基盤と位置付ける論理や優生思想と同根であり、この点において、明治・大正期の"母乳育児"概念は、個々の親が行う育児のレベルを超えて国家の繁栄と結び付けられるものであった。
著者
菅澤 貴之 三須 敏幸 桑畑 洋一郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

大学院博士課程修了者の就業状況については、近年、「ポスドク問題(若手研究者問題)」としてマスコミ等で社会問題化されているものの、大学院重点化政策が開始される1990年代までは博士課程在学者数が3万人未満にとどまり、対象者へのアプローチが困難であったことも影響し、未解明な部分が多い。そこで本研究では、インターネットによる調査票調査から収集された調査データを用いた計量分析(定量的手法)とインタビュー調査(定性的手法)を組み合わせた実証分析を行うことで、博士人材のキャリアパスの実態を多角的に捉えることを試みる。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.37-54, 2022 (Released:2023-06-30)
参考文献数
28

近年,医学研究・臨床研究への患者・市民参画が進められ,病いの当事者が臨床試験に主体的に参画することが求められている.一方本稿で注目するHTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type 1)関連疾患も含めた病いの当事者は,こうした動きの前より,臨床試験に対して特有の意味を付与し活動を展開してきた.病いの当事者が臨床試験に対して構成する特有の意味世界を理解することも,現状において重要な意義をもつ.そこで本稿では,HTLV-1関連疾患当事者の病いの語りのうち〈治験の語り〉に注目し,当事者の意味世界とその背景を分析し考察することとする. 結果,HTLV-1 関連疾患当事者にとって治験とは,〈治癒/回復の頼みの綱〉〈存在可視化のツール〉〈連帯拡大のツール〉〈次世代との連帯の証〉であること,またこれに関連して,治験をめぐる〈参加の可否をめぐる葛藤〉〈連帯をめぐる葛藤〉があることが析出された.さらにこうした,治験を連帯と結びつける語りは,HTLV-1 関連疾患の病いの特性と関連した特有の背景から導き出されていることが明らかとなった. 臨床試験を実施する側とは異なる仕方で構成された当事者の意味世界を理解することは,臨床試験における関係主体間の相互理解を進展させる上で重要な意味をもつ.〈治験の語り〉は,そのための手掛かりとなるものであろう.
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.66-78, 2006
被引用文献数
1

これまで、日本のハンセン病問題について編まれた研究では、病者の被害の歴史が多く取り上げられてきた。しかし、被害の歴史だけで日本のハンセン病問題を説明し尽くすことは不可能である。ハンセン病者は、被害の只中で、どうにかして自己の生を切り拓くために、周囲の病者/非病者と共同/交渉しつつ生活を編んできたのである。ゆえに、今後日本のハンセン病問題をさらに多角的に考察するためには、病者が被害の只中でおこなってきた<生活実践>をも視野に含むことが重要だと思われる。本稿では、筆者が沖縄愛楽園にておこなったインタビュー調査で明らかになった、<戦果あげ>と<交易>という相互に関連する二つの<生活実践>を取り上げる。その後、それが病者にとって、生活を切り拓くための「生活戦略」(桜井厚)でもあった可能性を考察し、ハンセン病者の<生活実践>への視座を拓くこととしたい。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
宮崎学園短期大学
雑誌
宮崎学園短期大学紀要 = Bulletin of Miyazaki Gakuen Junior College (ISSN:18831559)
巻号頁・発行日
no.3, pp.123-138,

本論文は、沖縄のハンセン病療養所退所者を事例とし、退所者が現在もパッシング(1) を実践していることを記述するものである。そのことで、現在もパッシング実践が必要とされる背景を考察するための基礎を築くことを目的とする。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本社会病理学会
雑誌
現代の社会病理 (ISSN:1342470X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.47-63, 2020 (Released:2021-11-01)
参考文献数
28

本稿は、幼児雑誌『幼稚園』の付録の経年比較分析から、付録における子ども像の表象の変遷と、その背景を明らかにすることを目的とする。分析と考察の結果、「教材」系付録と「玩具」系付録が併存・融合し“家庭でも遊びつつ学習する存在”としての子ども像が表象されていた1950年代まで、「玩具」系付録が独占状況となり“家庭外で学習する存在”としての子ども像が表象されていた1960年代、「にんきもの」系付録が増加し“メディアを通して遊び消費する存在”としての子ども像が表象されていた1970年代以降、「ほんもの」性を強調した付録と「コラボ付録」が登場し“複合体化した消費のターゲット”としての子ども像が表象されていた2010年代という、付録と子ども像の変遷が明らかとなった。また、こうした変遷の背景には、幼児教育における理念の変化、幼児の生活世界へのテレビの進出とメディアミックス状況、消費社会化の拡大があることが示唆された。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
梅光学院大学
雑誌
梅光学院大学論集 (ISSN:18820441)
巻号頁・発行日
no.50, pp.48-70, 2017

本研究は、HTLV-1対策推進協議会における議論がいかなるもので、どのように変化しているのか、計量テキスト分析ソフトKHcoderを用いて分析し、それを元に病に対する公的対策がいかに議論されどのように決定されるのか俯瞰的に明らかにするものである。研究の結果、第1に議論が重ねられていくことで、総花的議論から徐々に収斂していくこと、第2に当事者の思いを公的対策としていかに反映させるかといった議論に変化していくこと、第3に専門家による議論であっても、何らかの社会規範と関連付けて病が理解されていることが明らかとなった。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.91-103, 2011

本論文の目的は、罹患経験を理由とした特有の医療利用実践を現在も行わざるを得ないハンセン病療養所退所者の状況を記述し、そうした実践の社会的背景と帰結を考察することにある。考察の結果、退所者は、ハンセン病療養所等特定の医療機関を選び利用するという実践を現在も行っていることが明らかとなった。また、それらの実践の背景には、<病いのスティグマ性>と<知識の配置の偏り>という退所生活における困難が存在する。退所者の医療利用実践は退所生活を続けていくために必要なものである。しかしながらこうした実践によって、退所生活における困難が維持されてしまうというジレンマも存在すると考えられる。退所生活における困難は、隔離政策をはじめとしたハンセン病者への社会的な排除が導いたものと考えられる。ハンセン病者のみに困難の解消を求めるのではなく、社会の側がこうした困難を解消する必要がある。