著者
菅間 博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.281-286, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

小児甲状腺癌を理解するために必要な基礎事項を整理するとともに,福島原発事故以前に日本国内の多施設で手術された小児甲状腺癌を集計し,チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌と比較した。甲状腺癌の発症は女児の二次性徴がはじまる9歳位から認められ,20歳以下の甲状腺癌185例のうち15歳以下の小児の症例が39例あった。成人同様に女性に多いが,年齢が低いほど性差は少なくなる。小児に特徴的な甲状腺癌の組織型としては,びまん性硬化型乳頭癌DSPCと,充実型乳頭癌があげられる。DSPCは臨床的には橋本病との鑑別が問題となるが,その病理学的な本質は甲状腺の癌性リンパ管症とびまん性リンパ球浸潤と考えられる。充実型乳頭癌はチェルノブイリ原発事故に注目されたが,放射線被曝と関連のない国内でも若年者にみられる。病理組織学的に低分化癌との鑑別が問題となるが,臨床的に治療方針に違いがあることから,区別する必要がある。
著者
菅間 博 住石 歩 千葉 知宏 宍戸-原 由紀子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.125-129, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
12

甲状腺腫瘍の乳頭癌と濾胞癌では遺伝子変異のパターンが異なる。乳頭癌ではRET/PTC再構成とBRAF(V600E)変異が,濾胞癌では多彩なRASの変異とPPARγ/PAX8再構成が高頻度に認められる。さらに低分化癌と未分化癌では,p53やβカテニン(CTNNB1)遺伝子の変異が加算される。現在,液状化検体(LBC)細胞診標本に応用が容易な遺伝子変異として,免疫染色とFISHにより検出可能なものがある。免疫染色によりBRAF(V600E)変異,p53とβカテニン(CTNNB1)の異常は検出可能である。FISHによりRET/PTCとPPARγ/PAX8の遺伝子再構成は検出可能である。BRAF(V600E)とRET/PTCで理論的には乳頭癌の大部分を診断することができる。PPARγ/PAX8で濾胞性腫瘍の半数程度に診断可能であるが,細胞診断上問題となる濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別には有用でない。将来,分子病理診断が,細胞診の正診率向上のみでなく,分子標的治療にも利用されることが期待される。
著者
千葉 知宏 菅間 博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.78-82, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
17

甲状腺低分化癌は,高分化癌と未分化癌の中間的な形質を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍である。病理形態学的には,腫瘍細胞が正常な分化から逸脱し,濾胞状配列ではなく,充実性,索状ないし島状といった特徴的な増殖パターン(低分化成分)を示す。2004年のWHO分類において独立した組織型として定められた。本邦でも2005年の第6版甲状腺癌取扱い規約にて採用されたが,WHO分類の組織診断基準と違いがあり,充実型乳頭癌が含まれていた。取扱い規約第7版の改訂により,低分化癌の組織診断基準に「低分化成分が全体50%以上を占め,乳頭癌に典型的な核所見はみられないことの」が加えられ,WHO分類に一致するものとなった。本稿では,低分化癌の病理診断,類似疾患との鑑別のポイントを解説する。
著者
岡部 直太 菅間 博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.93-96, 2017 (Released:2017-07-21)
参考文献数
7

甲状腺癌は予後が良好である。2017年の全国がんセンター協議会の集計によれば,甲状腺癌の10年相対生存率は前立腺癌に次いで2番で,発症年齢や手術率,臨床病期Ⅳで生存率などを考慮すると,実質的には1番である。甲状腺高分化癌には,癌遺伝子変異が高率にみられ増殖シグナルが恒常的に活性化されているが,他臓器の癌に比べ増殖速度は極めて遅い。微小乳頭癌は進行することが少ないため,手術することなく経過観察することが推奨されつつある。手術検体の病理診断の結果,乳頭癌で術後に注意が必要なのは,予後不良な未分化癌や低分化癌との鑑別が問題となる場合,相対的に予後が悪い組織亜型の高細胞型乳頭癌や円柱細胞癌の場合などが挙げられる。濾胞癌では,広汎浸潤型で血行性遠隔転移が予測される場合や,低分化癌の島状癌との鑑別が問題となる場合である。
著者
菅間 博 岡本 高宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.65-65, 2016 (Released:2016-07-28)

甲状腺癌取扱い規約の初版の序によれば,1966年にUICC(国際対癌連合)のConference on Thyroid Cancerが契機となり甲状腺外科検討会が発足し,その後UICCのTNM分類ではあきたらず,もっと詳しい臨床所見の記載と病理組織学的な分類の統一を図ることが必要となり,「甲状腺癌取扱い規約」を作ることになったとある。1977年に初版が発刊されて以来,甲状腺外科検討会の発展と共に改訂が繰返され,2015年10月に甲状腺外科学会に移行してからは初めて,第7改訂版が発刊された。甲状腺癌取扱い規約は甲状腺癌の臨床記録事項と病理組織学的分類からなる。臨床記録事項は,手術前ならびに手術時の所見を記録する事項を標準化統一し,甲状腺癌の進行度を評価する病期(Stage)を定めるものである。また,2011年から開始されたNational Clinical Database(NCD)による全国登録の前提となる。今回の改訂では,UICC第7版(2009年)のTNM分類に準拠しつつ,これまでの取扱い規約の歴史を踏まえて妥当と思われる変更点が追加されている。甲状腺腫瘍の病理組織学的分類の世界標準はWHO分類で,2004年に第3版が刊行されてから10年以上が経過している。2005年の第6版甲状腺癌取扱い規約で,第3版のWHO分類に準拠して改訂がなされたが,乳頭癌の特殊型や低分化癌に関しては整合性が十分にとれていなかった。今回,これらの点が追加改訂されるとともに,より精確な甲状腺腫瘍の組織診断に資するように本文と図が大幅に刷新されている。さらに細胞診報告様式が,2007年の「米国国立癌研究所甲状腺穿刺吸引細胞診断学術会議」によりまとめられたべセスダシステムに沿って改訂されている。特集1では,甲状腺癌取扱い規約委員会委員長の岡本から第7版の甲状腺癌取扱い規約の臨床記録事項の変更点について,同規約病理委員会の各委員から病理組織学的分類について解説する。甲状腺癌取扱い規約が日本国内の医療施設において的確に運用され,わが国における甲状腺腫瘍診療の質向上に資するために,本稿が会員諸氏の理解の一助となれば幸いである。
著者
菅間博
雑誌
癌の臨床
巻号頁・発行日
vol.35, pp.270-274, 1989
被引用文献数
1