著者
丸山 治彦 菊地 泰生 倉持 利明
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マンソン孤虫による通常の孤虫症と違い、芽殖孤虫は人体内で無性的に増殖し、感染は致死的に経過する。芽殖孤虫の無性増殖の謎を解明するため、マンソン孤虫と芽殖孤虫のゲノムを決定し両者を比較した。芽殖孤虫のゲノムサイズは653 Mb、マンソン孤虫は796 Mbで、芽殖孤虫のゲノムでは16の遺伝子ファミリーが増大し、26の遺伝子ファミリーが縮小していた。増大していた遺伝子ファミリーは既知の遺伝子と相似性が低かったが、増大したファミリーの遺伝子には臓器分化、シグナル伝達、アポトーシスに関連するものがあった。これは、宿主内という定常環境に生息し臓器を持たないプレロセルコイドの活動を反映したものと考えられた。
著者
升屋 勇人 菊地 泰生 佐橋 憲生
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.3, pp.153-157, 2015-06-01 (Released:2015-08-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

サクラてんぐ巣病菌 Taphrina wiesneri はソメイヨシノをはじめとするサクラ類に大きな被害を及ぼしている。本菌の全ゲノム解読と近縁な 3 種 (モモ縮葉病菌, スモモふくろみ病菌, ポプラ葉ぶくれ病菌) との比較ゲノム解析の結果, Taphrina 属菌のゲノムは 4 種の間で, ゲノムサイズ, 遺伝子数, 遺伝子の種類の点で類似していることがわかった。同時に, 4 種の菌はそれぞれの宿主に適応し寄生を成立させるような, 染色体重複による寄生性関連遺伝子数の増加や, 遺伝子水平転移による新たな遺伝子の獲得などが起こっており, これらの違いが各宿主への寄生成立や病徴の違いに関与していることが示唆された。さらに, オーキシン, サイトカイニン, アブシジン酸など, 多くの植物ホルモンの合成にかかわる遺伝子が同定できた。本病原菌が宿主植物体内でこれらの植物ホルモンを生産し宿主のホルモンバランスが乱れることが, 奇形誘導に深く関与していると考えられた。今後, 得られたゲノム情報を活用した病原菌の生理生態の解明とそれに基づく生態的防除法や, 病原菌の生存に関わる特定の遺伝子をターゲットにした農薬の開発が可能になってくると予想される。