著者
大嶋 清宏 萩原 周一 青木 誠 村田 将人 金子 稔 中村 卓郎 古川 和美
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.345-350, 2013-06-15 (Released:2013-10-16)
参考文献数
14

症例は84歳の女性。認知症のため施設入所中である。某月某日朝,意識障害と40℃の発熱のため近医へ救急搬送された。動脈血ガス分析で低酸素血症と代謝性アルカローシスを認め,気管挿管され当院へ搬送された。来院後の血液検査で高カルシウム血症(13.8mg/dl)あり,胸部CT検査では左下葉に気管支透亮像を伴う浸潤影を認めた。頭部CT検査では明らかな異常所見はなかった。高カルシウム血症により意識障害を呈し誤嚥性肺炎を併発したと考え,入院の上,全身管理を開始した。呼吸に関しては人工呼吸器管理に加え,誤嚥性肺炎に対する抗菌化学療法を行った。高カルシウム血症の原因について精査したが,副甲状腺機能亢進症および悪性腫瘍は否定的であった。長期にわたり乳酸カルシウムおよび酸化マグネシウムが投与されており,これらによりミルクアルカリ症候群に陥り,その結果として高カルシウム血症性クリーゼを来したと考えられた。これら薬剤の投与を中止するとともにカルシトニンおよびビスホスホネートの投与を開始した。その後,徐々に血清カルシウム値は正常化し,それに伴い意識状態も改善した。第5病日には抜管し人工呼吸器から離脱でき,第6病日に紹介元の病院へ転院となった。ミルクアルカリ症候群は,牛乳や炭酸カルシウムのようなカルシウムと弱アルカリ性の吸収性制酸薬の過剰な経口摂取により発症するとされ,以前は消化性潰瘍治療時に認められていたが,その治療の変遷とともに激減した。しかし近年,骨粗鬆症の管理および予防に炭酸カルシウムが頻用されるようになり,再び報告されるようになってきている。とくに高齢者では,上記のような目的で長期間にカルシウム製剤を処方されている例が多く,かつ慢性の便秘に対して弱アルカリであるマグネシウム含有緩下剤を処方されている例も多い。高齢者の高カルシウム血症の際には本症候群の可能性も検討すべきと考える。
著者
荻野 隆史 福江 靖 岸 大次郎 小平 明弘 山田 拓郎 萩原 周一 大嶋 清宏 飯野 佑一
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.365-368, 2013-11-01 (Released:2013-12-11)
参考文献数
3

症例は37歳, 男性. 主訴は意識障害. 既往歴は双極性うつ病で精神科通院中であった. 家族との会話中に突然興奮状態となりベンゾジアゼピン系薬剤を大量服薬したため当院に救急搬送された. 内服した薬剤は, ロヒプノール (1) 60錠, レンドルミン (0.25) 30錠, デパス (0.5) 14錠, レスリン (25) 14錠であった. 来院時所見ではバイタル等は問題なかったが, 入院後経過は服薬後11時間30分後に呼吸抑制が出現したため気管挿管を行った. ベンゾジアゼピン薬剤血中濃度遷延した原因は様々な理由が考えられるが, ベンゾジアゼピンは多く使用されている薬剤であり致死率も低いとされているが, 大量服薬後は血中濃度が遷延するため, 人工呼吸器が必要な症例もあり, 数日間は呼吸状態に注意すべきと考えられた.
著者
萩原 周一 古川 和美 村田 将人 中村 卓郎 大山 良雄 田村 遵一 大嶋 清宏
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.319-324, 2011-07-15 (Released:2011-09-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

症例は53歳の男性。既往に高血圧,糖尿病,アルコール性肝障害あり。飲酒後入浴し,浴槽に沈んでいるところを発見され救急搬送された。来院時意識障害と呼吸不全を認め,集中治療を行ったところ病態は改善傾向となったが,第6病日に発熱し呼吸不全となった。acute respiratory distress syndrome(ARDS)と診断し,シベレスタットナトリウムおよび高頻度振動換気を用いた集中治療を行ったところ奏功し第9病日に抜管,第40病日に退院した。二次性溺水によるARDSは好中球エラスターゼの関与が考えられ,シベレスタットナトリウムの効果が期待できる。また,高頻度振動換気はARDSに対し酸素化改善に有効であった。
著者
青木 誠 村田 将人 金子 稔 澤田 悠輔 神戸 将彦 萩原 周一 中村 卓郎 大山 良雄 田村 遵一 大嶋 清宏
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.699-703, 2014-10-31 (Released:2015-01-24)
参考文献数
15

症例は60歳代,男性。近医定期受診日に全身状態問題なく,肺炎球菌ワクチンを接種された。同日夜間より39度台の高熱が出現した。2日後には両側性の難聴も併発し,近医を再受診した。白血球数の著増を認め,当院を紹介受診した。ワクチン接種部の蜂窩織炎による敗血症と考え抗菌化学療法を開始した。その後全身状態に改善を認めたが,蜂窩織炎以外に明らかな感染源は不明であった。肺炎球菌ワクチンによる重篤な全身反応,敗血症様反応は本邦でも数例報告されているが,難聴を呈した例の報告はない。今後,肺炎球菌ワクチン接種に関わる医療従事者は接種により重篤な副作用を生じうる可能性を十分に理解する必要がある。