著者
落合 啓之
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

特殊関数論を他の分野との相互作用を意識しつつ展開することを探る挑戦的研究である。初年度である本年度は、まず、特殊関数として、Mittag-Leffler 関数やそれを拡張した一般ライト関数など、あまり馴染みのない関数の性質を調べた。特殊関数というと先行研究では超幾何関数やゼータ関数などがよく扱われているが、その範囲を超えていった場合にどのような性質が保たれ、どのような新しい現象が起こるのかをこれらの関数の族で検証していったものである。Uuganbayar(モンゴル国立大学) 並びに私の研究室の大学院生Dorjgotovと共同研究では、先行研究で得られている関係式を整理するとともに新しい関数関係式を与えることができ、それを論文として公表した。今後はこれらの関係式がなす代数構造があるかどうか、あるとしたら超幾何関数の昇降演算子のようなリー代数としての解釈を許すかどうかなどの発展が見込めるものである。特殊関数の由来として、新たに分数階の偏微分方程式の対称性の決定と、その対称性による変数分離の機構を考察した。群作用による多様体の分解だけでなく、独立変数の選択が分数階の微分の場合には、ドラスティックな変更をもたらすことに気づいたのが我々の研究の成果であり、この成果の副産物として、解の今まで知られていなかった表示を与えることに成功した。連立系に対する基礎方程式(係数関数に対する拘束条件)も新しく与えている。これは多数の未知関数を含む非線形の連立系であるが、帰納的構造を見出すことで幾つかの場合は係数関数と対称性のリー環を決定できている。このアルゴリズムが上手くいくカラクリを解明することは今後の課題である。
著者
藤原 一宏 斉藤 秀司 落合 啓之 宇沢 達 向井 茂 斉藤 毅
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

A.Wilesによって得られた楕円曲線についての谷山-志村予想の部分解を分析して得られたTaylor-Wiles系という公理系はEuler系と共に岩沢理論における基本的な道具に成長しつつある.このTaylor-Wiles系についての研究が本研究期間中に以下の方向に発展している.a)肥田氏により構成されたnearly ordinary Hecke代数に対するR=T型定理b)総実代数体上の円分塔(cyclotomic tower)の研究c)高次元ユニタリ志村多様体に対するTaylor-Wiles系の構成a)の研究では肥田晴三氏(UCLA)によるnearly ordinary Hecke代数は既約剰余表現に対応するほとんどの場合に普遍変形環と同一視されることを示した。b)ではまず非可換岩沢-Greenberg予想とでも言うべき問題を定式化した.この問題の研究のため円分塔上での変形理論を構成し,特別な2次元表現の場合にはTaylor-Wiles系を使うことで古典的な岩沢-Greenberg予想と同値であることを見いだした.この結果は2000年度保型形式論国際シンポジウム(パリ)で発表した.c)ではユニタリ志村多様体のコホモロジー群が持つ自然なintegral structureに対してTaylor-Wiles系を構成した.この結果については国際シンポジウム「代数幾何学2000」(長野,日本,2000年7月),第三回アジア国際数学会議(マニラ,フィリッピン,2000年10月),ジョンズホプキンス大での国際ワークショップ「保型表現と志村多様体」(ボルチモア,アメリカ,2001年3月)で発表した.以上の研究については講演の他,詳細をプレプリントとして公表,投稿している.