著者
藤原 一宏 斉藤 秀司 落合 啓之 宇沢 達 向井 茂 斉藤 毅
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

A.Wilesによって得られた楕円曲線についての谷山-志村予想の部分解を分析して得られたTaylor-Wiles系という公理系はEuler系と共に岩沢理論における基本的な道具に成長しつつある.このTaylor-Wiles系についての研究が本研究期間中に以下の方向に発展している.a)肥田氏により構成されたnearly ordinary Hecke代数に対するR=T型定理b)総実代数体上の円分塔(cyclotomic tower)の研究c)高次元ユニタリ志村多様体に対するTaylor-Wiles系の構成a)の研究では肥田晴三氏(UCLA)によるnearly ordinary Hecke代数は既約剰余表現に対応するほとんどの場合に普遍変形環と同一視されることを示した。b)ではまず非可換岩沢-Greenberg予想とでも言うべき問題を定式化した.この問題の研究のため円分塔上での変形理論を構成し,特別な2次元表現の場合にはTaylor-Wiles系を使うことで古典的な岩沢-Greenberg予想と同値であることを見いだした.この結果は2000年度保型形式論国際シンポジウム(パリ)で発表した.c)ではユニタリ志村多様体のコホモロジー群が持つ自然なintegral structureに対してTaylor-Wiles系を構成した.この結果については国際シンポジウム「代数幾何学2000」(長野,日本,2000年7月),第三回アジア国際数学会議(マニラ,フィリッピン,2000年10月),ジョンズホプキンス大での国際ワークショップ「保型表現と志村多様体」(ボルチモア,アメリカ,2001年3月)で発表した.以上の研究については講演の他,詳細をプレプリントとして公表,投稿している.
著者
斎藤 博 向井 茂 寺西 鎮男 谷川 好男 藤原 一宏 浪川 幸彦 内藤 久資 齋藤 博
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1.Alexeev,Sankaran教授を招いて1997年5月に名古屋大学においてモジュライ多様体の研究集会を開催し、アーベル曲面のモジュライに対する結果を発表するとともに一般次元主偏極の場合のトーリックコンパクト化について議論した.また、6月の数理解析研究所でもう一度会って、理解を深めることができた.この方面では(1、5)型と(1、4)型の場合に標準レベル付偏極アーベル曲面のモジュライ空間と対応する正多面体多様体の間の双有理写像を具体的に構成した.対数多様体の概念を使うと見通し良くなることと可積分系との関係がこの研究で得られた新しい知見である.2.夏からは研究計画3)の幾何学的不変式論に本格的に取組み1997年12月にはMumfordのものとは違ってlinearizationの取り方によらない商多様体の構成を発見した.これについては具体的な例でその有効性を検証中である.また、幾何学的不変式論の基礎を検証し、不変式環の有限生成性や簡約代数群の線型簡約性の証明を簡素化することができた.3.1996年度より続いている3次超曲面の周期写像の研究では幾何学的不変式論で得られるモジュライ空間と対称空間の数論的商を比較し、モジュライ空間としてふさわしいコンパクト化の候補を見つけた.これは本来問題としていたK3曲面のモジュライ空間のコンパクト化についても示唆を与えている.次数の低い場合に安定K3曲面の候補を色々実験している.
著者
齋藤 秀司 小林 亮一 松本 耕二 藤原 一宏 金銅 誠之 佐藤 周友 斎藤 博 向井 茂 石井 志保子 黒川 信重 藤田 隆夫 中山 能力 辻 元
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

当該研究は(I)高次元類体論および(II)代数的サイクルの研究のふたつの大きな流れからなる。(I)高次元類体論は高木-Artinにより確立された古典的類体論の高次元化とその応用を目指している。この理論の目指すところは数論的多様体のアーベル被覆を代数的K理論を用いて統制することで、幾何学的類体論とも言える。整数環上有限型スキームにたいする高次元類体論は当該研究以前に加藤和也氏との一連の共同研究により完全な形で完成することに成功した。高次元類体論はその後もρ進Hodge理論などの数論幾何学の様々な理論を取り入れつつ展開し、世界的なレベルで研究が続けられている。当該研究の高次元類体論における成果として、整数論においてよく知られた基本的定理であるAlbert-Brauer-Hasse-Noetherの定理の高次元化に関する結果がある。(II)主要な目標は"代数的サイクルを周期積分により統制する"という問題に取り組むことである。この問題の起源は19世紀の一変数複素関数論の金字塔ともいえるAbelの定理である。当該研究の目指すところはAbelの定理の高次元化である。これは"高次元多様体X上の余次元γの代数的サイクルたちのなす群を有理同値で割った群、Chow群CH^γ(X)の構造をHodge理論的に解明する"問題であると言える。この問題への第一歩として、Griffithsは1960年代後半Abel-Jacobi写像を周期積分を用いて定義し、CH^γ(X)を複素トーラスにより統制しようと試みた。しかし1968年MumfordがCH^γ(X)はγ【greater than or equal】2の場合に一般には複素トーラスといった既知の幾何学的構造により統制不可能なほど巨大な構造をもっており、とくにAbel-Jacobi写像の核は自明でないことを示した。このような状況にたいし当該研究はBloch-Beilinsonによる混合モチーフの哲学的指導原理に従い、GriffithsのAbel-Jacobi写像を一般化する高次Abel-Jacobi写像の理論を構成し、GriffithsのAbel-Jacobi写像では捉えきれない様々な代数的サイクルをこれを使って捉えることに成功した。この結果により高次Abel-Jacobi写像がAbelの定理の高次元化の問題にたいする重要なステップであることが示された。当該研究はさらに発展しつつあり、Blochの高次Chow群、Beilinson予想、対数的トレリ問題、などの様様な問題への応用を得ることにも成功している。