著者
蔵本 洋介 古谷 雅理 甲田 菜穂子 園田 陽一 金子 弥生
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.267-278, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1

タヌキ(Nyctereutes procyonoides)がフェンスを通過するために試みる行動を明らかにすることを目的として,2010年10月18日から2010年11月7日まで,捕獲したホンドタヌキ(N. p. viverrinus)3頭のフェンスに対する行動を実験装置において撮影および分析した.フェンスの素材として,高速道路において一般に設置されている菱形金網(高さ150 cm)を用い,上部には乗り越え防止装置を2種類(塩化ビニル板,トリカルネット)施した.掘削(成獣オス)や乗り越え(当年仔)により通過の成功が観察されたが,トリカルネットが張られているフェンスでは成功しなかった.トリカルネット,塩化ビニル板それぞれに対し,噛みつく,上方へ前肢を伸ばす,上方へ体を伸ばす行動がみられた.2011年10月から2012年10月の東京農工大学農学部キャンパスおよびFM多摩丘陵,東京都日の出町大久野付近の捕獲個体7頭の計測から,フェンスの網目の幅が前後肢の掌幅の最小値27 mmを下回ればフェンス上に留まることができないと考えられ,下顎の横幅12.4 mm以下であれば犬歯の位置まで顎を網目に入れられないためフェンスに噛みつくことができないと考えられた.前肢の前後方向への開きは最大53.6 cmであったことから,乗り越え防止装置の高さはそれ以上であれば前肢や体を伸ばしてもフェンス頂上に届かないと考えられた.