- 著者
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藤原 正光
- 出版者
- 文教大学
- 雑誌
- 文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, pp.131-138, 1996-12
'96年9月1日から16日にわたり,アメリカ・メリーランド州チャールス郡の教育研修旅行に学生引率の責任者として随行した.本稿は,そこで得られたさまざまな情報の中から,教育制度の改善の一つの試みとして取り組まれているMSPAP(Maryland School Performance Assessment Program)について紹介することを主な目的とした.チャールズ郡の教育委員会は,教育の改善を目指し過去10年近くにわたり越谷市を含む日本への教育使節団の派遣を行い,また,一年間の現職教員の研修生の派遣など,日本の教育の優れた点を取り入れようと積極的な努力を続けてきた.MSPAPによる教育改革の試みは,その一つの成果として位置づけることもできる.メリーランド州のチャールズ郡は,ワシントンD.C.の近郊に位置し,長い間農場経営者と多くの知的労働者のベッドタウンとしての役割を亨受してきた.しかし,近年低所得者層の流入の渦に巻き込まれている.それにともない,生活環境と教育環境の変化も進みつつある.MSPAPは,このように変化しつつある教育環境を州や学校の側から立て直そうとする教育改善の試みであり,学校運営への州からの査定や介入といった日本では考えられない強い側面も持っている.中央集権的すぎる,一人一人の教師の自由に教育をする権利を奪っている,画一的なその場限りの教育に陥る可能性があるといった批判もある.本稿では,MSPAPの真の意味を理解するために,メリーランドの公立小学校・中学校の保護者向けに配布されている小冊子をそのまま翻訳し,今後のアメリカ教育研究の出発点としたい.