著者
藤本 龍児
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.114-130, 2007 (Released:2020-03-09)

本稿は、ニューエイジ運動と個人主義の関係を考察するものである。「世俗化」理論によると、現代の宗教は「私事化/個人化(privatization)」していると言われる。事実、1970年代から、ニューエイジ運動と呼ばれる個人主義的な宗教現象が注目されるようになった。また、ニューエイジが生じてきた1970年代には、個人主義も新しい展開を見せている。したがって、ニューエイジ運動と個人主義の関係を考察することは重要であるにちがいない。 第1章では、まずニューエイジ運動について概観し、それがいかなる特徴をもっているのか、ということを確認した。ニューエイジは、「自己宗教」と言い換えられたりすることからも分かるように、その特徴は、個人主義的である、というところにある。そこで第2章では、個人主義の現代的形態であると考えられるナルシシズムを採りあげ、そのナルシシズムとニューエイジ運動を比較し、両者の共通点を指摘した。両者がいくつかの特徴を共有しているとすれば、問題点についても共通しているところがあると推測できる。第3章では、ニューエイジ運動を「宗教的個人主義」の系譜に位置づけて考察した。アメリカには宗教的個人主義と呼ばれる考え方が受け継がれてきているのである。 以上の考察により、現代の宗教は「自己内超越」という特質をもち、またそれに伴って倫理観を形成するための契機を欠いている、という問題点をもつことが明らかになった。
著者
藤本 龍児
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.51-73, 2007-06-09 (Released:2017-07-18)

イラク戦争を押しすすめた世界観を提供したのは、ネオコンと宗教右派だと言われている。すでに現在では、イラク戦争にたいする反対の声が多くなってきた。しかし、今後、両者の世界観は完全にその思想的な説得力を失うのだろうか。これまでネオコンと宗教右派については「両者がどれほどブッシュ政権にたいして現実的な発言力をもっているのか」ということが論じられてきた。しかし、上記のような問題を考察するためには「両者はどれほどアメリカ国民にたいして思想的な説得力をもっているのか」ということを問わねばならない。そこで、こうした問題を問うために、両者を公共哲学的な観点から比較する。本稿では、両者の世界観がもつ影響力の射程を明らかにし、両者を建設的に批判するための条件を導き出すことを目的とする。第1章では宗教右派の世界観を、第2章ではネオコンの世界観を明らかにし、第3章では、両者の世界観を比較して、その共通点と相違点を浮かび上がらせる。そして最後に、両者を建設的に批判するための手がかりを導きだす。
著者
藤本 龍児
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.323-350, 2015-09-30 (Released:2017-07-14)

国家と宗教について考える際の基本理念は「政教分離」である、とされる。しかし、日本の「政教分離」は、欧米諸国のそれと比べて特殊な類型に属すと言わねばならない。しかも、欧米ではその理念じたいが見直され始めている。そこで本稿では、とくにアメリカの「政教分離」を中心に論じ、その思想的問題を明らかにすることを試みた。第一章では、まず日本における「政教分離」理解を、判例や学説を通して確認する。また、その特徴を明らかにするために、欧米における国家と宗教の類型を整理する。第二章では、世界で初めて憲法に「政教分離」を謳った、と考えられているアメリカの憲法についてみていく。ここでは、とくに日本の判例や学説に大きな影響を与えた「分離」原則について論じる。第三章では、一九八〇年代以降の変化について論じ、それまでに確認された国家と宗教にまつわる原理や原則、そしてその背後にある思想について整理し、その問題点を明らかにする。