- 著者
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羽崎 完
藤田 ゆかり
山田 遼
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.Ab0440, 2012
【目的】 筋連結とは,隣接するふたつの骨格筋において,筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差して接続していることを指し,全身のいたる所で観察できる。Myersは,個々の筋連結による筋の全身におよぶ連続したつながりを経線としてとらえ,ほとんどの運動が経線に沿って拡がるとしている。つまりこれは,ある筋が収縮したとき,その筋に連なる筋にまで活動が伝達されることであり,この概念は広く臨床に応用されるようになっている。しかし,筋連結や経線についての概念は解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結について明確にされていない。我々は,Myersの述べる経線のひとつであるラセン線上にある前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,両筋が機能的に筋連結していることを明らかにし,第46回日本理学療法学術大会においてその成果を報告した。本研究では,その延長線上にある菱形筋と前鋸筋も機能的に連結しているか否かを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,健常成人男性10名(平均年齢21.2±1.8歳,身長170.4±9.7cm,体重65.6±26.2kg)とした。測定は,前鋸筋に負荷を与えたときの前鋸筋と菱形筋の筋活動を導出した。測定肢位は,高さの調節できる椅子に膝関節90°屈曲位になるように座らせ,肘関節伸展位にて肩関節90°屈曲位,肩甲骨最大外転位とした。この肢位で,前腕遠位部に自重(負荷なし),2kg,4kg,6kgの負荷を加え,それぞれ5秒間保持させた。測定筋は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,菱形筋とした。第6および第8肋骨前鋸筋は肋骨上で触診できる位置に,菱形筋は肩甲骨最大外転位で,僧帽筋下部線維外側縁,肩甲骨内側縁,肩甲骨下角から第5胸椎棘突起を結んだ線でできる三角形内に電極を貼付した。なお、電極が正確に菱形筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出した。筋活動の解析は,自重時の平均筋活動量を1として,各負荷における筋活動量の変化率を算出し行った。第6および第8肋骨前鋸筋と菱形筋の関係は,Pearsonの相関係数を求め検討した。さらに,第6肋骨前鋸筋と第8肋骨前鋸筋のどちらがより菱形筋と関係が強いか検討するために重回帰分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を十分に行った上で,対象者の同意が得られた場合にのみ,本研究を実施した。【結果】 Pearsonの相関係数を求めた結果,菱形筋と第6肋骨前鋸筋との相関係数は0.791,第8肋骨前鋸筋との相関係数は0.817となり、いずれも有意な強い正の相関が認められた(p<0.01)。重回帰分析の結果,第6肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.356,第8肋骨前鋸筋の標準偏回帰係数は0.517となり,第8肋骨前鋸筋にのみ有意な影響が認められた(p<0.05)。【考察】 五十嵐らは解剖実習献体を用いて,菱形筋と前鋸筋が肩甲骨内側縁で線維性結合組織で連結されていることを肉眼にて確認している。また,竹内らも解剖実習献体の大菱形筋付着部を観察し,それが前鋸筋筋膜に折りたたまれるように接着していることを確認している。このように菱形筋と前鋸筋が解剖学的に連結していることは明白であり,菱形筋の筋活動の変化率と前鋸筋の変化率が強い相関を示した今回の結果から,機能的にも連結していることが明らかとなった。一般的に菱形筋は肩甲骨の内転・下方回旋に,前鋸筋は外転・上方回旋に作用し,両筋は拮抗筋の関係にあるとされている。その一方でPatersonが経験に基づき推察しているように菱形筋と前鋸筋は共同筋として肩甲骨の安定に作用していることが知られている。今回の結果は,この推察を科学的に証明した。菱形筋と前鋸筋は,解剖学的にも機能的にもあたかもひとつの筋のように肩甲骨の安定に作用すると考える。また重回帰分析の結果から、第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方がより菱形筋との関係が深い傾向が認められた。これは,第6肋骨前鋸筋よりも第8肋骨前鋸筋の方が菱形筋の走行の向きに近似しており,肩甲骨の安定に対して共同筋としてより機能しやすいためと考える。Myersもラセン線は前鋸筋のより下部を通過するとしており,下方の前鋸筋の方が菱形筋との関係が深いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,不安定な肩甲骨に対して前鋸筋のみにアプローチするのではなく,菱形筋と前鋸筋をひとつの筋としてアプローチする必要があることを示唆している。