著者
蘇 智慧 八畑 謙介
出版者
株式会社生命誌研究館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

多足類動物は、分類学上多足亜門(節足動物門)として、ムカデ綱、ヤスデ綱、エダヒゲムシ綱とコムカデ綱の4綱を含む。本研究は3つの核タンパク遺伝子を用いて、多足亜門の綱・目レベルの系統関係の解明および分岐年代と祖先形質の推定を行った。その結果、コムカデ綱が最初に分岐し、その分岐はカンブリア紀初期に遡ることが示唆された。この結果は多足類の初期の分岐は海で行い、複数の系統が独立に陸上進出を果たしたことを示した。ヤスデ綱とムカデ綱内の目間の関係については従来の仮説と一致した。祖先形質の推定の結果、多足類の祖先は半増節変態を行っていたことが示され、体節数と足の数が比較的少なかったことを示唆した。
著者
関村 利朗 松原 あゆみ 蘇 智慧
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.46-52, 2017

<p>アフリカ産のアゲハチョウ: オスジロアゲハ(<i>Papilio dardanus</i>),フォルカスミドリアゲハ(<i>Papilio phorcas</i>),ルリアゲハ(<i>Papilio nireus</i>),アフリカオナシアゲハ(<i>Papilio demodocus</i>)と日本に生息するアゲハチョウ科のチョウとの分子系統関係を,ミトコンドリアDNAの <i>ND5</i>,<i>COI</i> と<i>COII</i> 遺伝子領域の塩基配列を使って分析し,検討した. アゲハチョウ属(<i>Papilio</i>)の分子系統樹を作成するにあたっては,本研究で得られた10種のチョウの塩基配列データの他に20種類の<i>ND5</i>,<i>COI</i> と<i>COII</i> 遺伝子データを米国国立生物工学情報センター(NCBI)から取得して利用した.特に,本研究ではアフリカと東・南アジア(日本を含む)地域に生息するチョウのベーツ擬態の起源に注目した.本研究で得られた主な結果は以下の通りである.(1)オスジロアゲハ(<i>P. dardanus</i>)とフォルカスミドリアゲハ(<i>P. phorcas</i>)は,姉妹関係を示したが,日本に生息するアゲハチョウ属のチョウと分子系統的類縁関係を持たない.(2) ルリアゲハ(<i>P. nireus</i>)は,マダガスカルに生息するオリバズスルリアゲハ(<i>P. oribazus</i>)そしてエピフォルバスルリアゲハ(<i>P. epiphorbas</i>)と姉妹関係を示した.しかし,日本産のアゲハチョウ類とは類縁関係を示さなかった.(3) アフリカオナシアゲハ(<i>P. demodocus</i>)は,アジアの東部および南部地域に広く生息するオナシアゲハ(<i>P. demoleus</i>)と姉妹関係を示した.これは,この2種のチョウが近縁であり共通祖先由来であることを示唆している.この結果は<i>COI</i>,<i>COII </i>と<i> EF-1α </i>遺伝子を用いた Zakharov <i>et al</i>.(2004)のものと一致する.(4)クロアゲハ(<i>P. protenor</i>)とオナガアゲハ(<i>P. macilentus</i>)に観察される雌雄両性擬態はシロオビアゲハ(<i>P. polytes</i>)とナガサキアゲハ(<i>P. memnon</i>)に見られる雌限定の擬態と緊密な関係があることが示唆された.(5)<i>P. glaucus</i>(clade J)と<i> P. clytia</i>(clade K)の姉妹関係は強く支持された.最後に,アフリカと東・南アジア(日本を含む)に生息する蝶に見られる雌限定擬態について,分子系統学的議論だけでなく他の視点(例えば,最近発見された目的遺伝子)からも議論した.</p>