- 著者
-
袰岩 晶
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.2, pp.180-195, 2001-09-30 (Released:2009-10-19)
- 参考文献数
- 17
本稿は, M.ホルクハイマーの批判理論における理論概念を明らかにすることによって, 社会理論の「存在被拘束性」と「再帰性」によって生じる問題に答える試みである.理論の存在被拘束性とは, 社会理論が理論主体の社会的立場に制約されていることを意味し, 逆に, 再帰性は, 理論がその理論対象である社会に影響を与えていることを意味している.社会理論がみずからの存在被拘束性と再帰性とを認めた場合, 理論はみずからの絶対性, すなわち普遍妥当性を主張できなくなる.ホルクハイマーは, 絶対性を求める理論を「伝統的理論」と呼んで批判する.一方, かれの主張する批判理論においては存在被拘束性と再帰性の概念を受け入れることで, 理論の作業そのものが一般的な社会的活動の一部分, つまり「理論的実践」であると捉えられ, その理論的実践の社会的機能によって社会理論の意味が判断される.ホルクハイマーにしたがうならば, 伝統的理論は, 個人と社会を物象化し, 支配を維持する機能を有しており, それに対して, 批判理論は, 解放をめざす実践として機能する.存在被拘束性と再帰性の概念を受け入れた社会理論の可能性がホルクハイマーによって示されるのである.