著者
山本 茂弘 山田 晋也 袴田 哲司
出版者
静岡県農林技術研究所
雑誌
静岡県農林技術研究所研究報告 森林・林業編 (ISSN:18828264)
巻号頁・発行日
no.4, pp.87-94, 2011-03

絶滅危惧種であるナガボナツハゼの個体消失に備え,保護・保全に資するため,腋芽を用いた組織培養による個体増殖条件を調べた.伸長に適した培地のpH,植物ホルモンの種類,各個体の継代培養の可能性・シュート増加数の違いを調べた.発根については,培地に添加する糖の種類と濃度,植物ホルモンの添加効果,培地支持体の種類及び個体による発根率の違いを調べた.また,幼植物体の野外への順化条件を調べた.その結果次のことがうかがわれた. 1 腋芽からのシュー卜伸長には培地酸度としてpH5.3が適する可能性がうかがわれた. 2 シュート伸長にはゼアチン0.5又は1.0mg/Lの添加が適する可能性がうかがわれた. 3 ゼアチン0.5mg/Lを添加した培地で多くの個体の継代培養が可能であった. シュートの増加数には個体による違いが見られた. 4 シュー卜の発根期間を早めるには卜レハロースが,発根率を高めるにはショ糖が適する可能性がうかがわれた. また,トレハロースの濃度により発根率が異なることが示唆された.5 IBA O.5mg/LとNAA O.02mg/Lの添加により発根率が高まり、植物ホルモンを含まない発根培地では、発根期間が早まる可能性がうかがわれた. 6 発根培地の支持体としてはバーミキュライト又は鹿沼土が適すると思われた. 鹿沼土では発根期間が短縮されるものの,基部にカルスが形成され,順化効率の低下に繋がる傾向がうかがわれた. 7 幼植物体の順化は,湿度の調整などにより2週間で容易に行えた. 8 本試験で供試した16個体のうち,14個体で継代培養が可能で, 12個体で幼植物体が再生でき,組織培養による個体の確保・保存に役立つことが示された.
著者
袴田 哲司 山本 茂弘
出版者
静岡県農林技術研究所
巻号頁・発行日
no.2, pp.75-80, 2009 (Released:2011-03-05)

準絶滅危惧種サクラバハンノキと治山用樹種ヤマハンノキの良好な苗木生産をするため、稚苗への根粒を形成させる方法を検討するとともにその生育状況を調査したところ、以下のことが明らかになった。サクラバハンノキ成木から採取した根粒の裂片や根片をサクラバハンノキ稚苗の根元に埋め込み処理したところ、根粒形成稚苗が確認され、根粒と根片を合わせて処理した場合にその個体数が多くなった。根粒形成稚苗は、根粒非形成稚苗と比較して、根長は短かったが、苗高と葉長は同程度であり、葉数が多かった。また葉緑素計の数値も高かった。サクラバハンノキ成木から採取した根粒粉砕物の懸濁液をヤマハンノキ稚苗の根元に処理したところ、根粒形成稚苗が確認された。それに加えてリン酸カリウム水溶液を処理すると、葉数、葉長、葉緑素計数値が大きくなった。サクラバハンノキの根粒を処理したヤマハンノキに根粒が形成されたことから、これらの菌類はフランキアである可能性が示唆された。
著者
片井 秀幸 高橋 誠 平岡 宏一 山田 晋也 山本 茂弘 加藤 公彦 袴田 哲司 戸丸 信弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.73-78, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

静岡県のブナ集団の遺伝的系統を推定するため, まずブナの分布域全体にわたる55集団を用いて葉緑体DNA (cpDNA) ハプロタイプの地理的分布を調べた。調査した集団にはハプロタイプD, EおよびFの3種類が存在し, 中部地方の太平洋側に分布するDとEが大部分を占めていた。次にブナの分布域および明らかとなったハプロタイプの地理的分布にもとづいて6集団を選定し, 核マイクロサテライト (nSSR) により遺伝的多様性を調査した。nSSR座の対立遺伝子頻度から計算された集団間のDA距離にもとづいた無根近隣結合樹から, 調査した集団は全て太平洋側の系統群に属し, 地理的な位置関係と一致することが明らかとなった。nSSR座の対立遺伝子頻度は集団間でほぼ均一であったが, cp DNAハプロタイプの地理的分布には構造が認められた。この差異はcpDNAと核DNAの遺伝様式に起因する遺伝子流動率の違いを反映していると考えられる。
著者
袴田 哲司 加藤 公彦 牧野 孝宏 山本 茂弘
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.162-167, 2004-08-25
被引用文献数
6

マツノザイセンチュウを接種したクロマツ小枝からの微弱発光の特徴を明らかにした.マツノザイセンチュウの接種後30分以内に微弱発光の第1ピークが現れ,接種の約70時間後には第2ピークが観察された.微弱発光が増大している時間は第1ピークでは1時間程度と短かっかが,第2ピークは100時間以上に及んだ.第1ピークはマツノザイセンチュウを殺して処理しても,また,マツノザイセンチュウの懸濁液を遠沈した上澄液を処理しても発生が確認されたが,第2ピークはこれらの処理では認められなかった.マツノザイセンチュウを接種すると,テーダマツはクロマツよりも発光強度は低いもののクロマツと同様な微弱発光の発生パターンを示したが,スギでは微弱発光の増大は観察されなかった.これらのことから,第1ピークの発生にはマツノザイセンチュウ由来の物質が,また,第2ピークの発生にはマツノザイセンチュウによるクロマツ組織の加害が関与する可能性が考えられた.