著者
田中 彰 塩原 美敞 日置 勝三 阿部 秀直 西 源二郎 矢野 和成 鈴木 克美
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.273-291, 1990-11-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
38

駿河湾で採集した264個体のラブカChlamydoselachus anguineusをもとに, その生殖について調査した.本種は12月から7月の間に主に採集され, 成長段階および成熟・繁殖段階で棲息域を異にしていると考えられた.雄は全長1, 100mmですでに成熟しており, 雌は全長1,400-1, 500mmの間で成熟に達した.卵巣卵は重さ230-250gになると卵巣壁にある排卵孔から排卵され, 右輸卵管のみに入り, 卵殻腺で卵殻に包まれ, 子宮内に保持される.排卵は約2週間ごとに行われ, 排卵期間は数ヵ月におよぶと考えられる.初期の胚発生は非常におそく, 妊娠期間はすくなくとも3年半におよぶと考えられる.妊娠期間中, 卵巣卵は発達しない.胎仔が全長60-80mmに成長すると, 卵殻はそれからはがれ, 膣を通り排出される.胎仔は子宮内で主に卵黄によって全長約550mm, 体重380gまで成長し産まれる.全長400mm以上の胎仔は母体から栄養分を受けとっていると考えられる.1腹の胎仔数は2-10個体で平均6個体であった.雄の生殖腺指数は一年中ほとんど変化しなかった.雌は卵巣と子宮の状態から明瞭な繁殖時期がないと考えられる.卵殻に包まれた胎仔が最長134日海水中で生存し, その成長率は1月当り10-17mmであった.
著者
鈴木 克美 西 源二郎 田中 彰 久保田 正
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

駿河湾産の深海性軟骨魚類のうち、生物学的に最も貴重とされるカゲラザメ目のラブカの生態に関する知見を得ることを研究の主目的とした。1984年1月〜1988年12月に、湾内で操業されているサクラエビ中層曳網等の深海漁業を利用し、沼津から焼津にかけての沿岸水深60〜450mから、242個体(雌116個体、雄126個体)を得た。全体の90%の標本が水深200m以浅で得られた。雌の全長125.6〜181.0cm、体重3670〜17370g;雄の全長117.8〜155.9cm、体重2780〜6360gであった。成体70個体の水槽飼育において最長飼育日数は7日間であった。長期間飼育のためには、網にかかってから輸送終了までの体の損傷防止が必須と考えらた。一方、低比重の肝臓の浮力が水槽内での遊泳を著しく妨害げている様子が見られたので、タロウザメで再加圧試験を行ったところ、常圧から45気圧に加圧して17分後に、水面直下に浮く状態から中層付近への移動が見られた。食性調査に用いた139個体(雌77個体、雄62個体)の胃内容物は、イカ類23例、魚類4例、同定不能な飼料残査の見出された1例であった。一方、空胃率が73.4%と高く、他の大型中深層性魚類と同じく、ラブカが慢性的飢餓状態にあるもおとみなされた。生物学的最小形は雄全長約110cm以下、雌全長約140〜150cmで、特定の繁殖期は認めにくい。卵巣卵は径80〜90mm、卵重230〜250gで排卵され、卵殻腺内で受精し、卵殻に包まれ子宮内で発生する。胎仔は全長約80mmで卵殻から出て子宮内で育ち、全長約550mmで出生する。雌2個体から取り出した受精卵を、自然海水を満たした小水槽内でしいくし、水温8.3〜15.5°Cにおける最長生存期間は134日で、胚体は最初の全長約29mmから全長69.4mmに成長した。