著者
西垣 定治郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.183-201, 1970-02

For the control of Culex tritaeniorhynchus, the principal vector mosquito of Japanese encephalitis virus in Japan, the residual spray was proved to be nearly ineffective, and therefore the control experiments for the larvae were carried out at a farm village, Hokabira, located on a small island, Matsushima, Nagasaki Prefecture. From the results of the experiments, it is suggested that an effective control would be achieved when a 1% Sumithion floating dust is used once a week at a rate of 3 kg per 10 ares for all the potential breeding places such as paddyfields and allied collections of water, fertilizer pits, earthen jars, etc., located within the scope of at least 2km from the outskirts of the village in question, and that the desirable time for using the larvicide would be from early June to early September.本実験を行なった外平部落は,長崎県西彼杵半島の大瀬戸町から約1.5km離れた松島と云う小島にあって,この島に散在する5部落の内の唯一の農業部落である.外平部落は島の中央丘陵部の西南斜面と海岸との間にあって太田区,日向志区,瀬戸畑区の合計110戸の家がほぼ直線的に並んでおり,周囲に約950アール即ち松島全体の水田面積の97.4%に当る水田があり,多数の家畜を養い,古くから野菜作りが盛んで,その施肥のために下水を大水ガメに溜め,下肥を段々畑に掘られた多数の水肥溜に貯える習慣がある.この様に蚊の発生のための諸条件がそろっていたので,古くから蚊が非常に多く,バンクロフト糸状虫症が高度に浸淫していた.この糸状虫症は仔虫保有者に対する集団治療とアカイエカの駆除とによって1962年8月迄に完全に撲滅された.その後,村民は本病の再燃を恐れてアカイエカの撲滅作業を続ける事を決議し1963年から1965年迄残留噴霧を年1回ずつ実施し,下水,水肥溜等へは幼虫駆除剤の投入を続けながら,1963年中には下水溝を悉くコンクリート溝に改善して1964年,1965年には下水系統の水溜りがなくなり従っで駆除の対象は家の周辺にある水ガメと水肥溜のみとなった.この間,有機燐剤を使用して毎年行なった残留噴霧は,アカイエカに対しては著しい効果が長期に亘って見られたが,コガタアカイエカに対しては殆んど効果がなかった.このことは,残留噴霧実施後,♀成虫の採集数も,その経産率も減少しなかった事から認めざるを得なかったことであるが,残留噴霧を全く行なった事のない従って薬剤感受性が極めて高いと思われる部落においても同様に見られた事から,本種♀蚊の畜舎内に逗留する性質が極めて弱い事及び牛舎特に豚舎が構造上極めて開放的である事などがその主な原因であろうと思われた.そこで,1966年にはコガタアカイエカ(シロハシイエカも含む)の幼虫を対象として,早春から越年成虫群による産卵が終了する迄,水田を始めとする本種蚊の可能発生場所に幼虫駆除剤を散布し続ける計画を立て,外平部落の周縁から1kmの範囲の発生場所へ1%スミチオン浮遊粉剤を10アール当り3kgの割合で,越冬成虫の産卵期間と思われる4月3日から5月末迄の間,及び以後8月3日迄,4月中は10日,以後は7日間隔で散布を続けた.その結果,散布期間中は顕著な駆除効果がみられた.然しその間,蛹が少数ずつではあるが時々採集され,又,1km外から飛来したと思われる可成りの数の♀成虫が採集された.従って,1967年には駆除範囲を外平部落から2km迄広げて4月14日から5月31日迄即ち越年成虫に由来する幼虫が発生する期間中,昨年同様の方法で幼虫駆除剤の散布を続けた.散布中は勿論著効を認めたが,これによって6月以後の新生成虫の発生を防ぐことは困難であることが判った.7月上旬から幼虫及び成虫の発生がますます盛んになったので,全島(殆んど2km内に入る)一斉に残留噴霧を実施し,続いて幼虫駆除剤の散布量を多くして駆除を再開したが,約1ケ月間は幼虫及び成虫の盛んな発生を効果的に抑える事ができなかった.以上の実験から,少なくとも2kmの範囲内にある本種蚊の可能発生水域に対して1%スミチオン浮遊粉剤を10アール当り3kgの割合で週1回散布し続けるならば顕著な駆除効果を挙げることができる.然しこの方法で早春から越年成虫群が産卵を終了する迄の期間中幼虫駆除を続けても,6月からの新生成虫の発生の根源を断つ事にはならないので,成虫の発生が次第に盛んになり始め,豚での日本脳炎の自然感染が起り始める6月上旬から駆除を始め,多くの成虫が越年に入る9月中,下旬の少し前即ち9月上旬迄,幼虫駆除を続けることが,疫学的には必要且つ効果的であると考えられる.