著者
寺本 英 日高 敏隆 河合 雅雄 川那部 浩哉 伊藤 嘉昭 松田 博嗣
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

昭和58〜60年度の3年間におよぶ本特定研究の研究成果は下に述べるとおりであるが、本年度はそれらの研究成果をもとに国際シンポジウム「生物の適応戦略と社会構造」が計画され、この分野で活躍する外国の専門研究者17名の参加を得て実施された。本シンポジウムはいろいろな動物群あるいは数理モデル等の各分野の専門家が一同に会して動物の社会構造や社会行動についての諸問題を議論したユニークなものであり、本特定研究の研究成果に国際的な評価を与えるものとなった。シンポジウムの内容は特定研究の研究成果を含め英文報告書として取りまとめられた。また、それとは別に「生物の社会構造」と題する和文の啓蒙書も出版されている。3年間の本特定研究の研究成果は次のとおりである。昆虫における真社会性の進化、昆虫および甲殻類の交尾戦略・繁殖戦略の研究では、野外調査を主体に、特に南西諸島での本格的な調査とともにいくつかの事実の発見があり繁殖戦略・社会構造の理論の発展を得た。脊椎動物では魚類,鳥類,哺乳類を中心に調査研究が組織的に遂行され、交尾・育児・採餌行動と社会構造の詳細な比較検討が行なわれた。霊長類についてはニホンザルの調査を中心に、新しい調査方法によって採餌戦略・繁殖戦略によるサル社会の分析がなされ、個体群維持機構に関する事実が見い出された。ヒトに関する研究は旧来の伝統的風習や制度の残る沖縄や東北の僻地社会で重点的な調査が行なわれ貴重な資料が集収された。またそれに基づく社会構造と生存戦略の分析をとおしてヒト社会の特徴が抽出された。これらの広い研究対象で明らかにされてきた種々の動物行動の適応戦略的視点からみた統一的理論および社会構造形成モデル理論の探求が個体群動態論と適応戦略論の融合した理論として世界に先がけて精力的に行なわれた。
著者
川那部 浩哉 森 主一 水野 信彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.22-26, 1957-05-31 (Released:2017-04-08)

A dense population of a salmon-like fish, Plecoglossus altivelis, or Ayu in Japanese, is found in the River Ukawa in the north-western part of Kyoto Prefecture. We have been studying the ecology of this fish from various viewpoints since 1955. This report concerns the change of the modes of utilizing the river-pools, which we observed during the course of our study. As we have already reported (KAWANABE, MIYADI, MORI, HARADA and OHGUSHI, 1956), there can be distinguished two kinds in the life of Ayu in pools, which are related to the topographical characteristics of the river-pools as well as to their adjoining riffles, i.e., using the pools as both feeding and resting places or as shelters only. By our recent observation it was discovered that the modes practically taken by Ayu might be changed according to population density. The population of Ayu by our estimation in 1956 was far less than that of 1955 (about one-sixth). The decrease in population in 1956 was far greater in the river-pools (about one-tenth of 1955) than in the riffles (about one-fourth of 1955). In 1956,when the density of Ayu in the river was low, the pools were utilized chiefly as shefters or resting places in the night-time, and the fish used to take their foods in the daytime in the adjoining riffles, where they could find better and richer food materials in the form of algae attached to stones than, in the pools. On the contrary, in 1955,when the density was high, the pools were utilized as feeding places as in the case of the riffles ; so, some individuals were found staying and feeding there both in the daytime and at night.
著者
川那部 浩哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.144-151, 1970-08-01 (Released:2017-04-11)

The immigration number from the sea in spring, and population density, body-length distribution and social behaviour during the settling season (summer) of the Ayu-fish (Plecoglossus altivelis) were investigated from 1955 to 1969 in the River Ukawa. The population density varied between 0.03 and 5.5 indiv./m^2,but the natural mortality from spring to summer was stable being about a half to onethird. It was confirmed that the social behaviour was changed by its population density and that the growth was not limited directly by algal production but mediated by its own social structure. When overall population density was about four times to that the all fish had their own territories, territorial structure was established only in certain types of river-bed. The difference resulted from the relation between the value of the feeding or resting site and its closedness against the invasion of non-territorial ones. Territorial structure of Ayu had probably evolved as a self-regulatory process but was not so distinct as at the present time.
著者
川那部 浩哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.131-137, 1957-12-31 (Released:2017-04-08)
被引用文献数
2

A dense population of a salmon-like fish, Plecoglossus altivelis, or"Ayu"in Japanese, is found in the River Ukawa on the Japan Sea coast of Kyoto Prefecture. Members of our research group have been studing the ecology of this fish from various viewpoints since 1955. This paper concerns the change of the social behaviour and the mode of production. As already reported by our group, the common habit of this fish is territorial in the river-rapids and schooling in the river-pools. But on certain occasions, it shows no territorial behaviour, even in the river-rapids. By my recent observation, the social type of this fish appears to change with reference to the population density, and this change is accompanied by the difference in the body-length distribution. Five types were recognized in its social behaviour : schooling, solitary travelling, non-territorial solitary residential, solitary territorial and aggregated. The schooling is a social type in which all the members of a group show common behaviours, swimming in the same direction and feeding in similar manner. Solitary traveller is an independent passenger, having no home, but it may be united with a school or may be separated again. Non-territorial resident is a solitary dweller having its own range but does not show the territorial or attacking behaviour to the nearby individuals. In the territorial solitary type each fish has its own territory. An aggregation means that its members are aggregated within a certain area but do not show the common behaviour, and this type of behaviour is observed when they are resting or sleeping. The population of this fish, by our estimation, was far less in 1956 than in 1955(about one sixth), and the social relationship seemed to have been influenced by it. In 1955,when the density was high, most fishes showed the schooling behaviour and the territorial ones were very scarce. On the contrary, in 1956,when the density was low, many fishes behaved as settled solitaries and territorial individuals were not scarce. The stability of the school and the territory differs according to the change of population density. In the high density, the schooling is the common and more stable behaviour type of this fish and no difference is seen in the bodylength between the schooling and terrtorial ones. In the low density, however, the territorial behaviour is more stable, and there occurs a difference in the body-length, i.e. the territorial fishes are much larger than the schooling ones. In the case of the social structure in which the fishes are stabilized with territoriality, the growth of the non-territorial fishes seems to be checked because the latter cannot invade the bottom of the first class, which is defended by territorial fishes.
著者
中野 繁 Kurt D. Fausch 田中 哲夫 前川 光司 川那部 浩哉
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.211-217, 1992-11-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

モンタナ州フラットヘッド川水系の山地渓流において, 同所的に生息する2種のサケ科魚類ブルチャーとカットスロートトラウトの採餌行動と生息場所の利用様式を潜水観察し, さらに両種の食性を比較した.一般に, 渓流性サケ科魚類の採餌行動は, 水中の一地点に留まり泳ぎながら流下動物を食べる方法 (流下物採餌) と河床近くを広く泳ぎ回りながら底生動物を直接つつくようにして食べる方法 (底生採餌) に大きく二分される.両種の採餌行動は大きく異なり, ブルチャーの多くの個体が主に後者の方法を採用したのに対し, 観察されたすべてのカットスロートトラウトは前者を採用した.両種間には明瞭な食性の差異が認められ, ブルチャーがコカゲロウ科やヒラタカゲロウ科幼虫等の水生昆虫を多く捕食していたのに対し, カットスロートトラウトは主に陸性の落下昆虫を捕食していた.両種が利用する空間にも明らかな差異が認められ, ブルチャーが淵の底層部分を利用するのに対し, カットスロートトラウトはより表層に近い部分を利用した.また, 前者が河畔林の枝や倒木の下などの物陰を利用するのに対し, 後者は頭上の開けた場所を利用した.両種の食性と流下及び底生動物の組成を比較した結果, 両種間に見られた食性の差異は採餌行動の差異のみならず採餌空間の違いをも反映しているものと考えられた.このような種間における資源の分割利用が両種の共存を可能にしているものと考えられた.
著者
樋口 敬二 茅 陽一 川那部 浩哉 半田 暢彦 松野 太郎 中根 千枝
出版者
中部大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

地球環境科学の基本的な考え方、各学問分野において推進すべき研究課題、そして推進方策について6WG(研究基盤、気候システム、物質循環、生態システム、人間活動、総合技術)とそれを総括する総括WGを設けて検討を行った。7月から2月にかけて、計35回のWG会合を開催し、以下の結果を得た。(1)地球環境科学の定義としては、「人類の生存基盤である地球環境の理解を深め、人間活動の影響によって損なわれた地球環境の維持・回復に関連する諸問題の解決に資する総合的・学際的科学であり、そのために大気、海洋、陸域、生態系に関わる地球環境変動のメカニズムを解明するととともに、人間活動と地球環境の相互関係を踏まえて、影響の予測及び対応策に関する研究を行い、環境調和的な人間活動の在り方を考究するものである」と定義するのが適当と考えられる。(2)主要な研究課題としては、現象の総合化、対応策の総合化などに基づいたものが重要であり、各研究課題はa)人間活動や社会システムの変化による地球環境の変化を解明する視点、b)人為的な地球環境変化による自然や人間社会への影響を解明する視点、c)人間活動と自然現象との相互作用から地球環境保全の方策を探る視点の3視点を基にしたものに分類できる。たとえばa)に該当する一般的課題としては、人間活動の拡大や社会システムの変化による地球環境負荷の増大に関する研究、人為的環境負荷の増大による地球環境の変化に関する研究、地球環境の環境変化を引き起こす社会システム及び自然システムの解明に関する研究が考えられる。(3)推進方策として最も重要なのは、既存の研究ネットワークをもとにプロジェクト型の研究を推進する中核的研究機関の設立である。また、同時にプロジェクトの実施体制の改善、人材の流動化、国際共同研究の一層の推進と主としてアジア・太平洋地域でにおける持続的な研究とデータの蓄積を図ることが最も重要であるという方向が示された。

1 0 0 0 川と湖の魚

著者
川那部浩哉水野信彦共著
出版者
保育社
巻号頁・発行日
1989
著者
川那部 浩哉 MKUWAYA Gash KULUKI Kwent 谷田 一三 幸田 正典 桑村 哲生 堀 道雄 柳沢 康信 MKUWAYA Gashagaza Masta KULUKI Kwentenda Menga
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

タンガニイカ湖の沿岸魚類群集は競争的であると同時に協調的な側面を持つ,極めて複雑な種間関係のもとに成立していることが,これまでの調査で明らかになっている。世界の他の淡水域で類をみないまでの魚類群集の多様さは,この湖の地質学的な古さとともに群集の主流を占めるカワスズメ科魚類の可塑的な資質に負っている。固有種によって構成されているこの魚類の系統関係は,以前から継続しーいるアロザイム分析によって求めた。同湖に生息する56属170余種のうち,これまで46属70種について分析を終え,この魚類が少なくとも7つの系統群から構成され,それらが互いに300万年以上も前に分化したものであるという結果を得た。また,同湖の系統群が東アリカ全体のカワスズメ科魚類の「進化的なたまり場(evolutionary reservoir)」になっていることも指摘した。南北に600km近くも延びるタンガニイカ湖では,各魚種の諸形質が湖内で地理的に変異するのみならず,群集の種類組成も地理的に大きく異なる。これまで北部(ザイ-ル国ウビラ周辺)と中部(タンザニア国マハレ周辺)で群集の比較を行ってきたが,昭和63年度および平成元年度に,ザンビア水産庁タンガニイカ湖実験所と共同で,始めて南部(ムプルング周辺)での調査を実施した。岩礁域3ケ所に観察ステ-ションを設け,主にスキュ-バ潜水によって魚類の個体数調査と繁殖・摂食等の行動観察を行った。典型的な岩場の魚類相は,種数で25%,個体数で50%以上が南部固有であり,種数は北部・中部の同じ生息場所に比べて10種以上多く,密度は35%〜50%も少なかった。北部・中部に生息しながら南部にいない数種のニッチは同一の食性ギルドの別種によって占められていた。南部のひとつの特徴は,貝殻を繁殖の巣として利用する特異な1系統群が生息していることである。野外実験の結果,この魚たちは巣の利用に関し寄主一寄生関係にあることが明らかになったが,これは繁殖に関する種間関係の従来の見方について再検討を迫るものである。われわれはこれまでの調査から,摂餌に関する協同的,相互依存的あるいは偏利的な種間関係が重要な群集の構成原理になっていることを強調してきた。今回の調査によってこの仮説を捕完し発展させる2・3の成果を得ることができた。そのうち最も重要なのは,摂餌に関与した形質の個体群内の多型が相当数の種に生じていることの発見である。魚食魚Lepidiolamprologus profundicolaでは,個体群内に6つの固定的あるいは可変的な体色パタ-ンが認められ個々の個体は体色に対応した1・2の限られた狩猟方法を長期間持続して用いた。また,鱗食魚Perissoaus miuolepis plecodus straeleriにおいても,4つまたは2つの色彩多型が存在し,やはり各個体は体色に応じた攻撃方法を用いた。さらに鱗食魚では色彩多型と同時に顎の非対称性も見い出された。この非対称性は,他の魚を襲う時の攻撃方向を決定している。すなわち,右利きの顎をもつ個体は常に他の魚の左体側を,左利きは常に右体側を襲う。これら多型の存在は,被食者側の逃避行動を攪乱する効果をもち,各型が相互に密度依存的な協同的関係にあると推定された。このことは,協同関係が種間のみならず,種内レベルに下がっても重要な原理であることを示唆している。群集内での資源分割が調整的であるのか否かについても,2・3の新らしい知見を得ることができた。共存する藻類食魚数種を実験的に除去しその後の回復過程を観察すると,かつてある種が占めていた場所を同じ種が再び占める傾向が強かった。また,岩場の基質を産卵・保育場所とするLamprolagin族12種の繁殖個体の1年以上にわたる連続除去実験においても,同一場所は同一の種によって繰り返し用いられ,繁殖場所の使用に関する種特異性が極めて高いことが判明した。微小生息場所利用に関する限り,各種が適応している幅は小さく,種間での重なりはほとんどなく非調整的である。大部分が湖内で分化した種によつて構成されているタンガニイカ湖の魚類群集は,既存種の寄せ集めでできた群集とは大幅に異なる原理で編制されている可能性が高い。現地調査で得た資料の解析を現在進めているが,近日中にある程度まとまった説を提示できると考えている。
著者
川那部 浩哉 西平 守孝 甲山 隆司 阿部 琢哉 和田 英太郎 東 正彦
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

地球の温暖化や生物多様性の喪失など、地球環境問題の深刻化に伴い、生態科学が答えるべき社会的課題は大きくなっている。そこで「生物と佳境と相互作用」、「多様な生物間の複雑な関係」、「生物の進化と多様性」など、マクロなレベルでの生命現象の解明をめざすと共に、生態科学の立場から環境問題の解決に貢献できる体制を作る第一段階として、京都大学の生態学研究センターが1991年に設置された。さらにこれを発展させるべく、1992年に日本生態学会は国立生態科学研究所構想第7次案をまとめた。本研究は7次案の主な課題である「Center of Excellence」、「人事の流動と活性化」、「人と情報のネットワーク」、「国際的高等教育機関」、「本格的な共同研究を推進できる体制」などを全く新しいタイプのネットワークの構築を通して実現する道を提示することを目的として行われた。具体的な方法としては、研究会を開いて以下の項目を検討した。1)具体的な当面の最大の共通テーマ2)本格的な共同研究を推進するための、コアとなる組織と研究機関のネットワークの全体構造3)人事の流動化と活性化を促進メカニズムに関する斬新なアイデア4)共同利用を必要とする、これからの生態科学にとって最も有用な研究施設5)研究機関のネットワークの具体化6)生態学研究の飛躍的発展のためのPost Doc層の最大活用化7)国際対応できる生態科学における大学院教育のカリキュラム作成8)国際共同研究推進と有機的に連動した大学院生の国際交流検討結果を整理し、「国立バイスフィア研究ネットワーク構想」としてまとめた。この構想案は、生態学の研究を有効に進める新しい研究機関の設立を含めた、研究機関のネットワークを実現化するひとつの具体的な道のりを示すものである。
著者
川那部 浩哉
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.144-151, 1970-08-01
被引用文献数
15

The immigration number from the sea in spring, and population density, body-length distribution and social behaviour during the settling season (summer) of the Ayu-fish (Plecoglossus altivelis) were investigated from 1955 to 1969 in the River Ukawa. The population density varied between 0.03 and 5.5 indiv./m^2,but the natural mortality from spring to summer was stable being about a half to onethird. It was confirmed that the social behaviour was changed by its population density and that the growth was not limited directly by algal production but mediated by its own social structure. When overall population density was about four times to that the all fish had their own territories, territorial structure was established only in certain types of river-bed. The difference resulted from the relation between the value of the feeding or resting site and its closedness against the invasion of non-territorial ones. Territorial structure of Ayu had probably evolved as a self-regulatory process but was not so distinct as at the present time.