著者
西島 孜哉
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

西鶴の使用語彙から策定された人間文化の総体について、現時点では次のような試案を想定し、その吟味と検証、補訂を行っている。それは新しい人間文化のモデルを提言しうるものと考えている。人間文化を大きく5 つの構成要素に分類し、その要素を生成する小概念をたてる。What/Why何を/なぜ大切にするか(人間尊重・帰属性・規律性・社交性キーワード : 不義・人はならはせ・生国・義理・情・はなしHow/どのような生き方をするか(誠実性・着実性・知の継承)キーワード : 誠・長者丸・世の鑑What/How何を/どのように創り出すか(創造性・素人性・玄人性)キーワード : 仕出し・贔屓・家職・家業What/How何を/どのように求めるか(現実重視・精神性・向上心・競争心)キーワード : 浮世・訳知り・粋・天下一What/How何を/どのように受けつぐか(伝統文化融合・地域文化融合・国際性)キーワード : 俗源氏・珍奇・世界括弧内の小概念を成立させるキーワードを設定する。西鶴作品の中で人間文化と関わりのある語彙を選定してキーワードとして取り上げた。短期間の研究であり、キーワードは僅かしかあげえないが、今後引き続いて西鶴作品から数多くのキーワードを抽出しうると考えている。そのキーワード群によって構築する西鶴の人間文化図と現代の人間文化との対比によって、新しい提言が可能となるのである。
著者
浅野 晃 篠原 進 村上 征勝 西島 孜哉 谷脇 理史 冨士 昭雄
出版者
共立女子大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

17世紀後半の作家井原西鶴の文学の魅力は、千変万化する語彙を縦横に操った新しい文体にあると言うことができる。処女作『好色一代男』(1682年刊)の冒頭部分「桜も散るに歎き、月は限りありて入佐山、友に但馬の国、かねほる里の辺りに‥‥」は、西鶴の個性的な文体の創造をみごとに示した好例である。ところが、現在、われわれは、西鶴語彙の索引を共有してはいない。本研究は、西鶴研究者が共同して、西鶴作品の語彙について、その統計分析のための基礎作業にとりくもうとしたものである。本年度の研究業績は、以下の2点にまとめることができる。(1)第1は、語彙をコンピュータ化するための実験、つまり、語彙を機械化するに当って、その可能な範囲を探る作業を開始したことである。まず、西鶴の代表作『好色一代男』『好色五人女』『日本永代蔵』をとり上げた。作品をデータ・ベース化し、研究会活動を通して、語彙の統計処理について、基本的な問題点を討議した。異体字や漢字の字体、仮名処理などの基本方針の方向を定め、コンピュータのいわゆる字書作りの作業に入ったのである。こうした作業と平行して、西鶴の全作品のデータ・ベース化の仕事も続行している。(2)第2の研究業績は、正確な西鶴作品を提供するための基礎作業に取りかかったことである。これは、最終的には、新しい『西鶴全集』の刊行に連なるものである。『定本西鶴全集』第1巻が世に出たのは、昭和26年8月のことであるから、それからすでに40数年の歳月が流れたことになる。現在の西鶴研究は、この全集を手懸りにして展開しているが、作品のテキスト研究も進歩を見せているので、現段階において、望みうる最高の西鶴全集と、西鶴語彙の総合索引を共有することになれば、西鶴研究はさらに大きな前進を見せることになろう。本研究は、以上の2つの分野において、基礎的な研究業績を築きはじめたものである。