- 著者
-
西川 真子
- 出版者
- 名古屋外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
中華民国時期以降の歴史を見れば、孫文と宋慶齢、周恩来と〓頴超、梁思成と林徽因等のように、ともに高い教養を身につけ、知的な営みを共有する夫婦が少なからず存在する。あるいは、胡適の場合のように、親の決めた婚約者が旧式の教育しか受けていなかったため、自分の妻に知識を得て教養を磨くことを強く望んだ例も存在する。妻にも高い知的好奇心を求める--この志向性は中国の知識人階層の中に途切れることなく継承されている。先年亡くなった銭鐘書とその妻楊絳女史の場合も、夫妻とも著名な文学研究者、作家として切磋琢磨しながら知識人として洗練の度を加えていった。民国期以来の中国で何故このような知識人同士の夫婦関係が生まれることになったのか。本報告書では、清末から民国時期にかけて中国の知識階級でおこなわれた、家庭と夫婦のありかたに関する議論を振り返って中産階級の家庭観を考察した。特に胡適とその妻江冬秀に関しては2002年7月13日関西中国女性史研究会等主催のシンポジウム「ジェンダーからみた中国の家と女」において「民国時期知識人の家庭観-胡適の結婚」と題して研究発表をする機会を得た。同じ視点から梁思成と林徽因夫妻の事例について考察した成果は論文「民国時期中国知識人夫婦における知の共有-梁思成と林徽因」(『名古屋外国語大学外国語学部紀要』23号)にまとめた。銭鐘書と楊絳夫妻の事例は、彼らの民国時代から解放後文化大革命を経て1980年代に至る長期の活動を俯瞰し、知識人家庭における夫婦間の知の共有のありさまと、家族をつなぐ媒介としての知識と教養のありかたについて考えた。