著者
調 恒明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.37-42, 2016-01-15

地方衛生研究所は保健所と異なり,地域保健法そのものには規定されておらず,厚生労働省が発出した設置要綱でその役割が示されている.厚生労働省が策定する「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」および各種の特定感染症予防指針などに地方衛生研究所の果たす役割が明確に規定されていることから,厚生労働省は地方自治体に地方衛生研究所が機能していることを前提として施策を決定していることは明らかである. 一方,地方自治体には地方衛生研究所の法的設置義務はなく,業務内容に関する法規定がないため基本的に地方衛生研究所のあり方は自治体の裁量に委ねられている.法的縛りがなく,財政を担当する行政職員にとって重要性が分かりにくい地方衛生研究所は,近年の地方分権と地方自治体の予算の困窮により,人員,予算削減のターゲットとなっており,本来備えるべき検査機能さえ維持することが危ぶまれる自治体も存在すると思われる.
著者
藤井 正美 石丸 泰隆 高橋 幸広 惠上 博文 西田 秀樹 岡 紳爾 調 恒明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.609-616, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的 てんかんは人口の約 1%を占める決して珍しくない病気であり,近年,高齢化とともにてんかん患者が増加している。また就学,就労,運転免許などの社会生活面や障がい者福祉などでも患者は多くの問題を抱えている。しかしてんかん患者の抱える問題が地域保健行政に十分理解されているとは言い難く,医療・介護・福祉の連携体制の不備も指摘されている。そこで,てんかんに関する地域保健活動の実態を把握し,今後の支援体制や啓発活動に活用することを目的に全国保健所を対象に実態調査を行なった。方法 全国490か所の保健所を対象にてんかんの地域保健支援体制に関するアンケートを実施した。方法は自記式調査票を保健所に郵送,担当保健師 1 人が代表して回答・返送する形式とし,平成26年 9~10月に実施した。調査内容は保健所で受けたてんかんに関する相談の有無および内容,研修会等実施の有無,保健所で扱う難病および感染性疾患の研修との対比等とした。結果 全国347保健所から回答を得た(回収率71%)。内訳は都道府県型保健所(県型)263か所(72%),指定都市・中核市・政令市・特別区保健所(市型)84か所(67%)であった。保健師がてんかんに関する相談を受けた経験は73%(県型69%,市型88%)であり,市型に多かったが(P<0.01),適切に対応できるという回答はわずか10%であった(県型,市型で差はなし)。相談の内容は医療機関,症状・将来の不安が多かった。保健師が把握している研修会の開催は専門職,住民対象がともに 8%であり,県型(専門職,住民ともに 5%)に比べ市型(専門職17%,住民18%)で多く開催されていた(P<0.01)。またこの割合は他の保健所が扱う疾患の研修会(21%~70%)と比べ有意に少なかった(P<0.01)。てんかんについての知識は保健師の76%が必要と考え,60%は研修会があれば参加したいと回答した。結論 多くの保健所保健師はてんかんに関する相談を受けている反面,適切には回答できていないと感じている。またてんかんの知識は必要と感じているが,研修等を通して知識の修得ができない境遇にある。これらの結果を踏まえ,今後はてんかん学会・協会,医師会,医療機関等が行政と恊働し,てんかんの啓発活動を地域保健に取り入れることが重要である。さらに都道府県単位に包括的高度専門てんかんセンター等を設置し,行政保健師や介護・福祉・教育等専門職が情報収集のできる環境整備が望まれる。
著者
調 恒明
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.238-243, 2018-03-15

はじめに 地方衛生研究所(以下,地衛研)は第二次世界大戦後,GHQ(General Headquarters)の占領下において,わが国における公衆衛生の向上を目的として自治体に設置されたことに始まる.保健所については1937年に最初の保健所法が制定されていたが,日本国憲法下において新たな保健所法が1947年に制定されたものの,地衛研については法制化されていなかった.1948年4月に最初の「地方衛生研究所設置要綱」が国によって発出され,その後,約10年で全ての都道府県に設置された.現在,地衛研は全国の都道府県,政令市に設置されており,一部の特別区,中核市の検査施設も地方衛生研究所全国協議会(以下,地全協)に加盟しているため,地全協の登録機関は83となっている. 直近では,厚生省(当時)は1997年3月14日に厚生省発健政第26号「地方衛生研究所の機能強化について」1)(事務次官通知)によって設置要綱を規定しており,地衛研は「地域保健対策を効果的に推進し,公衆衛生の向上及び増進を図るため,都道府県又は指定都市における科学的かつ技術的中核として,関係行政部局,保健所等と緊密な連携の下に,調査研究,試験検査,研修指導及び公衆衛生情報等の収集・解析・提供を行う」としている.その主な業務は,①調査研究,②試験検査,③研修指導,④公衆衛生情報などの収集・解析・提供である.地衛研の骨格をなす業務は多くの自治体において共通である一方,法律による位置付けがないことから,予算,人員,研究の位置付け,組織体系はさまざまである.地衛研の法的基盤,役割などの詳細については,すでに地域保健法成立20年を記念して本誌において企画された2016年の特集に述べた2). 近年,公衆衛生行政においては科学的根拠が強く求められており,地衛研が提出する科学的データの重要性はますます高まっている.地衛研は地域保健法などの法律で位置付けられることなく今日まで続いているが,「感染症法に基づく検査を都道府県知事が行う」とした2016年4月の感染症法の一部改正は事実上,地衛研の感染症検査業務を法制化したものであり,地衛研の機能強化が図られている. 本稿では,近年,急速に進歩しつつある病原体の遺伝子解析を取り入れた地衛研の新たな役割などについて述べ,また,今後のあり方などについて考察する.
著者
吉岡 秀克 松尾 哲孝 住吉 秀明 調 恒明 浜中 良志 二宮 善文
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究において以下の結果を得た。1.マウスV型コラーゲンα3鎖遺伝子の転写調節及び機能解析オリゴキャップ法により遺伝子の転写開始点を決定した。主な転写開始点は翻訳開始点約100bp上流に存在した。次に、この転写開始点上流約L8 kbの遺伝子断片をクローニングし、この遺伝子の基本プロモーター活性を検討した。基本プロモーターは転写開始点上流約300bpの領域に存在した。さらにゲルシフトアッセイ法により、BS1(-130〜-110)、及びBS2(-190〜-170)の領域にDNA/タンパク複合体の存在が認められ、その中でBS2に結合する転写因子はCBF!NF-Yと考えられた。プロα3鎖のN末の23個のアミノ酸よりなる塩基性セグメントが存在する。この塩基性のセグメントに骨由来細胞に対する細胞接着活性がある。このペプチドへ細胞が接着するとアクチンファイバーが形成され、これはRhoキナーゼ阻害剤であるY27632で阻止された。2.III型コラーゲンα1鎖遺伝子の転写調節解析ルシフェラーゼアッセイの結果、ヒト遺伝子のプロモーターの-96〜-34に最小の転写活性が見られた。ゲルシフトアッセイにより、-79〜-63の領域には複数の因子が結合することがわかった。以前より報告されている因子(BBF)は細胞によって、その複合体を形成する因子の槽成が異なると思われた。3.マウスXXIV型コラーゲンα1鎖遺伝子の転写調節解析XXIV型コラーゲンは最近、見出されたコラーゲンであり、主に骨に発現するが、その発現量は非常に少ない。今回、このプロモーター領域のDNAをクローニングし、転写調節機構の解析を行った。その結果、骨肉腫細胞を用いた実験により、このプロモーターにはc-Jun、CREB1、ArF1、ATF2が結合していることを見出した。