著者
高森 順子 諏訪 晃一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.25-39, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
14

阪神・淡路大震災の体験についての手記を集め,その一部を出版した「阪神大震災を記録しつづける会」の手記集には,読み手があらかじめ想定していた震災体験の典型には収まらない体験も含めた,多様な体験が収録されている。その理由を,手記集の成立過程を踏まえて考察した。「震災」という出来事と個人の体験は互いに影響し合う関係にある。加えて,一般に,手記集に収められた手記の内容は,ある特定の目的に適う内容に収斂される傾向がある。従って,通常,手記集を通じて多様な体験を残すことには困難が伴う。それにもかかわらず,「記録しつづける会」の手記集に多様な体験が収録されている理由は,編集者と手記執筆者の対話によって,それぞれの手記,そして手記集が共同構築されたからである。さらに,手記を共同構築することは,手記執筆者が,創られた震災像に抗いながら体験を再構築することであり,そのことを通じて,典型的な被災者像とは異なる「災害体験者」が成立する。これらの考察を踏まえ,最後に,手記集を媒介として災害体験の伝承を行うことが,伝承活動を行う人々の連帯を創り,災害体験のより豊かな伝承の一助となることを指摘した。