著者
鶴谷 千春
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.102-110, 2007-04-30 (Released:2017-08-31)

本研究は,幼児の音素習得の順序に影響を与えている言語に固有の要因を調査することを目的とした。各言語によって,音素の習得順序には差異があることが知られており,出現頻度やその言語における音韻的役割などが,その原因として挙げられる。日本人幼児の言語習得において,後部歯茎摩擦音/破擦音の習得は,言語一般に考えられているよりも早いことが知られているため,[∫][t∫][s]に注目し,母親の子供への話しかけの中での出現頻度と,その音素の現れる環境を調べた。その結果,母親の発話の中では幼児に対して使う幼児語表現の多さから,異なり語数は少ないものの,後部歯茎摩擦音/破擦音の延べ出現数が高くなっていることがわかった。
著者
鶴谷 千春
出版者
The Japan Second Language Association
雑誌
Second Language (ISSN:1347278X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.27-47, 2004-05-01 (Released:2012-09-24)
参考文献数
34

本研究は日本語の第一、第二言語習得過程において、母語の音韻構造がどう作用するかを拗音の習得に焦点をあて、考察するものである。日本語には拗音と呼ばれる口蓋化子音があるが、それを含む特殊モーラは、日本語がモーラ言語であるという制約のため、CVモーラと同じ時間長であることが要求される。しかし、英語を母語とする日本語学習者は、子音、母音の時間長の誤りに加え、口蓋化子音を類似の子音連続 “Cj” とみなし、その典型的な誤用である母音の挿入を行う例がよく見うけられる。 “Cj” 内の/j/が音韻的に子音と母音のどちらに属するかは、日本語また英語においても議論が揺れており、両言語話者の拗音習得のストラテジーはその解明の一端をになうものと考えられる。“Cj” と口蓋化子音の音声学的な類似性を考慮して、子音連続の習得過程を参考に考察をすすめた。一般的に幼児は子音連続の発音のむずかしさを子音の一つを省略することによって避ける傾向がある。幼児が子音連続を簡略化する方法は様々な観点から考えられているが、ソノリティ (聞こえ度) が最もよく言及される要因だと言える。音節の初めでは、子音から母音への聞こえ度の上昇が最も高くなるように子音の省略が行われることから、 “Cj” の簡略化及びその他の誤りのパターンを音韻的構造と関係づけ、観察した。結果は第一言語学習者 (日本人幼児) と第二言語学習者 (英語話者) の拗音の習得過程に明らかな相違が見られた。モーラ時間の制約のため、日本人幼児は母音挿入を行わないが、英語話者には母音挿入をはじめとするモーラ時間をこえた間違いがみられた。さらに、省略する子音の選択にも違いが見られ、両言語における/j/の音韻的位置を示唆する結果が得られた。また、日本人幼児は、拗音の発音にたけているという概念 (幼児語) は、破擦音/t∫/, 摩擦音/∫/の早期習得に負うものが多いことがわかった。
著者
石川 信敬 中谷 千春 兒玉 裕二 小林 大二
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.31-43, 1994
被引用文献数
4 1

熱収支法を用いて実験流域内の融雪特性を求めた.まず標高,斜面,森林密度の3地形要因で流域の特徴を表現し,次に気象要素と各地形要因の関係を調べ,気温と水蒸気量は標高に,風速は標高と森林密度に,日射量は森林密度と斜面に依存することを明らかにした.さらに得られた気象要素と地形要因との関係を用いて基準点の観測値を補正し,流域内任意の標高の融雪熱収支を求めた.本実験流域においては,流域下部では風速と日射に対する森林の遮蔽効果により融雪量は小さいが,標高に伴って森林面積が減少することにより高地程融雪量が増大するという融雪特性が明らかになった.なお全面積の70%は流域下部にあるため,流域全体の融雪量は基準点の約81%であった.
著者
鶴谷 千春 Chiharu TSURUTANI
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.167-180, 2016-07

日本語学習者の増加に伴い,初級以上のレベルでの円滑なコミュニケーションがより必要になってきている。学習者は,日本語の基本的な単語の高低アクセントを学んだあと,それをどうつなぐと母語話者の抑揚に近づけることができるのか,またイントネーションによってどう意図が変わるかという情報は,あまり与えられていない。初期段階のコミュニケーションでは,まず「失礼にならないように話したい」というのが優先される課題であると考え,本稿では学習者が初級段階から使っている丁寧表現「です・ます」に焦点をあてて,その韻律的特徴を考察した。まず,場面別の「です」「ます」表現を使い,東京在住の日本語母語話者に「です・ます」表現の同じ文を丁寧に話す必要がある場面とそうでない場面で発話してもらい,それを別の母語話者に聞かせ,丁寧度の評価点をつけ,音響分析の結果と照らし合わせた。丁寧であるかどうかの判断は,パラ言語情報や,状況などに左右されることから,イントネーションは重視されてこなかったが,母語話者間で丁寧だととられるイントネーションには共通のパターンがあることがわかった。The demands of teaching advanced communication at a level higher than the beginners' level have become more obvious with an increase in the number of Japanese language learners. A key concern of L2 learners of Japanese is the risk of sounding rude in their new language environment. Intonation is one factor that can completely change the interpretation of an utterance. Nevertheless, L2 learners have a limited knowledge of Japanese intonation, such as the use of a falling tone for a declarative sentence and a rising tone for an interrogative sentence.Prosody plays an important role not only in intelligibility but also in speakers' attitudes and emotions. This study focuses on politeness as a variable in investigating possible language specific requirements for Japanese speech. Using desu, masu forms, which are polite forms introduced at beginners' level, two different scenarios, polite and non-polite, were prepared for the same sentence. Ten native speakers recorded sentences for each scenario and ten other native listeners provided politeness scores on their performance.The subject of prosodic features of polite speech has not received much attention in teaching Japanese, since perceptions of politeness can be influenced by various factors and can be difficult to objectively assess. This study identified the common prosodic features used by native speakers in polite speech, which can be used to teach L2 learners the role of these features in listeners' perceptions of politeness.
著者
米谷 千春
出版者
立教大学
雑誌
英米文学 (ISSN:03876764)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.235-260, 2003-03-10