著者
尾崎 博明 越川 博元
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

木材腐朽菌に属する白色腐朽菌により,有機塩素化合物などの各種有害有機物を分解する新しい環境浄化方法を開発することを最終目的として,本研究では、数種の白色腐朽菌(子実体としての"きのこ"を形成するもの、形成しないもの)の最適増殖条件のほか、それらによる上記有害有機化合物等の最適分解条件及び白色腐朽菌が生産する酵素の活性との関連等について検討を加えた。得られた主な結果は以下の通りである。1.当該研究者らは従来、研究用の白色腐朽菌であるPhanerochaete chrysosporium(きのこ無形成)を対象として、Kirkらの培地を基礎としてさらに栄養源を調整した培地により上述した検討を行ってきた。さらに、ヒラタケ(Pleurotusostreatus)、カワラタケ(Coriolusversicolor)、シイタケ(Lentinula edodes)等の食用または一般によく観察される白色腐朽菌(きのこ形成)についても検討を加えたところ、上記培地がそれらの菌の増殖に同様に適当であるが、増殖速度はカワラタケ>ヒラタケ>シイタケの順に大きく、菌種により相違があることが明らかになった。各菌種の最適な培地及び最適環境条件についてはさらに検討を続けている。2.Phanerochaete chrysosporiumはリグニンペルオキシダーゼ(LiP)とマンガンペルオキシダーゼ(MnP)の2種の菌体外分解酵素を生産するのに対し、同様の栄養及び環境条件下において、ヒラタケ、カワラタケ、シイタケはマンガンペルオキシダーゼとラッカーゼ(Lac)を主に生産し、LiP活性は無いかあるいは微弱なものであった。Phanerochaete chrysosporiumが2,6-DCPなどの有機塩素化合物やアゾ染料を分解することはすでに確認しえたが、他の白色腐朽菌による有害有機化合物の分解性については実験中であり、MnPやLacの作用につきさらに詳細な検討を行う予定である
著者
田中 宏明 藤井 滋穂 越川 博元 高田 秀重 鈴木 穣 山下 尚之 小森 行也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

新たな汚染物質として、生活で広く使われている医薬品や化粧品などの日常用品(Pharmaceutical & Personal Care Product,PPCP)が潜在的な環境問題となり始めている。これらの多くは、難分解で、やや極性があるPersistent Polar Pollutant(P3)で、排水処理では取りにくいことが予想される。PPCPが水環境へ流出する状況を把握するため、広範囲な生活排水などを収集する下水道をターゲットに汚染実態と下水道での削減状況を捉えるとともに、バイオアッセイによる毒性データから初期リスク評価を行った。また回分実験によって活性汚泥での分解除去性を検討した。SPE-LC/MS/MS法を用いて47のPPCPを分析した。下水処理場での調査を行った結果、流入水中から多くの医薬品類が検出され、検出濃度のオーダーは10ng/L〜10μg/Lのオーダーであった。カフェイン(10μg/L)、アセトアミノフェン(8.4μg/L)、ベザフィブラート(2.7μg/L)、テオフィリン(2.0μg/L)、クラリスロマイシン(1.4μg/L)、スルピリド(1.1μg/L)などが流入水から高濃度で検出された。生物処理による除去率は-30〜100%であり、物質によって除去率が大きく異なった。オゾン処理により二次処理水中に残留した医薬品の約80%が除去されたが、ジソピラミドやケトプロフェンはオゾン処理によっても約60%程度しか除去されず、オゾン処理後も100ng/L以上の濃度で残留していた。また、生物処理によるリスク削減効果としては二次処理により流入水中で1以上あったハザード比が1以下に削減され,オゾン処理によって0.1以下まで削減された。通常の活性汚泥と不活化処理した活性汚泥による除去速度定数との差を見かけ上の生分解速度定数と定義し、生分解性を評価した。特に抗菌剤以外の医薬品は活性汚泥による除去に生分解が寄与していることが示唆され、抗菌剤以外の医薬品は実際の処理揚での除去率と見かけ上の生分解速度定数に正の相関がみられた。