著者
牛島 大志 田中 周平 鈴木 裕識 雪岡 聖 王 夢澤 鍋谷 佳希 藤井 滋穂 高田 秀重
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.107-113, 2018 (Released:2018-07-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 8

近年, マイクロプラスチック汚染が世界中で注目を集め, 生態系への悪影響が懸念されている。マイクロプラスチックとは粒径5 mm以下のプラスチック粒子である。本研究では日本内湾5ヶ所および琵琶湖における魚7種を対象とし, その消化管中の粒径100 μm以上のマイクロプラスチックの存在実態の把握を目的とした。魚197匹中74匹から140個のマイクロプラスチックが検出され, すべての地点でその存在が確認された。魚1匹あたりから検出されたマイクロプラスチック数は平均1.89個であり, その大半がポリプロピレン (40.7%) とポリエチレン (35.0%) であった。平均粒径の中央値は543 μmであった。摂食方法別にろ過摂食魚類とろ過摂食以外の魚類に分類すると, 前者97匹中54.6%, 後者100匹中21.0%からマイクロプラスチックが検出された。摂食方法によるマイクロプラスチックの誤飲量への影響が示唆された。
著者
高田 秀重
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.261-269, 2018-07-31 (Released:2019-07-31)
参考文献数
42
被引用文献数
2 3

プラスチックによる海洋汚染は21世紀に入り,マイクロプラスチック問題として新局面を迎えた。汚染は海洋表層水だけでなく,海底堆積物,海洋生態系全体に広がっている。プラスチックに含まれる有害化学物質はプラスチックを摂食した生物に移行していることも確認されている。リモートな海域ではその寄与が大きい可能性が示唆された。海洋環境中でプラスチックが長期間残留し,マイクロ化すると取りのぞくこともできないことから,国際的には予防原則的な対応がとられている。海洋プラスチックの主な汚染源は陸上で大量に消費される使い捨てプラスチックである。エネルギー回収も含めたプラスチックごみの焼却やリサイクルよりも,使い捨てプラスチックの削減が優先的に進めらている。解決策は,持続的で循環型の社会形成の中に位置づけ,温暖化等の環境問題全体の解決と調和させ,物質循環の視点から考える必要がある。
著者
山下 麗 田中 厚資 高田 秀重
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.51-68, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
104
被引用文献数
5

プラスチックの生産量は増加傾向にある一方で、廃棄量も増加しており、適切に処理されないものは最終的に海洋へと流出していく。プラスチックは難分解性であるため長期間にわたって海洋中に存在し、鯨類やウミガメ類など様々な海洋生物に摂食されている。特に、海鳥類では高頻度のプラスチック摂食が確認されている。プラスチック摂食による影響は、物理的な摂食阻害とプラスチック由来の化学物質が体内へ移行して起こる毒性の2 つが考えられる。近年、プラスチックに吸着するポリ塩化ビフェニル(PCBs)と難燃剤として添加されているポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)がプラスチック摂食によって外洋性海鳥の体内に移行する証拠が出された。また、動物プランクトンなどの低次栄養段階の生物にもマイクロプラスチックと呼ばれる微小なプラスチックと化学物質が取り込まれていることが報告され始め、海洋生態系全体に汚染が広がっていることが明らかになってきた。このようにプラスチックが汚染物質のキャリヤーとしてふるまうことから、海洋生物のプラスチック摂食が生態系内での新たな汚染物質の暴露ルートとな。 今後、海洋へのプラスチック流出量の増加に伴って海洋生物への汚染物質の負荷量が大きくなり、海洋生態系全体へ脅威が増すと考えられる。
著者
高田 秀重
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2021-05-15

【ポイント】◆全てのプラスチックは遅かれ早かれ劣化しマイクロプラスチックとなり,生態系の隅々まで汚染する.◆マイクロプラスチックは食物連鎖における化学物質,特に添加剤の運び屋になり,ヒトの免疫系への影響が危惧される.◆人類の健康,温暖化抑止のためにも,流域単位で物資が流通・循環するような分散型持続可能な社会の中に,プラスチックフリーを位置付ける必要がある.
著者
高田 秀重 熊田 英峰 高田 秀重
出版者
東京農工大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

鳥島で採取されたアホウドリの雛の吐瀉物10試料をプラスチックとそれ以外の内容物(大部分は魚介類;以下非プラスチックと略す)に目視により分け、それぞれについて重量の測定並びにPCBs、DDEおよびアルキルフェノール類の分析を行った。10試料中9試料からプラスチックが検出された。吐瀉物中のプラスチックの割合(乾燥重量比)は最大66%であった。プラスチックから数十ng/gのPCBsが検出された。この濃度は非プラスチック吐瀉物中の濃度と同程度あるいは一桁低かった。吐瀉物中のPCBs全量に占めるプラスチック由来のものの寄与は10試料中2試料で21%および55%と大きく、プラスチックが生物へのPCBsの輸送媒体になる可能性を示した。しかし、他の8試料ではプラスチックからの寄与は数%程度であった。DDEについても同様の傾向が認められた。プラスチック中のノニルフェノール濃度は数十ng/gであった。一方、非プラスチック吐瀉物からもノニルフェノールは検出され、その濃度はプラスチック中の濃度よりも高かった。特に、プラスチックが含有されていなかった試料からもノニルフェノールが検出されたことから、アホウドリが摂食する魚介類のノニルフェノール汚染が示唆された。吐瀉物中のノニルフェノール全量に占めるプラスチック由来のものの寄与は12%〜36%と有意な寄与が明らかとなった。しかし、非プラスチックからの寄与が全般に大きく、魚介類からのノニルフェノールの取り込みの寄与が大きいことが示唆された。
著者
高田 秀重
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2017年度日本地球化学会第64回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.222, 2017 (Released:2017-11-09)

年間に世界で3億トンのプラスチックが生産されている。その約半分は使い捨てのプラスチックである。廃プラスチックのうち陸上の廃棄物管理からもれた部分が、降雨時の表面流出等により河川、そして海洋へ流入する。ポリエチレンやポリプロピレンは水より密度が小さく、浮いて遠距離輸送される。それらは海洋表層や海岸で紫外線に曝され、劣化し、破片となっていく。劣化、破片化が進み5mm以下になったプラスチックがマイクロプラスチックと呼ばれている1)。これらのプラスチック製品の破片の他に、洗顔料や化粧品の中のスクラブ等のマイクロビーズ2)、化学繊維の衣類の洗濯屑3)、スポンジの削れかすなどの寄与も指摘されている。世界の海洋に5兆個、27万トンのプラスチックが浮遊していると推定されている4)。これらのマイクロプラスチックの地球化学的な意味について本稿では考えてみたい。
著者
田中 周平 垣田 正樹 雪岡 聖 鈴木 裕識 藤井 滋穂 高田 秀重
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.III_35-III_40, 2019 (Released:2020-03-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

本研究では,下水処理場の処理工程におけるマイクロプラスチック(以下,MPs)の挙動と琵琶湖への負荷量を把握することを主目的として,2017年11月~2018年2月に4か所の流域下水処理場(分流式)の流入水,放流水,処理工程別において100μm以上のMPsを,流入水と放流水ではさらに10~100μmのMPsの分析を行った.その結果,下水,処理水,汚泥,スカムなどから合計30種類のMPsが検出され,流入水中のMPs濃度は158~5,000個/m3であった.放流水中のMPs濃度は0.3~2.2個/m3であり,放流先の琵琶湖水中のMPs濃度と同等であった.一方,10~100μmのMPsの除去率は76.3%であった.100μm未満のMPsの除去は急速砂ろ過を行っても不十分であると示唆された.4つの下水処理場からの合計負荷量は501,630個/日と推計され,晴天時の琵琶湖流入河川からの総負荷量とほぼ同じであることが示された.
著者
磯部 友彦 中田 典秀 間藤 ゆき枝 西山 肇 熊田 英峰 高田 秀重
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.621-625, 2002-09-26 (Released:2010-05-31)
参考文献数
13
被引用文献数
7 7

プラスチック製の食器等について, 油脂性食品疑似溶媒であるn-ヘプタンを用いた溶出試験を行なった。50種の製品の分析から, 16試料で有意にノニルフェノールが溶出し, そのうち5試料で特に高濃度 (21~2485ng/cm2) で検出された。ポリスチレンおよびポリプロピレン製品からの溶出が最も大きかったものの, 検出量には大きな変動が認められ, その変動には明確な傾向は認められなかった。今後さらに密で広範囲な調査を行ない, プラスチック製食器に起因する内分泌撹乱化学物質の人体への曝露量を評価すると共に, リスクを軽減するための施策を講じる必要があると思われる。
著者
大塚 佳臣 高田 秀重 二瓶 泰雄 亀田 豊 西川 可穂子
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.35-42, 2021 (Released:2021-03-10)
参考文献数
77
被引用文献数
2 4

本稿では, マイクロプラスチック (MP) がもたらす環境影響を概観した上で, 水環境での動態および海域での生態系への影響, ならびにMPの分析手法, 特に, 粒径が小さいMPの分析手法に関する最新の知見を紹介した。陸域・河川におけるMPの状況について, 日本全国の河川でのMPの濃度, 日本の陸域から海洋に排出されるプラスチックの総量を推定した。海域におけるMPの状況について, 東京湾におけるMPの動態, 海洋生物におけるMPの取込・摂食の実態を示した。MPの分析方法について, サンプリング, 前処理, 機器測定の手法及びその課題について整理し, 技術的展望を示した。MPの環境中での動態ならびに生態系への影響を明らかにすることは, 社会システム全体でのプラスチックの適切な利用・管理のための有効かつ効率的な対策を検討する上で不可欠である。本稿で紹介した情報がその一助となることを期待する。
著者
熊田 英峰 高田 秀重 ザカリア モハマド パウジ
出版者
日本有機地球化学会
雑誌
Researches in Organic Geochemistry (ISSN:13449915)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.13-25, 2000
参考文献数
35
被引用文献数
3

In order to investigate chemical fingerprints of different combustion sources, polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs) of airborne particulate samples were collected on three different occasions in Beijing (China), Tokyo (Japan) and Malaysia. Total-PAHs concentrations, including methyl- and dimethylphenanthrenes and sulfur containing hetero-aromatics (PASHs), were found to be the highest in Beijing (winter) samples followed by Beijing (summer), Tokyo, and Malaysia with readings of (405, 437), (20.4, 41.1), (8.43-43.1), and (2.64-42.6)ng/m<sup>3</sup>, respectively. Some of compositional differences observed could be due to the difference in combustion sources among the three countries rather than environmental alterations. Using ratios of benzo[ghi]perylene to benzo [e] pyrene (BghiP/BeP) and dimethylphenanthrenes to fluoranthene (DMP/Flu), Malaysian aerosols were elucidated from Tokyo and Beijing samples, suggesting high BghiP/BeP and DMP/Flu ratios as potential molecular markers of biomass-burning in the tropical region. Retene and 1,7-DMP/2,6-DMP ratio had previously been suggested as molecular markers for wood- or conifer-burning, were found to be useless in tropical region. Although PASHs were expected as molecular markers for the burning of sulfur-rich coal in China, ratios of PASHs to total-PAHs had showed only a slight enrichment in Beijing (winter) samples which was significantly affected by coal-combustion as compared to other samples in this study.
著者
高田 秀重
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.10_44-10_48, 2019-10-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
26
著者
大河内 博 吉田 昇永 柳谷 奏明 新居田 恭弘 梅澤 直樹 板谷 庸平 緒方 裕子 勝見 尚也 高田 秀重
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

1.はじめにプラスチック生産量は年々増加しており,総生産量は1950年には年間200万トンであったが,2012年には3億トン,2050年には400億トンに達すると推計されている(Zalasiewicz, et al., 2016).その結果,河川を通じて大量の海洋ブラスチックゴミが発生している.ブラスチックゴミのうち,直径5 mm以下のプラスチック片の総称であるマイクロプラスチック(microplastics,; MPs)は,海洋生物が餌と誤認して摂食する物理的障害とともに,プラスチック添加剤や環境中で表面に吸着した有害有機化合物が体内に移行して生体に影響を与えることが懸念されている.2.大気中マイクロプラスチックの現状 最近では河川,水道水,ペットボトル,道路粉塵,室内空気でもMPsが検出されている.米国の推計によると,MPsが体内に取り込まれる経路は食物と呼吸が同程度でそれぞれ年間6万個程度,ペットボトル水から年間9万個を摂取している(Cox et al. , 2019).ただし,大気中マイクロプラスチック(Airborne microplastics; AMPs)の計測例は限られており,その実態はよく分かっていない.AMPsに関する先行研究はフランス・パリ郊外(Dris et al., 2016, 2017)や中国・広東省(Cai et al., 2017)で行われている.ただし,大部分は大気エアロゾルではなく,フォールアウトである.都市部におけるAMPsの形状は繊維状が多く,フィルム状,破片状,発泡体は少ない.同定されている主要材質はポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレートである(Dris et al., 2016, 2017; Cai et al., 2017, Liu et al., 2019).大気エアロゾル中AMPsの報告例は数例に限られるが,パリ(フランス)では室内空気で1 – 60 本/m3の繊維が存在しており,その66 %がセルロースなどの天然繊維である(Dris et al., 2017).一方,屋外空気では0.3 – 1.5 本/m3(50 – 1650 µm)の繊維が浮遊している.イラン南岸部アサルイエの都市大気でも大部分は繊維であり,空気では0.3 – 1.1 本/m3(2 -–100 µm)であるが,天然繊維か合成繊維(プラスチック)かは不明である(Abbasi et al., 2019).上海(中国)の都市大気では0 – 4.18 個/m3(23 – 9555 µm)であり,67 %が繊維状である(Liu et al., 2019a).また,同地点で0.05 – 0.07 個/m3(12 – 2191 µm)であり,43%が繊維状という報告もあり(Liu et al., 2019b),かなりばらつが大きい.AMPs研究はほとんどが都市大気に関するものであるが,最近になってマイクロプラスチックが大気を通じて輸送され,フランス・ピレネー山脈で365個/m2/日(65 µm以上)の沈着量であることが明らかにされた(Allen et al., 2019).この沈着量は都市部とほとんど変わらないことから,大気を通じたマイクロプラスチック汚染が広域的に起きていると可能性を示すものであり,NHKでも取り上げられた.また,山間部では都市部とプラスチック形状が大きく異なり,破片状,フィルム状AMPsが多く,繊維状AMPsは少ないことが明らかにされている.3.大気中マイクロプラスチック研究の課題現状では研究者が独自の方法で行った結果を報告しており,単純に比較することはできない.したがって,AMPsの採取法,前処理法,同定法に関する統一的手法開発が求められている.講演では, AMPs計測用の大気中エアロゾル捕集材,前処理法,計測手法に関する我々の検討結果について紹介するとともに,都市大気および自由対流圏大気中AMPsの実態について,その一端を紹介したい.
著者
高田 秀重 綿貫 豊
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

海洋漂流プラスチックおよび海岸漂着プラスチック中に添加剤由来および周辺の海水中から吸着してきた有機汚染物質が1ng/g~10000ng/g程度の濃度で含まれることを明らかにした。これらの有機汚染物質はプラスチックが生物に摂食された場合に、生物の組織中に移行することを、海鳥を対象にして、明らかにした。添加剤由来の化学物質の海鳥への移行において、海鳥の胃内のストマックオイルという油に富む消化液による溶出が鍵となっていることを室内溶出実験により明らかにした。今後、摂食プラスチックを介した化学物質の生物への曝露について、その規模と広がりを明らかにしていく必要がある。
著者
綿貫 豊 佐藤 克文 高橋 晃周 岡 奈理子 高田 秀重
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

海鳥の移動と体組織の汚染物質をつかって汚染分布をモニタリングする新しい手法を開発した。ミズナギドリ類2種130個体以上をバイオロギング手法で追跡した。繁殖期において、尾腺ワックス中の残留性有機汚染物質濃度は異なる海域で採食する個体毎に異なり、PCBs,DDTs,HCHsでそのパタンが違った。越冬中に生える羽の水銀濃度にも、異なる海で越冬期を過ごす個体毎で差があった。これらの地域差は汚染物質の放出源と拡散によって説明できた。この手法によって海洋汚染を海洋区プラニングで必要とされる空間スケールで測定できる。
著者
古米 弘明 片山 浩之 栗栖 太 春日 郁朗 鯉渕 幸生 高田 秀重 二瓶 泰雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

合流式下水道雨天時越流水(CSO)由来の汚濁負荷が、都市沿岸域における雨天後の水質に及ぼす影響を定量評価し、お台場のような親水空間における健康リスク因子の動態評価手法の開発を試みた。多数の分布型雨水流出解析結果に基づき、降雨パターンの類型化によってCSO発生を大まかに特徴づけることができた。また、ポンプ場や下水処理場からの汚濁負荷を降雨パターンごとに表現できるモデルを構築し、干満の影響を考慮した3次元流動・水質モデルによる大腸菌の挙動予測が可能となった。
著者
田中 宏明 藤井 滋穂 越川 博元 高田 秀重 鈴木 穣 山下 尚之 小森 行也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

新たな汚染物質として、生活で広く使われている医薬品や化粧品などの日常用品(Pharmaceutical & Personal Care Product,PPCP)が潜在的な環境問題となり始めている。これらの多くは、難分解で、やや極性があるPersistent Polar Pollutant(P3)で、排水処理では取りにくいことが予想される。PPCPが水環境へ流出する状況を把握するため、広範囲な生活排水などを収集する下水道をターゲットに汚染実態と下水道での削減状況を捉えるとともに、バイオアッセイによる毒性データから初期リスク評価を行った。また回分実験によって活性汚泥での分解除去性を検討した。SPE-LC/MS/MS法を用いて47のPPCPを分析した。下水処理場での調査を行った結果、流入水中から多くの医薬品類が検出され、検出濃度のオーダーは10ng/L〜10μg/Lのオーダーであった。カフェイン(10μg/L)、アセトアミノフェン(8.4μg/L)、ベザフィブラート(2.7μg/L)、テオフィリン(2.0μg/L)、クラリスロマイシン(1.4μg/L)、スルピリド(1.1μg/L)などが流入水から高濃度で検出された。生物処理による除去率は-30〜100%であり、物質によって除去率が大きく異なった。オゾン処理により二次処理水中に残留した医薬品の約80%が除去されたが、ジソピラミドやケトプロフェンはオゾン処理によっても約60%程度しか除去されず、オゾン処理後も100ng/L以上の濃度で残留していた。また、生物処理によるリスク削減効果としては二次処理により流入水中で1以上あったハザード比が1以下に削減され,オゾン処理によって0.1以下まで削減された。通常の活性汚泥と不活化処理した活性汚泥による除去速度定数との差を見かけ上の生分解速度定数と定義し、生分解性を評価した。特に抗菌剤以外の医薬品は活性汚泥による除去に生分解が寄与していることが示唆され、抗菌剤以外の医薬品は実際の処理揚での除去率と見かけ上の生分解速度定数に正の相関がみられた。